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21.オルフェ、自覚する

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最近、アレスが妙に優しい。
アレスの前で泣いてしまって、それからだ。
口喧嘩はするが、殴られたりはしないし、以前よりずっと会話になる。
あまりに優しいものだから、今日なんて我侭を言ってしまった。夜以外も一緒に過ごしたい、と。

どんどん欲深くなっていく、とオルフェは自分が怖くなる。
少し優しさを見せられただけで、もっと、もっと、と。セックスするだけの関係では、足りない。それだけでは嫌だ。
けれどなかなか、うまく行かない。例えばアナなんかは色々な知識があるし、アレスも話していて楽しいのだろう。二人して難しい話をしていると、ついていけなくなる。
自分は自分で良いと思っていたのに、初めてもっと違う自分になりたいと焦れた。
けれどそんな時もアレスは優しくて、二人きりで庭園や果樹園に行こうと誘ってくれたのだ。

たまらなく嬉しくなってしまう。
そんな特別扱いに、胸が苦しくなる。

恋をしている。
それを自覚すればするほど、恐ろしくなるのだ。
相手は神だ。
それも、恋をしたことなどない自国の守護神。
この恋は、絶対に叶わない。それが分かって、胸が痛かった。

「この果樹園の果物は、私が管理している。不思議なものでな。私の気持ちに反応しているようで、私の調子が良ければ、どの果物もよく実る」
ほら、とアレスが桃を取って渡してくれる。
アナとは、果樹についてももっと難しい話をしていた。害虫がどうとか、冷害がどうとか、それを防ぐには、だとか。
難しいことは全く分からないから、どうすれば話が弾むのかも分からない。けれど、二人きりでこうして過ごせることが嬉しくて、オルフェは微笑んで桃を受け取った。

「今はどの果物もすごいよく実ってるよね。アレスの機嫌がいいってこと?」
茶化すようにオルフェが言うと、アレスが「うるさい」と顔をそらした。
「それって、俺のおかげ?俺と毎日、セックスしてるからかな?」
ふざけて言ったのに、アレスが固まる。そしてゆっくりと、目を合わせてきた。
金色の瞳はまったく笑っていなくて、何かまずいことを言ってしまったのかと体がすくむ。
今はもう、殴られる、とは思わない。けれど代わりに、嫌われてしまうのではないか、と怖がってしまう。
殴られることはまったく怖くなかったのに、不思議なものだ。

「聞かせてほしい。なぜオルフェは、私の花嫁候補となった?本当の理由を、知りたい」
それを聞かれるとは思わなくて、オルフェは驚いた。
確かに最初に、嘘をついた。もっとも嘘をついたのはオルフェ自身ではないが、オルフェもそれを黙っていた。

「神殿側がお前を選んだのか?私が男を好きかもしれないという可能性にかけて」
アレスはそう思っていたのか。
「違うよ。俺が立候補したの」
「あのディアンの話は、本気だったと?」
「ごめん。そうじゃないんだ。実はさ、妹が花嫁候補に選ばれて。でも妹は結婚が決まってたんだよ。だから俺が代わりに行くって言ったの。失望した?」
どんな反応を示すか恐々とアレスを見ると、彼はふと笑った。

「望んでここに来る人などいない。失望することなどないよ。ただ、オルフェには、すまなかった、と。妹の身代わりなどさせて。にも関わらず私はオルフェをぶった」
優しく目を細めて、アレスが言う。
「俺も、嘘ついてごめん。それに、最初っからアレスのことを嫌な奴だって決めつけて、嫌な態度とってた。でもさ、俺、ここに来たこと後悔はしてないよ。だって、アレスと出会えたから」
今のタイミングならば言ってもいい気がして、オルフェは自分の気持ちを伝える。

今なら。
好きだ、と言ってしまっても良い気がした。
どうせあと一か月程で永遠に会えなくなる相手なのだ。
気持ちを伝えて、それで。それから……。

「オルフェは、人を思いやる気持ちが強いのだな。どれだけ殴っても私の側にいたのは、私がオルフェの町に呪いをかけると言ったからか?それとも妹や、他の花嫁候補を守っていたのか?」
え?
「私はお前に、無理をさせていたのかもしれないな」
「違うよ。違う。それだけなら、俺は一緒にいないよ。分かるだろ?俺ってば嫌なことは嫌って言うし、神様だって殴っちまうしさ。だからさ、アレス」

俺はアレスのことが、好きなんだ。
そう言おうとした時、ごほんという咳払いが、木の陰から聞こえた。

「本当にそうなの?」
まるでオルフェの告白を遮るように、ディアンがそう言い放った。
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