10 / 43
9.アレス、また怒る
しおりを挟む
まさかの風呂場で殴り合いをしている所を、大きな音で駆け付けた従者たちに見られ、アレスに強く殴られ気を失ったオルフェが運ばれていった。
アレスは怒りのままその辺りに捨て置けと命令したにも関わらず、従者たちはオルフェを自室へと運ぼうとした。それもなんだか気に食わず、自分のベッドに寝かすように指示をする。
真っ赤に腫れたオルフェの頬を見て、今回の花嫁候補滞在のために準備していた医者を従者が呼ぶ。
医者とは言っているが、普段はこの神の国でフラフラと遊んでばかりいる花の神だ。ミレイアという名の彼女は、花の良い香りがするシップをオルフェの体中に貼り、アレスを睨みつけた。
「人間相手に無理をしてはいけないよ。そんなことも知らないのかな、戦と勝利の神は」
カァっと来て再び手を上げかけるが、どうにか抑える。彼女に帰られてしまえば、人間を診る医者などいない。
医学を司る神もいるにはいるが、戦の神であるアレスとはとんでもなく仲が悪い。
ミレイアはそんなアレスの様子にため息を落とすと、そっとオルフェの髪を撫でた。
「いいかい。人間はもろいんだ。君がいつものような調子で殴ったりなんてしていたら、すぐに死んでしまうよ。君は、生贄を殺した神と不名誉な称号をもらうつもりなのかい?」
「こいつが先に、手を出した」
「だろうね。だが、見たところ、無理矢理なセックスでもしたんだろう?これだから、今まで奥手だった男は困る。本来男性の肛門は、出すところで入れるところじゃないんだ。セックスに使うならきちんと慣らして、しっかり準備しないといけない。いっそ、ディアンにでも習うといい」
「しかし、昨日は慣らさなくても入った」
「だから、昨日は媚薬を使ったんだろう?聞いたよ。まったく。神の薬を使ったんだ。おそらく痛みなんてほとんどないはずさ。おっと、しかし勘違いしてもらっては困る。神の媚薬なんてのは劇薬だ。使い続けると、精神をおかしくする。容量用法を守って正しく使ってくれよ」
では、あの酒を飲ませればいいとアレスが思ったのを分かったのか、先手を取ってミレイアが言う。
「さて」
ミレイアが医療道具をしまい、椅子から立ち上がる。
「肛門だけじゃない、中も切れている。薬を塗ったから明日の朝には治っているが、おそらく、この打撲と傷だ、熱を出すと思う。君のベッドを占領させる訳にもいかないだろう?今の内に移動させよう。彼は私の薬でぐっすり眠っているから。ほら、早く」
眠っているオルフェは、人形のように美しい。
真っ白な肌にかかる黒髪をどけると、苦しそうにオルフェの口が動く。真っ赤なそれに口づけたい気持ちを抑え、頬を撫でる。何回か殴ったため、痛々しいほどに腫れ、シップの貼られたそこ。
あれほど拒絶していたのは、本当に痛みからだったというのか。
昨日はあれほど乱れて求めていたくせに、今日の様子は全く違った。薬がなかったせいで、アレスのことを恐れて逃げようとしているのだと思ったが、違うのだろうか。
ならば、少し。ほんの少しばかり、酷いことをしてしまったのかもしれない。
いや、先に手を出したのはオルフェなのだが。
アレスもだいぶ殴られたし噛みつかれたし、とんでもないところを蹴り上げられもした。しかし、体格差だけでなく、そもそもが人と神。攻撃されてその場での痛みはあるが、傷が残るわけでもなし、痛みさえすぐに引いてしまう。
それを、同じように殴ったのはやりすぎだったかもしれない。
「よい」
アレスの短い言葉に、ミレイアが首をかしげる。花のように美しい桃色の髪がさらりと流れた。それをアレスは見て、ふと思う。ミレイアの髪も、美しいとは感じる。美しいもの、醜いもの、それが分からないほど無粋な神ではないつもりだ。
しかし、男の、それも自分を蹴り上げて、顔も腫れあがったような人間に対して、どうしてこんなに欲を感じるのか分からない。
一度抱いたからなのか。
「なんだい?変な顔をして」
「だから、良いと言っている。こいつはこのままここに寝かせる」
ミレイアが可笑しな表情をして固まる。
「あ、いや、でもね。彼はけが人なんだよ」
「今日、これ以上手を出したりはしない」
「うん。それは疑ってないけどね。こんな状態の彼に手を出したら、さすがの私もドン引きするけどね。そうじゃなくて、ゆっくり休めないだろう、君も彼も」
