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しおりを挟む召喚術はとても珍しい技能らしい。
術と言っても系統のある物じゃ無く、才能と言うか相性、そして出会いによって会得するのだそうだ。
此れは僕の知識じゃなくてヨルムの知識なので本当にそうなのかは知らない。
でも僕が召喚術を会得した経緯を考えたら、本当なのだろうと僕は思ってる。そもそもヨルムを疑う理由が僕には無いし。
僕が冒険者になったばかりの頃、森で傷付いたヨルムに出会った。
突然出くわしてしまった巨大な白蛇の姿に、僕の幸運も、人生も此処までかと諦めつつも最後まで粘ろうと小さなナイフを握りしめる。
けれどその時頭の中に声が響き、僕は巨大な白蛇に契約を持ち掛けられたのだ。
曰く、敵意は無い。
自分は魔物とは違う幻獣と言う存在で、傷付き死にかけている。
声が聞こえるのなら相性が良いので契約が可能だ。
守護を誓うので身体の中に召喚獣として住まわせて欲しいと。
正直突然の事でその話は殆ど理解出来なかったが、白蛇が僕を傷つける気が無い事と、生を半ば諦めつつも一縷の望みに縋っている事は伝わって来た。
だってその時の僕も生きる手段が他に無くて、何とか食べて行こうと必死の思いで冒険者になったから。
だから多分白蛇の気持ちに共感したのだ。一緒に生きて行こうと、心の底から思えたのだ。
それ以来はヨルムと名付けた白蛇と僕は常に一緒に過ごしてる。
ヨルムが身体の中に居る時は、僕には小さな蛇みたいな文様が体表に現れるのだが、傷が癒えてからはなるべく外に出て貰っていた。
別に中に居られるのが嫌と言う訳じゃ決して無いが、それより傍に居て貰えた方が寂しくなくて嬉しかったから。
ゆったりとした服を身に纏い、普段ヨルムはその中で僕に巻き付いてる。動き回られるくすぐったさにも直ぐに慣れた。
一人で過ごすよりは二人……、一人と一匹?で過ごす方が僕は楽しい。
召喚術を使う事はヨルムに言われて秘密にしているので他の冒険者とは滅多に組まなくなったけど、それでも僕は日々満足だ。
傷付き、動きを鈍らせたゴブリンに止めの一撃が突き刺さる。
悲鳴も薄れて身体の力を失っていくゴブリンに、それでも油断せずに僕は刃を捻った。
完全に命の火が消えたゴブリンの身体から小剣を抜くと、支えを失い崩れ落ちて行く。
少し手間取ってしまった。戦い方の手解きをしてくれてる先輩達に見られたら、ちょっと叱責を受ける戦いぶりだったかも知れない。
見ればヨルムの方の戦いはとっくの昔に終わって居て、僕の邪魔をせぬ様にと蜷局を巻いて待っていた。
勿論ヨルムは僕よりずっと強いので当然だけど、でも此れでも僕と出会う前に比べたら随分と弱くなったらしい。
器である契約主の僕の力が小さいから、大きな力は発揮できないのだとヨルムは言う。
それを責められた事は無いけれど、だからこそ少し悔しいのもまた事実だ。
そちらへと手を伸ばせば、ヨルムはこちらに巻き付きながら小さく小さくなって行く。
ちょっと冷たい鱗の感触が僕に安心を与えてくれた。
小剣の血をボロ布で拭ってから、鞘に納める。一応は拭ったが、細かい脂は取り切れていない。
帰ったら手入れをしないと、そんなに高価な代物では無い小剣の切れ味は直ぐに鈍ってしまう。
地面に捨てた弓を回収し、土埃を払う。戦闘中に踏んだりはしなかったので歪みも発生していなかった。
取り敢えず一安心だ。装備の破損が無いのなら、今回の依頼は黒字で確定する。
矢の消耗は仕方が無い。弓矢はそう言う武器だから。
僕は討伐の証拠となるゴブリンの耳を切り取り、彼等の武器も鉄製の物だけは回収した。
ボロボロで見るからに安物だけれど、それでも鍛冶屋に行けば鉄材として引き取ってくれる。ちょっとした小遣い稼ぎだ。
本当はアンデッド化を防ぐ為にゴブリンの死体は燃やした方が良いのだけれど、燃やす為の油もそれなりの値段はする。出来る限り支出は抑えたい。
幸い森の中なら、血の匂いに惹かれた獣達が片付けてくれるだろう。
寧ろ僕も一緒に片付けに掛かられても堪らないので、早々にこの場を去る事にした。
町に戻って依頼料を受け取ったら、さて今晩は何を食べよう。
「ヨルムは何が食べたい? 僕は、そうだね。シチューと、鹿肉のステーキなんか久しぶりに食べたいな」
僕と同じでヨルムも調理された物を好む。
宿のおじさんは僕がヨルムを連れてる事を知っている。多分只のペットの蛇だと思ってるのだろうけど、ヨルムに与える分を少しだけサービスしてくれたりもするのだ。
勿論生でも一応は食べれて、昔はずっとそうしていたらしいが、どうせ食べるなら美味しい物の方が嬉しいと言う。僕も全くの同意見だ。
美味しい物を食べれる時は、ちゃんと生きてるって事を実感できるから。
今日も僕等は一人と一匹で一緒に生きてる。
ユーディッド
age13
color hair 茶色 eye 緑色
job 狩人/戦士 rank2(下級冒険者)
skill 片手剣1 盾1 弓3 野外活動2 気配察知1 罠1 鍵知識1 調薬1
unknown 召喚術(ヨルム)
所持武装 鉄の小剣(並) 軽盾(低) 弓(並) 厚手の服(並) 厚手の革マント(並)
ヨルム
age? rank4(中位相当)
skill 縮小化 巨大化 硬化 再生 毒分泌 特殊感覚
unknown 契約(ユーディッド)
ゴブリン(enemy)
rank1~2
下位の妖魔の代表格のような存在。繁殖力が非常に強く他種族のメスの胎を借りても増える。
個体による能力差が大きいのがこの種の特徴。更に上位種は戦士や魔法使い、或いは王等のバラエティに富む。
また魔物の中では知恵が働く方なので、迂闊に巣穴に踏み入った格上冒険者が罠に嵌って殺されるような事故も少なくは無い。
rankはギルドの評価で上限が10。それ以上は英雄や伝説の存在扱いです。
1~3が下級、4~6が中級、7~10が上級となります。上級に辿り着けるのは冒険者の中でも1~2%以下です。
魔物の場合は下位、中位、高位と表現します。魔物には魔獣や妖魔等の分類があり、下位妖魔や中位魔獣と言った表現がされます。
skillは個人の技能を示します。一応の上限10ですが、特に優れた才能の持ち主はそれ以上に上昇する事もあります。
目安として、3あればベテラン、5あれば一流、7以上は達人、10以上は英雄です。
戦闘スキルが、2~3あれば町の兵士級、4~5あれば騎士級、6あれば小さな都市ならTOP級、7~8あれば小さな国ならTOP級、9以上は大国でも希少な人材。
武装の品質表示は通常は最低~最高。例外にアーティファクトやレジェンドがあります。
品質表示はあくまで品質を示す物に過ぎず、銅の武器(最高)が鋼の武器(並)に勝る訳ではありません。
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