少年と白蛇

らる鳥

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 幸い、支流の元となっている水場はライサ川から然程離れた場所では無く、更に運良く川熊もその水場で水浴び中の所を発見する。
 いやもしかしたら川熊は餌を取りに動く時以外は、ずっとああやって水浴びをしながら過ごしているのかも知れない。
 仮にも魔物の一種である川熊が、単なる獣の熊とは生態を大きく異にしても決しておかしくはない。
 まあどちらにせよ、見つけた以上は狩るだけである。
 彼我の距離は充分にあった。寧ろ距離が開き過ぎで、必殺を狙うのならばもう少し距離を詰める必要があるほどだ。
 けれどこれ障害物のあまり多くない開けた水場であるこの場所で、これ以上に距離を詰めようとすれば見つかる可能性が高い。
 ヨルムが胸元から這い出てシュルシュルと声を鳴らす。
 きっと心配してくれてるのだろう。でも今回の敵とは、僕は一人で戦う心算だ。
 僕はヨルムを指先で撫でて、心配が無い事を伝えて宥める。
 ヨルムが頼りになる事は知ってるけど、頼りっぱなしじゃ成長が出来ない。
 それに折角の贈り物の材料は、胸を張って僕自身の手で仕留めたかった。
 撫でる指を止め、僕は一つ大きく息を吐くと、弓に矢を番えて静かに構える。
 少し遠いが、強く集中し、矢の飛ぶ様をイメージしていく。
 大丈夫だ。此れなら当てれる。
 命中すると確信が持てて放った矢を外した経験は然程無い。
 狙うは喉。此処を射れば、殺せ無いまでも呼吸を乱せるだろう。
 呼吸を乱して邪魔出来れば、剣を抜いての近接戦闘を強いられる事になった際にも有利に働く。
 解き放たれた矢は、勢いよく空を割き、そして川熊の喉を深々と貫いた。

 複合弓の威力は矢張りすさまじく、距離があったにも関わらず矢の半ば程が川熊の喉に埋まっている。
 しかし、想定通りその一撃だけで川熊を屠る事は叶わない。その生命力は下級であれど流石魔獣と言うべきか。
 咆哮こそは喉の矢に邪魔されて妙な音を漏らすばかりだが、瞳に宿る怒りは凄まじく、ダメージにもひるんだ様子を見せずに此方に向かって突進して来た。
 川熊がこちらに辿り着く前に、もう一撃を弓で放つ事は出来るだろう。
 ならば何処を撃つべきか。頭部を貫ければ如何に生命力溢れる魔獣でも致命傷になる可能性は高い。
 しかし頭部の中身は硬い頭蓋骨に守られており、矢の当たる角度次第では弾かれる恐れがあった。
 今の状況で一番拙いのは、川熊の突進をまともに受ける事だ。
 けれど逃げない。矢を放てる機会があるのなら、其れを持って突進を止めれば良いだけの話である。
 狙うべきはただ一つ。
 地を駆ける川熊の身体を支える、或いは移動させる四肢の一本、狙い易い前足の、人でなら肘近く。
 川熊の突進の勢いは正直怖かった。
 でも焦りは禁物だ。焦った矢を放つくらいなら、素直に真横に走って逃げた方がマシなのだ。
 曲がる為には川熊だって勢いを落とした筈。
 でも僕は矢をもって応じる事を選んだのだから、突進の勢いに動揺している暇など無い。
 緊張に乱れる呼吸を整え、焦らず、慌てず、充分に引き付けてから……、矢を放つ。
 放つ瞬間に僕は少し笑みを浮かべた。この命に関わる緊急時でも、矢が当たる確信を持てたから。
 
 突進して来てた川熊の身体が転がり、地を滑った。
 前足に突き刺さった矢が突進の邪魔をした結果である。
 大きな隙を見せた川熊に、僕は駆け寄りながら盾を構え、鞘から引き抜いた剣を振り下ろす。手応えと共に血飛沫が舞う。
 けれど近接戦闘でも攻撃が通じる事に僕が僅かな安堵を覚えた瞬間、地に倒れたままの川熊の前足が跳ね上がる。
 咄嗟に構えた盾の表面を鋭い爪が削り、僕は衝撃に軽く宙を舞った。
 確かに僕は身体が成長し切っておらず、重量も控え目である。
 それでも下からの、しかも不自然な体勢からの一撃で軽々と飛ばされるとは、流石は熊だ。恐るべき膂力と言えるだろう。
 盾を身体の近くで確りと構えてた為に、飛ばされるのみで大した被害は無いのは幸いだ。
 中途半端に盾が身体から離れた状態で受けていれば、さっきの一撃は僕の腕を圧し折ったかも知れない。
 けれど今の攻防で確信が持てた。
 僕は攻撃、防御共に川熊を相手に通用すると。
 川熊が構える僕の前でゆっくりと立ち上がるが、その動きは鈍い。
 喉と前足の矢、転倒、そして剣の傷、それらが確実に川熊の生命力を奪っているからだろう。
 だからってもう気は抜かない。油断も安堵も後回しにして、先ずは確実に着実に、眼前の獲物を仕留めるのだ。


