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24.オルフェ、知恵熱を出す
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ディアンに言われてからもしばらく、アレスとの関係は変わらなかった。
昼間まで一緒にいることはできなかったが、夜だけはセックスして、一緒に寝て。
好きだという言葉こそ言えなかったが、していることは恋人と変わらない。
そしてそのまま、更に一か月近く過ぎ、アレスと一緒に過ごせる期間も残り一週間となってしまった。
甘く、恋人のような日々を過ごした。けれど、「あと一か月」と言ったアレスの言葉が気になって、「神様の花嫁にはふさわしくない」というディアンの言葉が引っかかって、遂に今日、オルフェは熱を出した。
たかが三か月近くの間に、二度も熱を出すなど初めてである。
クレイが気づいて、アレスの従者に言ってミレイアが呼ばれた。
相も変わらず美しい彼女は、オルフェを見るなり大きくため息をついた。
「そりゃあ熱も出すさ!あんなでかい男と毎晩毎晩やることやってれば、負担がかかるのは君の方なんだから!」
いくら言動は男っぽいとはいえ、綺麗な女性にそう言われると恥ずかしいものがある。まぁ、クレイから聞いたところ、オルフェの尻の穴まで彼女に見られているので、今更恥ずかしがることなんてないのかもしれないけれど。
「でもさ、あともう、一週間くらいしかないんだよ。あいつと過ごせるの」
オルフェがそう言うと、おや?とミレイアが首をかしげる。
そしてベッドサイドの椅子に座ると、二人きりにしてくれと言ってクレイを追い出した。
「君は、村に帰るつもりなのかい」
真面目な表情になったミレイアに、オルフェも無表情で頷く。
何を当たり前のことを彼女は言っているのだろう。そんな思いすら抱く。
「私はてっきり、君たちはもう恋人同士で、三か月なんて期限は関係ないものだと思っていた。君がアレスと婚姻関係になり、神の眷属になれば、体力差だってさほど気にしなくてよくなる。それまでの我慢だよ、と今日は言いに来たつもりだったのだけどね」
まさかミレイアにそう言われるとは思わず、オルフェは固まってしまう。
端から見たって恋人のような関係。しかしアレスは、オルフェに対してそんなものを求めていないのだ。
オルフェはあくまで、神様の花嫁“候補”。正式に花嫁になれば、この城に残ることができる。
結婚して、一緒に過ごして。
「無理だよ」
無理だ。
アレスは対等だと言ってくれたが、対等になんてなれない。
それはきっと“神と人”だからじゃなく、オルフェだけがアレスに惚れているからだ。終わりなんて考えられないくらい。
一時的な相手として付き合ってくれているアレスとは、思いが違いすぎる。
オルフェは思う。
もし、もし自分が美しくて優しい娘なら。
アレスは自分を花嫁として選んだかもしれない。愛と平和の神だって祝福してくれる。ディアン達にも、きっと喜ばれる。
でも、なれない。
自分はどうひっくり返っても、神を殴るような男で。
“神様の花嫁”にはふさわしくない。
「俺、神様の花嫁ってガラじゃないしさ」
「まぁそれは、そうだろうねぇ。君ってば口は悪いし、すぐ手も足も出るし、まさか神の股間を蹴り上げる花嫁なんて、聞いたことないからね!」
その通りなのだが、人に言われるとしんどいものがある。
けど。とミレイアは微笑む。
アレスに、ミレイアは花の神だと聞いた。それに相応しい、蕾がほころぶような笑顔だった。
「アレスは、君たちの間では“魔王”だなんて呼ばれているそうじゃないか。聞いた時は、素晴らしいネーミングセンスだと笑ったものだよ。君は“神様の花嫁”にはふさわしくない。けれど“魔王の花嫁”にはぴったりだと思わないかい」
その言い方に、ついオルフェも笑った。
「アレスのこと魔王だなんて言っていいのかよ」
「いいんだ。私にとって彼は、正真正銘魔王なのだからね」
ミレイアはウィンクする。
「君が迷っているのならば、私は背中を押そう。君が帰れば、アレスと一緒にいられる相手なんて二度と現れない。人も、神も。アレスはまた一人で、生きていく」
