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第3章:魔術師ソロモン

第20話 オタクの叫び

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 その日から朝陽は、図書館でソロモンの魔術書を片っ端から読み漁るようになった。一度読めば記憶できるが、ソロモンの書そのものに力が宿っているような気がして、何度も読み返してしまう。
 夜になると、朝陽は夢中になってソロモンの魔法陣を描き写した。ソロモン独特の癖を再現できるよう、何枚も何枚も描き続けた。

 その日も朝陽は図書館でソロモンの魔術書を読んでいた。
 朝陽のうしろを通りがかったソチネがふと立ち止まる。

「こんにちは、アサヒさん。最近その本ばかり読んでいますね」

 しかし朝陽からの返事はない。

「? アサヒさん?」
「……はあ、すごい……。何回見ても最高だ……。なんて美しいんだソロモン……ッ。好きだっ……!」

 ソロモンの魔法陣が尊すぎて、図書館にいる全員に聞こえそうなほど大きなため息を吐く朝陽。最近はソロモンの魔法陣を見ると、推しキャラの二次創作漫画を読んでいる時のような得も言われぬ感情に襲われるようになってしまった。

「生まれて来てくれてありがとうソロモン……ッ。僕は君に会うために異世界に来たのかもしれない……。はあ……好きだ……好きすぎて涙が出てきた……」

 朝陽は背もたれにもたれかかり、もう一度ため息を吐いた。
 そこでやっと、背後に立っているソチネに気が付いた。

「ソッ……ソチネさん!? いつからそこに……。え、まさか僕の独り言聞いてました……?」

 ソチネは顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。気まずいのか朝陽と目を合わそうとしない。
 気持ち悪い独り言を聞かれた朝陽は、沸騰したやかんのような奇妙な声を上げた。

「あっ、あのっ、あのっ。ごめんなさいっ、そのっ。僕、ちょっと今この人の魔法陣にハマッててっ。いやもうほんとすごくてこの人っ。ちょっと好きすぎてですね、変な独り言を言っちゃったんですがっ、普段はこんなこと言わないですからねっ。ソロモンにだけ! ソロモンにだけなんで!」

 言い訳にすらなっていない朝陽の言葉を聞くたびに、ソチネの顔がもっと赤くなっていく。最終的には何も言わずに走り去ってしまった。

 一人取り残された、ソロモンの書物に囲まれた朝陽に、近くに座っていた人たちがジトッとした目を向ける。その中の一人が隣に座っていた人に耳打ちしたのが聞こえた。

「百五十年前の偉人ソロモンに恋をした青年は、チノマ一の美女にドン引きされて嫌われた」

 クスクスと小さな笑い声で囲まれた朝陽は、半べそをかきながら図書館を飛び出した。

「うわあああっ! みんなに笑われたしソチネさんに嫌われたぁぁっ! もう図書館行けないよ!」

 エールを一気飲みしたかと思えば大声で泣き喚く朝陽。
 一緒に飲んでいたナナライパーティは腹を抱えて笑った。
 ナナライは朝陽の背中を叩いて慰める。

「大丈夫だよー! ソチネさんは優しい人だから、そんなことで嫌いにならないって! ……まあ、ちょっと変態な変人だとは思われたかもしれないけど!」
「それじゃあ嫌われたも同然じゃないですか! あぁぁ……明日から僕はどうしたらいいんだ……。あっ、そうだナナライ。僕の代わりにソロモンの魔術書借りて来てくださいよ!」
「無理。図書館の魔術書は持ち出し禁止だから」
「うおぉぉぉおん……。僕の人生終わったぁぁ……。ソロモンのいない世界なんて耐えられない……」

 額をテーブルに打ち付ける朝陽を横目に、オウンとピヴルが囁き合う。

「聞いたかよピヴル。ソチネちゃんよりもソロモンに会えない方が嫌らしいぞ」
「元からちょっと変わったやつだと思っていたが、よっぽどだったな」

 ツボに入ったのか爆笑して涙を流していたマルシャが、朝陽のジョッキにエールを注ぐ。

「ほらアサヒ! こういう時は飲むに限るよ! 最愛のソロモンと会えなくなり、とっても綺麗な司書にドン引きされた哀れなアサヒに乾杯!」

 ナナライパーティはその晩、朝陽のみっともない泣き声を肴に、朝まで楽しく酒を飲んだ。
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