 大きな荷物を抱えて宿への道を歩く僕は、正直かなり疲労していた。
 日も大分暮れて来ている。
 川熊との戦いは、僕の剣が奴の心臓を貫く事で終わったのだが、本当に大変なのはそこからだったのだ。
 僕は倒した川熊から目的の青い毛皮と薬になるらしい胆嚢、そして肉の一部を戴く事にしたが、解体もかなり大変だった。
 心臓を潰してしまった上に重量も凄まじく血抜きはとても困難だったが、幸い水場が戦場だったので血を洗う作業は直ぐに行えたのだけは救いである。
 ヨルムが巨大化して、川熊を運ぶのを手伝ってくれた事も大きい。
 そして折角苦労して倒した獲物なのだからと、肉も出来る限り持って帰ろうと欲張ったのも間違いだった。
 町からそれなりに遠い場所に来ている事を、戦いを終えて気の高揚していた僕は軽くみてしまったのだ。
 大きな荷を背負ってしばらく歩けば気分も冷めて、今更ながらに欲張り過ぎであると気付いたけれど、一度荷入れた物を捨てるのは根が貧乏性の僕にはどうしても躊躇われてしまう。
 トラブルでもあれば直ぐに荷を捨てる決意も出来たのだろうが、荷の重み以外は至って順調な帰り道だった。
 宿に帰り着いたらおじさんにこの川熊の肉を焼いて貰って、思う存分食べる事だけを心の支えに足を進める。
 川熊の肉は普通の熊に比べて獣臭が随分薄いらしい。食べてる物が違うのか、それとも水辺に住むからだろうか?
 何れにせよ食べるのには適した、美味な肉だと聞いてるので楽しみだ。楽しみだから、まだ頑張れる。
 荷を減らさなかった事は無駄じゃないんだ……。
 少しふらつきながらも漸く宿に辿り着いて扉を開いた途端、僕の身体は急に誰かに抱きすくめられた。
「ユー君久しぶりだ! 会いたかったよ」
 久しぶりに聞く声は、旅に出ていた食の神の神官戦士、カリッサさんの物だ。
 でも抱き締められた事に対する恥ずかしさより、そして無事の再会の喜びより、少し珍しい食材を確保した途端に帰って来る彼女の嗅覚に先ず驚く。
 カリッサさんに抱き締められたまま、宿のおじさんと目が合った。
 何故か何かを期待する様な、或いは縋る様な視線を僕に向けてる。多分きっと肉の在庫が心配なのだろう。
 大丈夫。今日はお土産があるし、近い間に猪でも狩りに行く予定もある。
 何だか少しおかしくなって、ちょっと気が抜けてしまう。
 カリッサさんに話したい事は沢山あった。
 森から溢れそうだった暴れ猿、二人の新しい冒険者、他にもキラータイガーや、色々、沢山。
 そして聞きたい事もある。
 海魚の味はどんなだったか、或いは旅で何があったのか等。
 でも取り敢えずは此れを言おう。
「おかえり、カリッサさん。ただいま、おじさん。今日は川熊の肉を手に入れて来たよ。直ぐに焼いて貰えます?」
 とても疲れてはいるのだけど、お腹がとても空きました。



 ユーディッド
 age13
 color hair 茶色 eye 緑色
 job 狩人/戦士 rank3(下級冒険者)
 skill 片手剣3 盾3(↑) 格闘術2 弓5 野外活動3 隠密2(↑) 気配察知3 罠1 鍵知識1 調薬1
 unknown 召喚術(ヨルム)
 所持武装 鋼のブロードソード(高) 鋼のショートソード(高) 革の小盾(高) 複合弓(高) 中位魔獣の毛皮マント(高) 革の部分鎧(高)


 ヨルム
 age? rank6(中位相当)
 skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚
 unknown 契約(ユーディッド)


 カリッサ・クラム(guest)
 age18 
 color hair 赤色 eye 赤色 (skin 褐色)
 job 神官(食神)/戦士 rank5(中級冒険者)
 skill 両手剣5 片手剣3 槌鉾3 格闘術3 神聖魔法5 野外活動1 気配察知1 調理4 乗馬3 その他
 unknown 食神の祝福(身体能力上昇、食料消費3倍)
 所持武装 鋼のグレートソード(高) 鉄の槌鉾(並) 鋼のコートオブプレート(高)



 此れまでの経験や訓練によりユーディッドの盾と隠密が上昇しました。また弓(並)が複合弓(高)に更新されました。
 カリッサ・クラムのステータスが更新されています。
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