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第5章:純血エルフの村

第41話 呪われた木の根

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 フルーバの村を一人で散策しながら、朝陽はソチネのことを考える。

(ソチネさんってダメ男に引っかかるタイプだったんだ。惚れっぽいみたいだし。じゃあ、別に僕がこの世界に来てなかったとしても、今頃他の誰かを追いかけ回していたのかな。ふうん)

 そこまで考えて、ハッと我に返った。

(……なんでイラッとしてるんだろ。ソチネさんと僕はただの師弟。ソチネさんと僕はただの師弟……)

 フルーバの村はのどかで空気が柔らかい。舗装されていてない胡桃色の土の道を歩いているだけで、風が野花たちの優しい香りを運び心を落ち着かせてくれる。頭の中で籠っていたモヤモヤもいつしか抜けてどこかに行った。

 朝陽は微笑を浮かべ、木々を見上げながらゆっくり歩いた。

「っ」

 ひと気のない細道を歩いていると、何かが朝陽の髪を引っ張った。振り返ると、先ほど儀式の手伝いをしてくれた四人の妖精がいた。

「さっきの妖精さん。どうしたの?」

 妖精たちは少し離れたところまで飛び、朝陽を手招きした。

「……?」

 朝陽が追いつくと、妖精はさらに森の奥へ進んで手招きする。
 それを何度か繰り返すと、中央に木が一本佇むだけの開けた場所に出た。

「ここは……?」

 妖精が木のまわりをくるくる回る。どうやらこの木を朝陽に見せたかったようだ。

「ねえ、これは何? どうして僕をここまで連れてきたの?」

 朝陽の問いに答えるように、妖精は地面から顔を覗かせる木の根に座った。
 目を凝らした朝陽は息を呑む。木の根が黒く変色し、黒い靄に覆われていた。
 ドロリスの子どもたちと症状がよく似ている。

「まさかこの木……大魔王に呪われてる……?」

 妖精たちは頷き、ぽろぽろと涙を流す。その涙は地面に落ち、小さな野花を咲かせた。
「この木を助けたいんだね」

 朝陽の言葉に応える代わりに、妖精たちが自身の髪と羽を切って差し出した。

「これを使えばいいのかな……」

 朝陽はまず周囲の様子を観察した。土や雑草、他の木々には大魔王の呪いは見られない。むしろ澄み渡り清らかな精気を滲ませていた。
 次に、大魔王の呪いを受けた木を見上げる。一見他の木々と変わらないほど青々とした葉をつけているし、幹もいたって健康そうだ。どうやら、弱っていた根の一部だけが呪われてしまったらしい。

「これなら僕でもなんとかできそうだ。まずはこの木に合う魔法陣に描きかえないとな……」

 地面に触れ、木に触れ、空気を肺いっぱいに吸い込み、草花の匂いを嗅ぐ。どこも澄みきっているのに、根だけが場にそぐわない禍々しい瘴気を纏っているのが気持ち悪かった。

 妖精が、どこかから持ってきたパンとワインを朝陽の前に置いた。
 朝陽はパンをかじりながら、木を背もたれにして魔法陣の構想を練る。

(この木はきっとヒト族よりも清い存在だろうから、より清めの効果が高い魔法陣にしないと効果が出なさそうだ。ペンタクルはそのままで、香はアロエとジャコウ、蝋燭には――)

 この間まで、朝陽は魔法陣を描くのが楽しくて魔術の勉強をしていた。しかし、ドロリスの子どもたちのために魔術師ソロモンの魔法陣をアレンジしたあの日、ただ完成された魔法陣を描き写すだけでは得られない達成感や満足感を得た。

 この時も、こうして木のための魔法陣にアレンジする作業に喜びを感じていた。

(それぞれのモノに合った、そのモノのためだけの魔法陣。そのモノのことを調べて、考えて、想うこの時間が好きだ。いつかは一からオリジナルの魔法陣を作れるようになりたいな)

 黙々と羊皮紙に何かを書き込んでいる朝陽を、リヴィルとソチネが物陰から盗み見ていた。

「あいつは一体何をしているんだ。フルーバの聖木にもたれかかりやがって、卑しくも食事をとるなど。けしからん。けしからんぞぉ……っ」
「あら、じゃああなたはアサヒに感謝するべきね。今あの子は、その木を呪いから解く方法を考えているのよ」

 リヴィルは口をあんぐり開け、小声で叫んだ。

「なに! 聖木が呪われているだと!?」
「ええ。見た感じ、ほんの一部だけだけどね。まあ、症状が軽いし強い木でしょうから、放っておいても数百年は枯れることはないわ。それでも、呪いが土を浸蝕して、徐々にフルーバの地が穢されるでしょうけど」
「それはいかん……! おい、あんなやつ信用できんからお前がなんとかしてくれ。仮に聖木を救ったとて、それを理由にふんぞり返って我々を従えさせようとするに違いない」

 ソチネは呆れたようにため息を吐き、朝陽のまわりを飛び回る妖精を指さした。

「あなたは妖精のことも信用していないの? あの子たちが、私じゃなくてアサヒを選び、フルーバ内のさらに隠された森に佇む聖木の元に導いたのよ」
「むぅ……」
「まあ、見ていなさい。アサヒはあなたが思っているようなヒトではないから」

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