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第12話 真面目な話と、賢者タイムな俺
しおりを挟むバスルームから出てきたランベールの股間はすっかり大人しくなっていて、しまったと思った。
こいつ、俺のは無理矢理咥えたくせに、自分は一人で処理しやがったな。
「口をゆすいできたから、キスしてもいいかな」
俺だけ気持ち良くさせておいて、その先はしない気か。
紳士か、紳士なのか。
いや、本当に紳士なら付き合ってない相手のチンコしゃぶらないだろ? なんか訳分からなくなってきたぞ。
それに。
お互いに抜いた後なら、気まずさとか、なんか色々あるような気がする。セフレとセックス終わった途端に面倒くさくなった経験、男なら絶対あるはずだ。
だというのに、ランベールのこの細やかさ。女なら絶対惚れるはずだ。
俺が何も答えずにいると、ランベールが再びベッドの上に乗ってきて、俺の頭を撫でた。
あぁ、もう。負けだ。
同じ男として、ランベールには敵わない。
賢者タイムに女の子にこんなに上手に優しくしたことはなかったし、キスしたいと言って返事もしない子の頭を撫でてあげたことなんてない。
「本当、敵わないよ」
俺は小さく呟いて、ランベールの胸に抱きつく。
ひどく安心する。キスもセックスまがいの行為も興奮するが、俺はランベールにそれ以外の物も求めている気がする。
「ごめんな、ランベール。俺だけ気持ちよくなって」
「嫌だと拒否した君に無理矢理した俺が、謝ることはあっても、謝られる必要はないよ。すまなかった。キスだけだと思いつつ、止まらなかった」
どう返事をしたらいいか分からなくて、ランベールの胸にすり寄って目を閉じる。
「寝るかい?」
「うーん。ランベール、少し、話して」
甘えたような声が出る。
女の子相手に甘える時とは違う、本当に子どもみたいな声になった。
けれどなぜか、それを嫌がられるとは思わなかった。ランベールであれば、それを許してくれそうな雰囲気があったからだ。
やばいなぁ。セックスの後、女の子が甘えてくる気持ちが分かった気がする。
いや、厳密にはセックスしてないけどね。
ランベールに甘えたい。わがままを言って困らせたくなってくる。なんだこの面倒な女の思考。そうか、俺って女だったか。うんうん。
「どんな話がいい? いいよ。君相手なら、なんでも話そう」
「ランベールのこと、教えて。なんでそんなにキスが上手いの? 本当はたくさん遊んできたんだろ?」
驚いたようにランベールの目が丸くなる。
「ルシアン王子に、何か聞いたな?」
「聞いた。でも、ランベールから聞きたい」
あの時は、俺がそんな乙女チックな思考になるとは思わなかった。
でも今の俺は、無性にそれをランベールの口から聞きたくなっている。
ランベールはため息を落とすと、俺を抱え込んで布団の中に入れる。で、俺の額にキスすると、小さな声で呟いた。
「君に、幻滅されるかもしれないと思うと、怖いな」
「しないよ。俺だって、褒められた人生送ってきた訳じゃないし」
それどころか、俺の方が最低な人間だしな!
「自暴自棄になっていた時期が、昔あったんだ」
ランベールが、ぽつりぽつりと話し始める。
「この国に、王子が一人しかいないことを不思議に思ったことはないかい? 普通は、跡取りがいなくならないように、王はたくさん子どもを作っておくものだと。マサト様が、君たちの世界も同じ考えだと言っていた」
確かにそうだ。
この国にはルシアンしか王子がいない。
中世ヨーロッパのような世界観のこの国であれば、王子がたくさんいて、血で血を洗う争いがあってもおかしくない。
「実はね。少し前までは王子もたくさんいた……いや、今もいるんだ。チトセ、実は俺も、王子なんだよ」
「え」
王子? 王子様!
ランベールが!!
「他にも何人か、王子はいる。今もね。でも、正式な王子はルシアン一人。他のウジェーヌ王の子どもは、俺みたいに騎士になったり、王宮の魔術師をしている人もいる。今いるウジェーヌ王の子どもは8人。ルシアンはその中で、年齢で言えば上から5番目に当たる。俺の方が、年で言えば上だ。では、なぜルシアンが正式な跡取りとなっているか。簡単な話だよ。血筋だ」
ランベールの母は、もうエルシュベル王国に統合されてしまった小さな国の最後の王女だった。
この国の大貴族であったルシアンの母とは違い、大した後ろ盾もない妃の一人、ということらしい。
誰を次の王とするか、確かに争いはあった。しかしランベールはそこに参加することは初めからなく、王子としてではなく、地方の貴族の養子として育てられた。
「国境に近い地方の貴族に育てられたんだ。俺は。物心つく前に母と離され、地方貴族として生きていくのだと思った。けれど、その時期の王宮は、次の王を誰に立てるかということで揉めていてね。色々な貴族たちが、様々な陰謀を企てていた。その中に、俺も巻き込まれてしまったんだ」
ルシアンの母と同格の地位を持つ妃がいたらしい。その妃が、ルシアンを貶め、自分の息子を時期王とするために、ランベール達を利用した。
まずは、ランベールの母が、エルシュベル王国を恨み、自国の再興を考え、内乱を起こそうとしていると噂を流す。ルシアンの母の実家は、ランベールの母の国だった場所を領地として治めている。それを利用して、二人の妃が共謀して、エルシュベル王国を乗っ取ろうとしている、と。
「その噂のせいで、俺の母親は殺された。俺も殺されそうになったんだが、幸か不幸か、俺がいたのは国境に近い地方だ。俺を殺しに王宮の騎士たちが来たころには、全ての企みが明るみに出ていた。悪巧みをした妃は殺され、その子どもも殺された。けれど俺には、謀反の可能性が残ると言われ、養子として引き取られた家の娘が……俺の妹として育った子が、人質として王宮に連れていかれた」
「ランベールは、何も、悪くないのに」
「そういうものだよ。国とは。まだ利用できる価値のあった俺を殺さず、俺が妹として大切にしていた相手を人質にすることで、飼殺す方法を選んだ。その一件で、決して王宮を裏切らないとルシアンの一族は信頼を得た。そして、これ以上争いが起こらないように、他の王子は王子としての名を永遠に失った。跡取りはルシアン一人、とね」
小説や映画の世界だ。
信じられない世界が目の前にあった。それに巻き込まれた男が目の前にいる。
けれど、ランベールがあまりに普通に話すから、俺はそれが現実の出来事なのかも分からなくなってしまう。
「俺は、魔力もそれなりにあったし、剣の腕も申し分なかった。妹を人質として取られて、騎士になるしか道はなかったんだよ。エルシュベル王国を守る剣として盾として、生きるしか方法はなかった。そうして入った騎士団で、俺はまた、大切な人を失った」
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