「一人じゃないだろ。ミレイアや、ディアンだっている」
「まぁ私たちは、幼馴染だからねぇ」
「そういえばさ、幼馴染って聞くけど、ずっと疑問だったんだよね。どうやって神様って生まれるの?」
「まさか君は、私たちが木の根から生まれたとでも思っているのかい?私たちは君たちと寿命が違うこと、老いないこと、ちょっと不思議な力があるくらいでさほど変わりはしないんだよ。アレスを見て、分かっただろう?」
「確かに。人間みたいに怒りっぽくて、だもんな。でもそれって、戦いと勝利の神だからってのもあるの?」
「それもあるだろうね。けれど、愛と平和の神は割と浮気っぽい性格をしているし、花の神であるはずの私はこんな男勝りの性格だ。まぁ、幼馴染のせいだとも思うのだけど、結局は個人の性格だよ。人とさほど差はない」
勘違いするところだった。
アレスは、オルフェがアレスを神として接することを望んでいない。だからこその“特別”なのだと彼は言った。
それを忘れて、“神様の花嫁”になれないと嘆いてしまっていたのだ。
アレスはそんなこと、求めていないのに。
「俺、きちんとアレスに気持ちを言うよ。一緒にいたいって」
アレスに伝えよう。
一人の対等な相手として。好きだ、と。
確かに神様の花嫁にオルフェはふさわしくないかもしれない。けれどそうではないのだ。オルフェはオルフェとして、きちんと最後までアレスに向き合う必要がある。
それが、“神と人”としてではなく、一人の対等な相手として側においてくれたアレスへの最後の礼儀だろう。
「そうしてくれると助かる。我らの幼馴染は、とんでもなく口下手なようだからね。でもその前に、しっかり休むこと。君たちは顔を合わせるとなし崩しにセックスしそうだから、今日は接近禁止令を出させてもらうよ」
「え」
「今日一日だ。そんな顔をするもんじゃない。大丈夫だよ。時間はまだある。焦らずにしっかり体を休めなさい」
「はーい、分かりました」
オルフェが茶化して言うと、よし、とミレイアが頭を撫でてきた。
その時、ミレイアの瞳が一瞬だけ陰る。しかし、オルフェがおや、と思った時にはもう、いつもの笑顔に戻っていた。
「さぁ、ゆっくり寝なさい。魔王の花嫁候補さん」
昼間まで一緒にいることはできなかったが、夜だけはセックスして、一緒に寝て。
好きだという言葉こそ言えなかったが、していることは恋人と変わらない。
そしてそのまま、更に一か月近く過ぎ、アレスと一緒に過ごせる期間も残り一週間となってしまった。
甘く、恋人のような日々を過ごした。けれど、「あと一か月」と言ったアレスの言葉が気になって、「神様の花嫁にはふさわしくない」というディアンの言葉が引っかかって、遂に今日、オルフェは熱を出した。
たかが三か月近くの間に、二度も熱を出すなど初めてである。
クレイが気づいて、アレスの従者に言ってミレイアが呼ばれた。
相も変わらず美しい彼女は、オルフェを見るなり大きくため息をついた。
「そりゃあ熱も出すさ!あんなでかい男と毎晩毎晩やることやってれば、負担がかかるのは君の方なんだから!」
いくら言動は男っぽいとはいえ、綺麗な女性にそう言われると恥ずかしいものがある。まぁ、クレイから聞いたところ、オルフェの尻の穴まで彼女に見られているので、今更恥ずかしがることなんてないのかもしれないけれど。
「でもさ、あともう、一週間くらいしかないんだよ。あいつと過ごせるの」
オルフェがそう言うと、おや?とミレイアが首をかしげる。
そしてベッドサイドの椅子に座ると、二人きりにしてくれと言ってクレイを追い出した。
「君は、村に帰るつもりなのかい」
真面目な表情になったミレイアに、オルフェも無表情で頷く。
何を当たり前のことを彼女は言っているのだろう。そんな思いすら抱く。
「私はてっきり、君たちはもう恋人同士で、三か月なんて期限は関係ないものだと思っていた。君がアレスと婚姻関係になり、神の眷属になれば、体力差だってさほど気にしなくてよくなる。それまでの我慢だよ、と今日は言いに来たつもりだったのだけどね」
まさかミレイアにそう言われるとは思わず、オルフェは固まってしまう。
端から見たって恋人のような関係。しかしアレスは、オルフェに対してそんなものを求めていないのだ。
