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第4章:魔族の子

第33話 魔術史書の仕掛け

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 図書館の扉には、ウォード錠と南京錠が二重でかけられていた。朝陽は周りに誰もいないことを確認してから、初級「開錠」魔法スクロールを広げる。

 南京錠が開いた。
 朝陽はもう一度同じことをしたが、ウォード錠はうんともすんとも言わなかった。

「……さすがに初級魔法スクロールでは開かないか」

 悩んだ末、朝陽は黒猫に話しかける。

「ドロリスさん」
「……なんだ」
「力を貸してください。この錠、開けられますか」

 黒猫はじっと鍵穴を見て、頷いた。

「容易い」

 何の動作もなく鍵を開けた黒猫を抱え、朝陽は図書館に忍び込む。真っ暗で静かすぎる空間に、朝陽はブルッと震えた。

 朝陽はひたすら本のページをめくり、百五十年前の歴史を調べる。しかし、やはりどれも破られているか塗りつぶされているかのどちらかだった。

(……残りの書物もきっと塗りつぶされてるんだろうな。調べたって無駄なんじゃないか)

 そんな考えが脳裏によぎった。

(絶対にソチネさんに直接聞いた方が早い。ソチネさんのことだ。本当のことは隠して、適当な嘘を言ってお願いしたらすぐに教えてくれそうだ――)

 朝陽はハッとして自身の顎を殴り、それだけはしてはいけないと自分に強く言い聞かせる。
 もし朝陽が魔王の子を救えたとして、それがヒト族にバレたら大問題になるだろう。最悪、処刑も考えられる。朝陽には、それほど危険なことをしようとしているという自覚はあった。

(そんなことにソチネさんを巻き込んじゃいけない。彼女の好意に甘えるな。僕一人でやるんだ)

 気を取り直して本棚から次々と本を引き抜く朝陽。
 しかし史実は隠されたまま、空が明るみ始める。

「ん……?」

 図書館に忍び込んでから七時間が経った頃、朝陽は南京錠がかけられた魔術史書を見つけた。ただの紺色の表紙だと思っていたのに、朝陽が手に取ると青白く光る円が浮かび上がった。

「変わった書物だな……」

 南京錠にはルーン文字で「水星の第四」と刻まれており、鍵穴には鍵の代わりに小さな羽が差し込まれていた。引き抜いた羽先は、黒いインクで濡れている。

(羽ペン。「水星の第四」って文字。それと、表紙に浮かび上がる円……)

 何をするべきか分かった朝陽は、舌先を出しながら円の上に羽ペンを走らせた。

(あらゆる事柄について知識と理解を得ることができるとされている、「水星の第四」ペンタクル。それを描かないとこの本が開けないって? そんなの、ほとんど誰にも読ませるつもりないじゃないか)

 朝陽の鼓動が高鳴る。この仕掛けは、よほど魔術の勉強をしている人でなければ破れないはずだ。つまり史実を隠したい人たちの手が入っていない可能性が高い。

(百五十年前の本当の歴史が書かれていたら……。大魔王の呪いに抗う方法が分かるかもしれない……!)

 ペンタクルを描き上げると、南京錠が開き、本はただの紺色の表紙に戻った。
 朝陽は鼻息荒くページをめくる。

(あった……)

 当時の勇者が必死に隠そうとした本当の歴史が、そこにはありのまま書かれていた。
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