「構わない」
「だから……って、相も変わらず話の通じにくい男だな、君は。無理矢理犯されて、殴られて失神させられた相手と同じベッドになんて誰が寝たいと思うか!ということだよ。君のために言ってるんじゃない。彼のために言っているんだ。いいね。同じベッドに寝ることは、医者として許可できない」
お前の許しなど、誰が請うか。
アレスはそう言い返そうとして、ぐっと堪える。敵に回すと、色々とうるさく厄介な相手だ。昔からの馴染みの相手でもある。短気なアレスになんだかんだ言いながら付き合ってくれる貴重な相手だ。
アレスが拳を降ろしたのを見て、おや、とミレイアが首をかしげる。
「君の意見に真っ向から反対したから、殴られる覚悟くらいはしていたのだけど。まぁいい。君の部屋とつながって隣にもう一つベッドルームがあるだろう。今まで誰も使ったことのないゲストルーム。そこに寝かすことなら、許可しよう」
今まで使ったことはないが、常に掃除はされた綺麗な部屋だ。
分かったとアレスは頷く代わりに、オルフェを抱き上げた。
体が熱を持ち始めている。ミレイアの言ったことは本当なのだろう。
アレスはそっとその額に口づけると、そのまま隣室へと運んだ。
アレスは怒りのままその辺りに捨て置けと命令したにも関わらず、従者たちはオルフェを自室へと運ぼうとした。それもなんだか気に食わず、自分のベッドに寝かすように指示をする。
真っ赤に腫れたオルフェの頬を見て、今回の花嫁候補滞在のために準備していた医者を従者が呼ぶ。
医者とは言っているが、普段はこの神の国でフラフラと遊んでばかりいる花の神だ。ミレイアという名の彼女は、花の良い香りがするシップをオルフェの体中に貼り、アレスを睨みつけた。
「人間相手に無理をしてはいけないよ。そんなことも知らないのかな、戦と勝利の神は」
カァっと来て再び手を上げかけるが、どうにか抑える。彼女に帰られてしまえば、人間を診る医者などいない。
医学を司る神もいるにはいるが、戦の神であるアレスとはとんでもなく仲が悪い。
ミレイアはそんなアレスの様子にため息を落とすと、そっとオルフェの髪を撫でた。
「いいかい。人間はもろいんだ。君がいつものような調子で殴ったりなんてしていたら、すぐに死んでしまうよ。君は、生贄を殺した神と不名誉な称号をもらうつもりなのかい?」
「こいつが先に、手を出した」
「だろうね。だが、見たところ、無理矢理なセックスでもしたんだろう?これだから、今まで奥手だった男は困る。本来男性の肛門は、出すところで入れるところじゃないんだ。セックスに使うならきちんと慣らして、しっかり準備しないといけない。いっそ、ディアンにでも習うといい」
「しかし、昨日は慣らさなくても入った」
「だから、昨日は媚薬を使ったんだろう?聞いたよ。まったく。神の薬を使ったんだ。おそらく痛みなんてほとんどないはずさ。おっと、しかし勘違いしてもらっては困る。神の媚薬なんてのは劇薬だ。使い続けると、精神をおかしくする。容量用法を守って正しく使ってくれよ」
では、あの酒を飲ませればいいとアレスが思ったのを分かったのか、先手を取ってミレイアが言う。
「さて」
ミレイアが医療道具をしまい、椅子から立ち上がる。
「肛門だけじゃない、中も切れている。薬を塗ったから明日の朝には治っているが、おそらく、この打撲と傷だ、熱を出すと思う。君のベッドを占領させる訳にもいかないだろう?今の内に移動させよう。彼は私の薬でぐっすり眠っているから。ほら、早く」
眠っているオルフェは、人形のように美しい。
真っ白な肌にかかる黒髪をどけると、苦しそうにオルフェの口が動く。真っ赤なそれに口づけたい気持ちを抑え、頬を撫でる。何回か殴ったため、痛々しいほどに腫れ、シップの貼られたそこ。
あれほど拒絶していたのは、本当に痛みからだったというのか。
昨日はあれほど乱れて求めていたくせに、今日の様子は全く違った。薬がなかったせいで、アレスのことを恐れて逃げようとしているのだと思ったが、違うのだろうか。
ならば、少し。ほんの少しばかり、酷いことをしてしまったのかもしれない。
いや、先に手を出したのはオルフェなのだが。
