上 下
49 / 63
第6章:大魔王討伐パーティ結成

第48話 ドヤ顔勇者

しおりを挟む
 国王は大きくかぶりを振った。

「ソロモン様っ。いくら一番弟子だからと言って、無理に連れて行くのはおやめくだされ。彼は見るからに頼りないではありませんか。他にいくらでも優秀なローラーがいるでしょう。ほら、彼とかどうです。えーっと、確か名は……」

 ソチネが小さく手を挙げただけで、国王が話すのを止めた。

「国王。御判断は全てのメンバーが集まってから下してください」
「そ、そなたがそうおっしゃるのであれば……」

 これは間違いなく職権を乱用しているな、と朝陽は虚ろな目で笑った。

 そうしているうちに次の来客があった。勇者だ。

「国王様! お初にお目にかかります! 私、勇者のマルクスと申します!!」

 謁見の間を闊歩し、国王の前で跪く勇者。国王との挨拶を済ませた彼は、やっと隣で跪く朝陽に気が付いた。
 勇者と朝陽の目が合い、二人ともぽかんと口を開ける。

「ア……アサヒ……?」
「勇者じゃないか……。まあ、そりゃそうかあ……」
「なぜこのような場所にいる? ここはお前が来るような場所じゃないぞ」
「えーっと、いやあ、その……」

 口ごもる朝陽に向かって、勇者はふんぞり返った。

「俺は、かの偉大な魔術師ソロモンに、大魔王討伐パーティに任命されたんだ! 俺はこの日のために毎日鍛錬に励み、ダンジョンに潜り、先日とうとうレベル五十五にまでなった!」

 そして勇者は、意地の悪い笑みを浮かべながら朝陽に尋ねた。

「それで? 〝遅咲き〟のアサヒは、今レベルいくつなんだ?」
「さあ……。あれから一度もステータスを見てないから分からないんだ」
「はっはっは! 見なくても分かるさ。お前は未だにレベル二十五のままなんだから」

 朝陽の隣でソチネが噴き出した。それでソチネの存在に気が付いた勇者は、頬を赤らめイケメンボイスを出す。

「おや? あなたまでいらしていたんですね。いやあ、いつ見てもあなたは美しい」
「あらあら、どうもありがとう。ぷぷっ」

 朝陽には、なぜソチネがこんなに笑いを堪えているのかが分からなかった。

 そこで国王が咳ばらいをする。すっかり身内だけで盛り上がっていたことに気付き、勇者は気まずそうに深く首を垂れた。
 国王が、勇者に気さくに話しかける。

「なんだ、みな知り合いだったのだな」
「はい! 知り合いというより、殺したい相手……じゃなくて、かつて私のパーティのローラーを務めた者と、将来の妻です!」

 国王、ソチネ、朝陽が勇者を二度見した。

「なっ、なんとっ。勇者はソロモン様の婚約者だったのか!」
「いえいえいえ、違いますよ国王!? 私の婚約者はアサヒですから!」
「それも違いますよねソチネさん? あなたと僕はただの師弟です」

 勇者の時が止まる。彼はゆっくりとソチネの方を向き、指さした。

「今、なんと言った?」
「え? だから、私の婚約者はアサヒなの」
「いや、そっちではなく。そっちもものすごく気になるが、今はひとまずどうでもいい」
「?」

 次に勇者は国王に問いかける。

「国王……。彼女が魔術師ソロモンというのは、本当ですか?」
「いかにも」
「……」

 勇者は顔を真っ赤にしてソチネに頭を下げた。

「今までの数々の無礼、心よりお詫び申し上げます……!」
「本当によ、まったく」

 縮み上がった勇者が朝陽の腕を小突く。

「おい、お前は知っていたのか」
「うん、知ってたよ」
「おい貴様っ。国王の御前でくらい俺に敬語を使わないかっ」
「君ってまるで高校部活のめんどくさい先輩みたいだな」

 態度を変えない朝陽の耳元で、勇者は彼にしか聞こえない声で唸る。

「レベル二十五の遅咲きローラー風情が、俺に偉そうな口を利くなと言っている。それなのになぜ魔術師ソロモンと親しくしているんだ。いい加減身の程を弁えろ。それに、お前が彼女の婚約者を騙るな。俺が娶るんだ」

 相手にしないでおこうと決めていたのに、ムッとした朝陽は思わず言葉を返してしまった。

「僕のことはなんて言ってもいいけどさ。ソチネさんの意思も考えずにそんなこと言うのはやめろよ」
「何が悪いんだ? 俺は勇者だぞ。これから英雄になる男だ。そんな俺の妻になることは、女性にとっては喜ばしいことだろう。バカなのかお前は。ああ、バカだったな。クソステータスの出来損ないローラーなんだから、頭が良いわけがない」

 朝陽はこれ見よがしに大口を開けて欠伸をした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...