上 下
16 / 28

13、試される理論武装

しおりを挟む
このおじさんが、この国の"最高権力者"……。
フェルナンドくんは、この威圧感を感じながら今まで生きてきたんだ。

挨拶しかしてこない国民。
埋められた井戸。

抑圧されている確固たる証拠だ。
多分、猪突猛進なマサチカの方が可愛いと思えるくらい。
生半可な理論武装じゃ、平行線になってしまう。
問題は、この"王様"に誰も逆らえない時点で不利なのは明白だ。
……いざとなったら、誰も味方がいない。

「……中々に面白い発想をする娘よ。だが、そなたの"言葉"は理想を語っているだけだ。理想など、現実の前では意味を成さない。私の"言葉"は現実を見据えたものであり、誰よりも……『正しい』のだ」

うわー、予測通り過ぎて気持ち悪い。
でも、穴みーっけ☆

「へぇ、この国ではおじさんが一番頭いいんだね。戦争の戦いかたとか、全部おじさんが決めたの?」

"ほしい言葉"以外受け付けないんだよ、こーゆータイプって。

「当たり前だ。他のものは私のために、確実な事実説明が出来るのが好ましい。しかし、我が国の戦術は、代々受け継がれたもののみしか許されない。 それ以上の戦術はなく、常に完全無欠であるからだ」

あーあ、自分で言っちゃったよ。
余計なことを言うな、自分が必要としていることだけ伝えろってさ。

てかさ?この戦術ってなんだろね?
負け知らずっぽい空気醸してるけど、代々ってヤバくね?
あ、フェルナンドくんと目があった。
青ざめながら困った顔をしてる。
おじさんにわからないように、ボクに苦笑いを見せた。
多分、今フェルナンドくんが出来る精一杯だろう。

「まぁ、おじさんは機転の利く人ではありそうだね。戦術は代々ってゆーけど、アレンジとかしてるの?全く同じだったら……"この国に未来はない"よ」

空気が凍りつくのがわかる。
フェルナンドくんはボクを見て、肩を落とした。
……とっくにフェルナンドくんは気がついてたみたいだね。

「……小娘!我が国の完璧なる戦術が使い物にならないと申すか!?」

……否定的な言葉があると逆上して、飛躍する。
何なの?このテンプレおっさん。

「毎回同じ戦いかただったら、相手だって対抗策考えて、いづれ本当に使い物にならなくなる可能性があるでしょうよ!新しいものに頼らない姿勢はカッコいいと思うけど、全ては適材適所ってやつなんだってば!」

……面倒臭いなぁ。

「……何を言うかと思えば。ふん、フェルナンド。娘に優しく説明してやれ。我が国の鉄壁の策をな」

うわー、バカにされたよ。腹立つなー。
しかも、バラしちゃうとかとんだ自信家だねー。

「……はい、父上」

フェルナンドくんが困った顔のまま、ボクに向き直る。
可哀想だな、フェルナンドくん。

「カリン、策と言うのはね?我が国には『フラワーマジック』という魔法があるんだ」

「まぁ、花園の国だから想定範囲内だよ」

「うん、それでね?敵が現れたら『フラワーマジック』で惑わすんだ。花びらを大量に舞わせ、視覚と嗅覚を奪う。二つを奪えば、自ずと他機能も混乱するわけなんだよ」

メダ◯ニダンス的なやつかな?

「混乱に乗じて、死角をつく策なんだ」

「………………」

「どうした、娘。完璧な策に言葉も出ないか。はっはっはっはっ!出現場所を特定する器官が混乱している状態では、打つ手はあるまい!」

……フェルナンドくん、何で君のお父さんがこの人なんだろうね?可哀想だよ、君が。

「……ねぇ、フェルナンドくん?」

後ろでおじさんが無視されて、イライラしているのがわかったけど知らん顔しよう。

「な、なんだい?」

フェルナンドくんには真正面で悪いね。

「成功率はどれくらいかな?分かりやすく、お爺さんの代とかひいお爺さんの代とか、比較出来る感じで」

チラリとおじさんを再度見る。
意図が分かっているから、酷だろうね。

「……この策を始めたのが、父上のひいお祖父様の代。その頃は100%だったらしい。父上のお祖父様の代で90%くらいで、父上の父上、私のお祖父様の代で70%前後……」

頑張ってくれ、予想は出来てるから。

「………現在は、40%」

あちゃー、ここまで予想の範疇内だと恐ろしいな。

「……おじさんさ、完璧とかは追及しないよ。でもさ、ボクが言いたいこと……わかるよね?」

声のトーンを落としたボクに静まり反る。

「…………」

おじさんも流石に顔を反らした。
予想してろよ……。

「言わないならいってあげるよ。このまま譲ったら、フェルナンドくんがいい迷惑だね。おじさんの意地で、フェルナンドくんの、"ウェルガーデン"の未来無くなるね」

誰も何も言わない。
……何なんだよ、返せよ!ボクの理論武装タイム!



……その瞬間、堰を切ったような笑い声が城内を震わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る

卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。 〔お知らせ〕 ※この作品は、毎日更新です。 ※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新 ※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。 ただいま作成中

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

処理中です...