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第一章 とある誘拐事件と探偵の青年 第1話 誘拐された少女
しおりを挟む━━10年前、とある住宅街で、惨殺事件が起きた。その犯人は未だ、行方不明
当時のニュースでは、前代未聞の殺人事件として世間を賑わせた。住宅街、人目の十二分にある場所での、堂々とした犯行。誰もが、犯人がすぐ捕まると信じていた。しかし、昼間の堂々たる犯行にも関わらず、目撃者の証言が役に立たない。………たったひとつの証言に対して以外は。それは………………………………。
━━この家の一人娘が連れ拐われた
大学准教授・村主要二の娘、村主杏樹、当時8歳。多感な年頃の少女が誘拐されたことは、すぐにひろまった。
准教授夫妻と同居していた、彼の両親は無惨にも、殺されてしまった。始まりの合図の発砲音とともに絶命した、杏樹の曾祖父母。准教授がいない隙にと、性的暴力を受け、精神的にも恐怖を与えた上で、全裸で絞殺された母。村主は運悪く、三人を殺し終わった場所に帰宅し、腹上死ならぬ、腹下死させられた妻を目の当たりにした。彼女の中にまだ居座る不甲斐な異物。犯人もまた、興奮し、行為をやめてはいなかった。彼女はもう絶命しているというのに。締め付けたまま死後硬直してしまったために、犯人の動きは常軌を逸して続いていた。目を見開いたまま、こちらを向き、乾ききらない涙が直前まであがらい、生きていたことを意味していた。
村主には、こんな仕打ちをされる謂れはなかった。犯人もまた、村主を知らない。村主がいることを認識した犯人。彼は笑っていた。わかっていたのだ。村主には、何も出来はしないと。ゆっくりと、快感に身震いしながら、異物を引き抜く。荒ぶるそれは、まだそそり立ちながら、村主を絶望の淵に追いやった。……村主は、両親の安否を確認する暇も、警察に通報する余裕もなく、犯人が拾った銃で、絶命した。
だが、犯人は見誤っていた。シャワーを浴び、服を着替え、悠然とその家を出た彼の目の前に、可憐な少女が首を傾げて立っていた。
「おじさん、だぁれ? お父さんのおともだち? 」
犯人は、返答に窮した。快楽殺人を犯した人間とは思えない。……否、彼はまた笑っていた。
「……そうだよ。お父さんたちは出掛けてしまったんだ。だから、おじさんが今日からお父さんだよ」
犯人は、わけがわからず、何も発せずにいる少女の手を引き、歩き出す。……家宅からは、銃声音が三回なり、悲鳴も上がったにも関わらず、誰も野外に出たり、窓から覗いたりしなかった。巻き込まれたくない一心で……。だから、一致した証言は、犯人が少女の手を引き、歩き出した背中を目撃したに過ぎなかった。皆、近隣である恐怖に、犯人がいなくなることばかりを願い、なにもしなかった。
━━それが、すべての、ことの顛末だ
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