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第13話 神の悪戯
しおりを挟む妻と別れてから、半年が過ぎた。もう年末だ。
色々変遷のあったプロジェクトも先が見えて来た。来年四月から本格稼働する。
毎日、帰宅は、午後十時を過ぎていた。
マンションのエントランスに誰かがうずくまっている。体調が悪いのだろうか。
そのまま、無視するわけにもいかず、エントランスのドアを開ける前に声を掛けた。
「もしもし、大丈夫ですか」
うずくまっている女性が、こちらを振り向いた。
「………里美」
かつての輝きを失った、元妻が、そこに有った。
「あなた………」
そのまま、倒れてしまった。
その時、同じマンションに住んでいる人が、通りかかった。
救急車を呼ぶか、聞かれたので、知り合いだ、家に連れて行くと言って、断った。
仕方なく、エントランスホールで気が付くまで待った後、支えながら部屋に入れた。部屋の電源をオンにするとリビングのカーペットの上に横にした。
この時期、リビングは暖房カーペットを敷いている。
頭を触ったが、熱は無い様だ。ただ、疲れているのかもしれない。
冷たい水を持ってきてテーブルに置いた。
「飲むか」
「ありがとうございます」
それから、三十分の間、何も話さずにいた。里美が、大分落ち着いて来た時、
「里美、何故あそこにいた」
「………」
「………」
「あなたに会いに」
「もう別れた。他人だ。用事があるなら電話でも出来るだろう」
「会いたかったの。あなたの顔を見たかったの」
「………」
「何を言っているか分からない。お前は、黒田を選んだ。奴と一緒に居ればいい。お前がいる所はここではない。黒田の所だ」
「私は、私は、黒田なんて選んでいない。信じて」
「無理だよ。君はあの時、言ったじゃないか。体が黒田を選んだと」
「言い違いです。言い違いです。あなたが電話に出なくて」
「今更何を言う。弁護士の前でもそう言っただろう」
「もう帰ってくれないか。黒田の所へ行けばいい。邪魔なんだ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう絶対、浮気はしません。信じて」
「信じたとして、どうするというんだ」
「………もう一度やり直させてください。お願いします。お願いします」
「冗談だろう。あの時、僕は、君がどんなつらい思い出いるかと思って、一週間早く切り上げて帰ろうとした。
ところがどうだ。君は、僕が居ない間、黒田と性行為していただけじゃないか。
何を信じろと言うんだ。もう帰ってくれ」
「あの人とは、分かれました」
「僕には、関係ない事だ。これ以上いると警察を呼ぶぞ」
もう、僕には里美に対する愛情は無くなっていた。
その後、エントランスまで里美を送って行き、帰る後姿を見つめてた。
里美は、それから僕のマンションには来なくなった。
それから、二年の間、がむしゃらに仕事をした。アメリカに行って、向こうのチームと一緒に仕事をした。
オーストラリアに行って、プロジェクトを稼働まで漕ぎつけた。シンガポールで、傾いたプロジェクトを立て直した。
その結果、US本社サイドからの推薦で、シンガポール支社長に内定した。
周りの人間は、仕事の鬼柏木と変なあだ名をつけてくれたが、受け流した。
そんな時だった。本部長から呼ばれた。
「柏木上級課長。少し話をしないか」
「はっ。吉田本部長」
「おいおい。俺の所に来てまで、鬼の柏木は止めてくれ」
「いや、本部長直々のお呼び出しなので、海外プロジェクト案件かと楽しみにして来ました」
「いや、それはない、シンガポール支社長をプロジェクトには付けない。話は別だ」
「はい」
「結婚する気はないか」
「はっ?」
「前の奥さんと別れて、もう二年半だろう。それにシンガポール支社長が独身では、送り出す方もな。向こうでは伴侶を必要とする場面も多い。
USの奴らが君を高く評価しての今回の選択だ。
それに、支社長は三年だ。帰国すれば、君も部長になる。日本法人トップの出世だ。どうだね。会ってみる気はないか」
「会ってみる気?もしかして見合いですか」
「そうだ。専務の娘さんだ」
「えーっ。でっ、でも、僕はもう、三十七ですよ」
「専務の娘さんは、二十七だ。問題ないさ」
「はあ」
「そうだ。今日、飲みに行くか。いい店がある」
「はい。そちらは、直ぐに」
「ははは。そうだな」
連れて行かれたの、いわゆるサロンだった。学生や平社員では来れない。
「どうだ、いい雰囲気だろう」
「はい。落着いていていいですね」
女性が、おしぼりや、ボトルのセットを持ってきた。本部長は、常連なんだろう。
「いらっしゃい。吉田さん」
「来たよ。ママ」
「そちらの方は、始めてね。ご紹介して」
「ああ、この若さで、海外のプロジェクトをいくつも立ち上げ、今度シンガポール支社長になる、柏木君だ。この店の良い客になる」
「その若さで。わーつ、凄い。出世頭ね」
「ああ、それも国内じゃない。グローバルで出世頭だ」
「凄―い。奥様は?」
「良いこと聞いて来たな。なんと独身だ」
「あらー。お店の子の奪い合いが始まるわ」
僕は、本部長とママのご挨拶代わりの会話を聞きながら、周りを見ていた。それなりに広いお店だ。
「………っ! ばかな」
僕の視線の先には、絶対に忘れる事のない女性が。化粧を濃くしているが、見間違いの無い女性が客の相手をしていた。
「どうした」
「いえ」
「ここのお店は、気に入った子が居れば、側に居て貰えるぞ」
「大丈夫です」
二時間程、その店にはいた。横に着く女性がしつこいほど、今日のこの後の事を聞いて来たが、疲れたので帰って寝ると言って逃げた。
それから二日後、同じ店に行った。
「あら、柏木さん。今日はお一人」
「はい」
「どうぞ。こちらへ。直ぐに準備します」
お店のママが来るまで、彼女を探した。店の奥の方で客の相手をしている。
テーブルセットをママが持ってくると
「柏木さん。女の子を指名できますよ。好みの子います」
それに答えずに一点を見ていた。
「あら、琴乃ちゃん。お目が高いわ。うちのお店のNoワンよ。直ぐに来させます」
ママが、彼女の側に行き、耳元で何か言っている。彼女がこちらを向いた。
「………っ!」
ママが、耳元で小声で言った。
「素敵なお客様が、琴乃ちゃんを呼んでいるわ。直ぐに行きなさい」
私は、ママの言う通りにその人の方に目を向けた。
まさか、あの人が。なんで。
―――――
ついに浩一と里美の再会です。運命の神様はいつも悪戯好きです。
ねっ。アフロディーテさん。
今回は、どこまで?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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