アレスもだいぶ殴られたし噛みつかれたし、とんでもないところを蹴り上げられもした。しかし、体格差だけでなく、そもそもが人と神。攻撃されてその場での痛みはあるが、傷が残るわけでもなし、痛みさえすぐに引いてしまう。
それを、同じように殴ったのはやりすぎだったかもしれない。
「よい」
アレスの短い言葉に、ミレイアが首をかしげる。花のように美しい桃色の髪がさらりと流れた。それをアレスは見て、ふと思う。ミレイアの髪も、美しいとは感じる。美しいもの、醜いもの、それが分からないほど無粋な神ではないつもりだ。
しかし、男の、それも自分を蹴り上げて、顔も腫れあがったような人間に対して、どうしてこんなに欲を感じるのか分からない。
一度抱いたからなのか。
「なんだい?変な顔をして」
「だから、良いと言っている。こいつはこのままここに寝かせる」
ミレイアが可笑しな表情をして固まる。
「あ、いや、でもね。彼はけが人なんだよ」
「今日、これ以上手を出したりはしない」
「うん。それは疑ってないけどね。こんな状態の彼に手を出したら、さすがの私もドン引きするけどね。そうじゃなくて、ゆっくり休めないだろう、君も彼も」
「構わない」
「だから……って、相も変わらず話の通じにくい男だな、君は。無理矢理犯されて、殴られて失神させられた相手と同じベッドになんて誰が寝たいと思うか!ということだよ。君のために言ってるんじゃない。彼のために言っているんだ。いいね。同じベッドに寝ることは、医者として許可できない」
お前の許しなど、誰が請うか。
アレスはそう言い返そうとして、ぐっと堪える。敵に回すと、色々とうるさく厄介な相手だ。昔からの馴染みの相手でもある。短気なアレスになんだかんだ言いながら付き合ってくれる貴重な相手だ。
アレスが拳を降ろしたのを見て、おや、とミレイアが首をかしげる。
「君の意見に真っ向から反対したから、殴られる覚悟くらいはしていたのだけど。まぁいい。君の部屋とつながって隣にもう一つベッドルームがあるだろう。今まで誰も使ったことのないゲストルーム。そこに寝かすことなら、許可しよう」
今まで使ったことはないが、常に掃除はされた綺麗な部屋だ。
分かったとアレスは頷く代わりに、オルフェを抱き上げた。
体が熱を持ち始めている。ミレイアの言ったことは本当なのだろう。
アレスはそっとその額に口づけると、そのまま隣室へと運んだ。
1
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
玉縛り玩具ランブル!?~中イキしないと解けない紐~
猫丸
BL
目覚めたら真っ白な部屋で拘束されていた。
こ、これはもしや『セックスしないと出られない部屋』!?
……は?違うの?『中イキしないと解けない紐』!?
はぁぁぁぁぁ!?だから、俺のちんこ、しらない男とまとめて縛られてるの!?
どちらが先に中イキできるのか『玉ちゃん(主人公)・丸ちゃん(彼氏)vs対馬くん・その彼氏』の熱い戦いの火蓋が切って落とされた!!!!
えー、司会進行は『ウサギマスク』がお送りいたします。
=====
ワンライならぬ1.5hライで、お題が「玉縛り」だった時に書いた作品を加筆修正しました。
ゴリッゴリの特殊性癖な上に、ふざけているので「なんでもこーい」な方のみ、自己責任でお願いいたします。
一応ハッピーエンド。10,000字くらいの中に登場人物5人もいるので、「二人のちんこがまとめて縛られてるんだなー」位で、体勢とかもなんとなくふわっとイメージしてお楽しみいただけると嬉しいです。
【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった
佐伯亜美
BL
この世界は獣人と人間が共生している。
それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。
その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。
その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。
「なんで……嘘つくんですか?」
今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる