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5、夢現、霧晴れて
しおりを挟む━━ここはどこだろう?
あれから、お茶会のような夕食をワイワイ食べた。家族で囲んで食べたことなんて小さいときしかない俺には新鮮で、温かかった。父さんは仕事、母さんは二人だと家事に掛かりきりになる。必然的に一人で飯を食う。当たり前だと思っていた。
火車車輪の少年は学ランを来ていて、中学生と言っていた。幼さが残る小柄で元気な少年・神楽大。
「へへ! 兄ちゃん出来た! 何かあったら言ってくれよな! ばびゅーん! って兄ちゃんとこ行くかんな! 」
逆立つ短髪を揺らしながら、にかっとする。純粋すぎて目がくらみそうだ。
メガネにタンクトップ、短パンにフリフリエプロンという、直視を控えたいスタイルだった佳樹さんの手料理は、思った以上に美味しかった。
お酒が入ったのか、真っ先に出会った千種さんが脱皮を始めて、そこで彼女が蛇女なんだと知るびっくりイベントがあったり。ああ、足を使わずに腕で這ってきたのは、習性……。
でも、誰も彼もが温かかった。まだ半分しか出会えていないけど。佳樹さんと俺以外に人間いるのかな?
色々と騒ぎ、気がつくと皆でそこに寝てしまっていた。
━━俺は霧の中を歩いていた
遠くに人影が見える。紫の髪。 做々瘰さん?フィット感のある黒いトップス、白いミニスカート、黒いニーハイソックス。俺の知っている做々瘰さんはセーラー服だけど、何だか違和感で。
耳の上を括ってサイドテールを作っているのも違和感で。
無表情のまま、歩いていく。何だか胸騒ぎがして後を追い掛ける。変わらず周りは霧で囲まれていて、どこを歩いているのかもわからない。ただただ目印は做々瘰さんだった。追い掛けなくちゃいけない。そんな気がした。俺は忘れてはいない。『私は認めてない』そういったことを。
だけど、感情表現が苦手だから誤解も多かったんじゃないかと思う。分かってくれないならいっそ、とか考えてしまう気がして、すごく心配だったんだ。まるで別人みたいな格好で、『私は認めてない』といったときのあの感情は……"嫉妬"。彼女は誰かに嫉妬している。それは誰なのか。きっと探しているんだ、"嫉妬対象"を。
なんでそう思うんだろう。なんで俺は必死に彼女を追うんだろう。なんで、なんで……"危険"だと思うんだろう。ただただ霧の向こうの做々瘰さんを追い掛けた。
どれくらい追い掛けたろう。俺に戦慄が走る。
━━彼女の前に誰かがいる!
遠くからでも伝わる做々瘰さんの敵意を感じた。
「……見つけたわ。あなたが! 」
俺は耳を疑う。出会ったばかりだからかもしれないが、彼女があんな大きな声を発したのを始めて聞いた。本気だ! 何となくそう思った。だから……。
「ダメだ!! 做々瘰さん!! 」
俺は叫んだ。同時に視界が開け、驚いて振り向いた彼女と対峙する相手の顔をはっきりと視認した。
相手はよく知る人間だった。嘘だろ?!
━━俺はそいつの名前を叫んだ
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