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プロローグ
しおりを挟む━━高校、それは彼女にとってかけがえのないものだった
卒業式当日。神凪心結
は、いつもより早く身支度をしていた。最後の日くらい、早く行き、最後まで居たかったから。
彼女は難病を抱え、高校生活三年間の内、半年ほどしか登校出来なかった。ギリギリ成績で卒業資格を得ていた。だからこそ、最後の日くらい頑張りたかったのだ。大好きな友達と一緒に卒業したい。ただ、それだけのために。
そんな彼女に残酷な現実が突き付けられる。
学校までは徒歩で十分ほど。一時間前になり、いそいそと靴を履いた瞬間だった。
『ピンポーン』
玄関のチャイムがなる。
「はい。……え? お早うございます。どうされたんですか? 」
母の声が開いたリビングから漏れ聞こえた。
「はい、心結。教頭先生よ。出てちょうだい」
いつも優しい教頭先生。頷き、何の用だろうと玄関の扉を開けた。
「教頭先生、お早うございます。どうしたんですか?」
笑顔で対応する。
「お、お早う。神凪さん……。あのね?あなたに『卒業証書』を持ってきたの……」
その言葉を聞いた心結は悟った。
教頭先生はいつも気に掛けてくれて優しかった。しかし、校長先生は厳しかった。半年しか学校に来ていない生徒を卒業式に出したくなかったのだ。例え、多額の寄付金をしている家のお嬢様でも……。大半の生徒が心結を覚えていない。だから、いてもいなくても同じだと判断されたのだ。
その瞬間、心結の視界は真っ白になった。
「か、神凪さん?! 」
「心結?! 」
教頭先生と母の叫び声が、遠くで聞こえた。だが、心結の心はズタズタ。死ぬならば、今死んでしまいたい。そう思い、意識を手放した……。
◆◇◆◇◆◇◆
……危篤状態だった心結が目を開くと、三年の月日が経っていた。何も知らない心結。心拍数が安定していたため、自宅療養にきり変わった次の日。ショックの余り、卒業式当日の記憶を無くしていた。……だから、彼女は気分がいいと掛けたままの制服に袖を通し、学校へ向かった。
「あ! 心結?! ちょっと…!? 」
母の声がしたが、そのまま駆け出していた。
◆◇◆◇◆◇◆
……そんな彼女を待っていたのは、女子高から共学に切り替わり、制服の変わった母校だった。学校自体は全く同じなのに…。
「……え? 」
訳がわからず、立ち尽くす心結。
「ねぇ、あの子。超可愛い……けど、何で女子高だったときの制服着てるの? 」
「卒業生? にしては若いけど」
「あの子可愛いんだけど! ナンパしねぇ? どこ高だろ? 」
周りから奇異の目で見られていた。現実を受け止め切れず、心結は駆け出した。
◆◇◆◇◆◇◆
……数日後、病院で更なる残酷な現実を告げられた。
「……心結ちゃん、誠に申し訳ないが、現在の医療では君を完治させられない。それと……、保って3年の命だ」
告げられたことに母は泣き崩れた。長年診てくれていた先生も辛そうだ。
「……どうしたい? その2、3年の間に医学が進歩してくれることを願うが、気休めは言いたくないからな」
心結はわかっていた。彼も本気で病気に向き合ってくれていたことに。その上で、無力だと感じて自らを責めていることも。医者として、一人の人間として向き合ってくれていたから。
「……三年、ううん、二年でいい。あの学校に通って……、卒業式に出たいです。思い出がほしいから」
◆◇◆◇◆◇◆
……それから半年、変わった学習を頭に叩き込みながら、薬を投与し続けた。
「……何度も言うが、激しい運動は避けること。この薬を半年も投与するということは、寿命を縮める可能性が高い。だけど、卒業までは保つはずだ」
普通の人と同じように生活出来るのなら、卒業式を迎えられるなら、構わない。
「……友達ほしいけど、作っちゃダメよね。いなくなった後のこと考えたら、辛い思いするのは友達だものね」
先生は何も言わなかった。ただ、肯定とも否定とも取れるような苦笑いをしていた。
何があっても後悔はしない、そう思うしか願いは叶えられないのだ。
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