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第6章:大魔王討伐パーティ結成

第47話 王城訪問

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 ここのところ、ソチネが家を空けることが多くなった。それでも朝陽はいつも通り、魔術書を読んだり、魔法陣を描いたりして一日を過ごすが、やはり彼女がいないと退屈だしどこか落ち着かない。

「仕方ないよなあ……。あの人、すごい人だし」

 朝陽がこの世界に来て三年経った頃から、ヒト族の間でちらほらと疫病が流行り始めた。
 それが疫病ではなく大魔王の呪いであるといち早く気付いたソチネは、冒険者ギルドマスターや国王と直接話して早急な対応を要求した。しかし、大魔王を倒すべき勇者パーティが、未だアストレラ地区の魔王にすら太刀打ちできない状態では動きたくとも動けないと言って、対応を先延ばしされていたのだ。

 待てど暮らせど全く動きがない国王たちにブチ切れたソチネは、自ら動くことにした。

「勇者パーティが頼りないなら、私が大魔王を倒せる人たちを集めてくる!」

 そう宣言した日から、ソチネはあちこちに飛び回っているようで、なかなか家に顔を出さない。
 朝陽は魔術書のページをめくりながら、独り言を呟いた。

「ソチネさんも大魔王を倒しに行くのかな……」

 そう考えると、胸がソワソワして落ち着かなくなる。もしもソチネに何かあったらどうしよう、いやあの人はすごい人だから大丈夫だ、いやそれでも心配だ……と、脳内でずっと同じ問答を繰り返していた。

「アサヒ! ちょっとついてきて!」

 ある日の夜、ソチネが久しぶりに帰ってきたかと思えば、事情も話さず朝陽の手を掴んで馬車に飛び乗った。
 朝陽の向かいに座るソチネは、気が張っているのか険しい顔で窓の外を眺めている。
 朝陽はおそるおそる、ソチネに尋ねた。

「あの……、どこに向かってるんでしょうか」
「王城よ。大魔王を倒すパーティが集まったの」
「良かったですね! これでヒト族も安泰だ」
「国王がこれ以上の駄々をこねなければ、ね」

 ソチネはチッと舌打ちして、激しく貧乏ゆすりをした。朝陽は、こんなに苛立っているソチネをはじめて見た。よほど国のトップたちに不満が溜まっているのだろう。

「国王も、冒険者ギルドマスターも、体裁や自分の保身ばかり考えている。そんなものを守ったって、国民が死んじゃったら意味がないのに」
「あのぉ……。どうして僕まで王城に連れて行くんです……?」

 朝陽の問いかけに、ソチネは目を瞬きぎこちなく笑った。

「えーっと。あー、なんだか急に眠たくなってきちゃったなー。ちょっと寝るねー」
「えっ。ちょっとソチネさん。僕の質問に――」
「すぴー。ぐがー。ふごー」

 ソチネは決して嘘を吐かない。その代わりに、話したくないことはいつもこうして雑にはぐらかす。

「……どうしてだろう。ものすごく嫌な予感がするぞ」

 王城に到着すると、朝陽はソチネに立派なローブを渡された。その上、三角帽子まで被らされた朝陽は、いかにも魔術師という装いが恥ずかしく、居心地が悪くて体を揺らす。

「ソチネさぁん。どうしてこんなコスプレをする必要があるんですか……?」

 ソチネも魔術師の装いに着替えながら応える。

「今から国王に謁見するのよ? 正装しないと失礼じゃない」
「謁見!? 僕もですか!?」
「そうよ。私の弟子として恥ずかしくないよう、ピシッとしてちょうだいね」

 ソチネは王城の中でも堂々と歩き、迷うことなく謁見の間まで辿り着いた。
 ソチネの来室に気が付いた国王は、ブルッと体を震わせる。

「ソロモン様……。もう、おいでなさったのか」
「ええ。大魔王に挑む人を集め終えましたので」
「むぅぅ……。か、感謝いたします……」
(うわあ、国王に様付けで呼ばれてるよこの人……)

 一人だけ場違いに思えてならない朝陽は、ソチネの隣で跪き、身を縮めた。
 国王が咳ばらいをして、朝陽を顎でしゃくる。

「して、彼はどなたですかな?」
「私の一番弟子、アサヒと申します」
「ほう、アサヒ。変わった名と髪の色だな。そなたも大魔王に挑むパーティの一人か?」

 朝陽はがくがく震えながら挨拶をした。

「は、はじめましてっ。あ、あ、朝陽と申しますっ。え、えっと、あの。僕はパーティの一人では――」

 狼狽え、まともに話せなくなっている朝陽に、国王は呆れたような顔をした。こいつがパーティなわけがないと確信した様子だった。

 そんな中、朝陽の言葉をソチネが遮る。

「はい。彼もパーティの一人です」
「「ええっ!?」」

 国王と朝陽が声を揃えた。しかしソチネの表情は微動だにしない。

「役職はローラー。彼は必要不可欠な存在です」
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