オルフェはあくまで、神様の花嫁“候補”。正式に花嫁になれば、この城に残ることができる。
結婚して、一緒に過ごして。
「無理だよ」
無理だ。
アレスは対等だと言ってくれたが、対等になんてなれない。
それはきっと“神と人”だからじゃなく、オルフェだけがアレスに惚れているからだ。終わりなんて考えられないくらい。
一時的な相手として付き合ってくれているアレスとは、思いが違いすぎる。
オルフェは思う。
もし、もし自分が美しくて優しい娘なら。
アレスは自分を花嫁として選んだかもしれない。愛と平和の神だって祝福してくれる。ディアン達にも、きっと喜ばれる。
でも、なれない。
自分はどうひっくり返っても、神を殴るような男で。
“神様の花嫁”にはふさわしくない。
「俺、神様の花嫁ってガラじゃないしさ」
「まぁそれは、そうだろうねぇ。君ってば口は悪いし、すぐ手も足も出るし、まさか神の股間を蹴り上げる花嫁なんて、聞いたことないからね!」
その通りなのだが、人に言われるとしんどいものがある。
けど。とミレイアは微笑む。
アレスに、ミレイアは花の神だと聞いた。それに相応しい、蕾がほころぶような笑顔だった。
「アレスは、君たちの間では“魔王”だなんて呼ばれているそうじゃないか。聞いた時は、素晴らしいネーミングセンスだと笑ったものだよ。君は“神様の花嫁”にはふさわしくない。けれど“魔王の花嫁”にはぴったりだと思わないかい」
その言い方に、ついオルフェも笑った。
「アレスのこと魔王だなんて言っていいのかよ」
「いいんだ。私にとって彼は、正真正銘魔王なのだからね」
ミレイアはウィンクする。
「君が迷っているのならば、私は背中を押そう。君が帰れば、アレスと一緒にいられる相手なんて二度と現れない。人も、神も。アレスはまた一人で、生きていく」
「一人じゃないだろ。ミレイアや、ディアンだっている」
「まぁ私たちは、幼馴染だからねぇ」
「そういえばさ、幼馴染って聞くけど、ずっと疑問だったんだよね。どうやって神様って生まれるの?」
「まさか君は、私たちが木の根から生まれたとでも思っているのかい?私たちは君たちと寿命が違うこと、老いないこと、ちょっと不思議な力があるくらいでさほど変わりはしないんだよ。アレスを見て、分かっただろう?」
「確かに。人間みたいに怒りっぽくて、だもんな。でもそれって、戦いと勝利の神だからってのもあるの?」
「それもあるだろうね。けれど、愛と平和の神は割と浮気っぽい性格をしているし、花の神であるはずの私はこんな男勝りの性格だ。まぁ、幼馴染のせいだとも思うのだけど、結局は個人の性格だよ。人とさほど差はない」
勘違いするところだった。
アレスは、オルフェがアレスを神として接することを望んでいない。だからこその“特別”なのだと彼は言った。
それを忘れて、“神様の花嫁”になれないと嘆いてしまっていたのだ。
アレスはそんなこと、求めていないのに。
「俺、きちんとアレスに気持ちを言うよ。一緒にいたいって」
アレスに伝えよう。
一人の対等な相手として。好きだ、と。
確かに神様の花嫁にオルフェはふさわしくないかもしれない。けれどそうではないのだ。オルフェはオルフェとして、きちんと最後までアレスに向き合う必要がある。
それが、“神と人”としてではなく、一人の対等な相手として側においてくれたアレスへの最後の礼儀だろう。
「そうしてくれると助かる。我らの幼馴染は、とんでもなく口下手なようだからね。でもその前に、しっかり休むこと。君たちは顔を合わせるとなし崩しにセックスしそうだから、今日は接近禁止令を出させてもらうよ」
「え」
「今日一日だ。そんな顔をするもんじゃない。大丈夫だよ。時間はまだある。焦らずにしっかり体を休めなさい」
「はーい、分かりました」
オルフェが茶化して言うと、よし、とミレイアが頭を撫でてきた。
その時、ミレイアの瞳が一瞬だけ陰る。しかし、オルフェがおや、と思った時にはもう、いつもの笑顔に戻っていた。
「さぁ、ゆっくり寝なさい。魔王の花嫁候補さん」
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