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第2章:ナナライパーティ
第14話 魔術文字
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ゴブリンやスライム、コボルトなどの雑魚モンスターを倒していき、魔物素材を順調に集めていたナナライパーティは、ダンジョンに潜って五時間目にしてやっと一つ目の宝箱を見つけた。
マルシャは歓声を上げて宝箱に抱きつく。
「やったー! 宝箱だー! 木箱だからあんまり良いのは入ってないだろうけど、それでも嬉しいね! できたらお酒が入ってたら嬉しい!」
「いや、そこは宝石とか装備とかって言えよ。売ればたんまり酒買えんだから」
ピヴルの呆れ声を気にする様子もなく、マルシャはノリノリで「開錠」魔法スクロールを展開した。
中には一冊の本が入っている。
マルシャとピヴルは同時に肩を落とした。
「なんでぇーっ。ボロボロの本って! つまんない!」
「これだったら酒の方がまだマシだったわ……」
非難轟々の中、ナナライは本をひょいと取り上げ、ページをぺらぺらめくる。
「魔術書だね。うーん、著者直筆でもなければ写本ですらない、印刷版の魔術書かあ。宝ランクはGかな。こんなに汚れてたら古本屋に売ることもできないし、これはダンジョン前のお店で売ろう」
「はぁーっ。喜んで損した。休憩しよう、休憩! お酒飲まないとやってらんない!」
疲労も溜まっていたので、マルシャの提案には全員が賛成した。
ここからはローラーの腕の見せ所だと、朝陽は張り切って料理を作る。今朝マルシャが狩ってきた鳥を使って欲しいとの要望があったので、二羽は丸焼きに、一羽は一口大の大きさに切ってスープの中に入れた。どの料理もナナライたちは美味い美味いと言って食べてくれた。
また酒盛りを始めたマルシャ、オウン、ピヴルを眺めていたナナライに、朝陽が話しかける。
「ナナライさん。さっきの魔術書、見せてもらってもいいですか?」
「もちろんいいよー。はいどうぞ」
ページをぱらぱらとめくりながら、朝陽は眉を寄せる。ナンブリッジ国の文字は読めるはずなのに、本に書かれた文字を読むことができなかった。
「これ、もしかして外国の文字ですか?」
「たぶん、ヘブル文字かルーン文字だね。魔術で使われる特別な文字だよ。私は読めないけど」
魔法使いなのに魔術書が読めないのはいかがなものか、という朝陽の心の声を敏感に感じ取ったナナライは頬を膨らませる。
「私は魔術師じゃなくて魔法使いだもん。冒険者で魔術書読める人なんてエルマ様しかいないよ、たぶん」
「魔法使いと魔術師って違うんですか?」
「全然違うよぉ! 魔法使いは魔力を持ってる人なら誰でもなれるけど、魔術師は賢くて魔力が高い人しかなれない超上級職! 格が違うんですぅ~」
魔法使いは杖を使ってなんとなく魔法を使っている人で、魔術師は魔術を研究して魔法陣や魔術書を生み出すすごい人、とナナライはざっくり説明した。
「私たちは自国の文字を読むのも精一杯。本を読むのは好きじゃないの。だって眠くなるから。私のパーティはみんな脳筋だから本が嫌い! アサヒは好き?」
「僕は結構好きですね。魔術書って面白そうだから興味あったんですが、文字が読めなくて残念です」
「だったら、ダンジョン終わったら図書館に行くといいよー! 本がたくさんあるから、ヘブル文字やルーン文字についての書物もあるはず! しかも図書館にある魔術書は全て著者直筆なんだよ!」
ナナライによると、文字は人の手で書いてこそ力が宿るものだそうだ。なので、強い魔力を持つ魔術師がその手で書きおろした書物が最も力が強い。弟子や職人が写本したものにも多少なりともは力があるが、印刷された魔術書には特別な力はなく、ただの教科書としてしか機能しないらしい。
「だから、魔術に興味があったらまずは図書館に行くべき! 今度連れて行ってあげるね!」
夜の見張りは、朝陽だけでなくナナライたちも交代でしてくれた。それに驚いている朝陽に、マルシャが「じゃあローラーはいつ寝るって言うのぉ!?」と素っ頓狂な声を出した。そこではじめて、朝陽はローラーも眠っていいことを知った。
見張りの間、朝陽は魔術書に目を通した。内容は理解できないがスキルのおかげで丸暗記することはできる。まるでスキャンしたデータが脳内に保存されるような感覚だった。
(元の世界でこのスキル持ってたら、テストの時楽だっただろうなあ……)
魔術書で使われている文字は魅力的な書体をしていた。書道家としての朝陽が疼く。
(なんだこのかっこいい書体。ちょっと甲骨文字に似てる? まあ全然違うけど。うわぁ……臨書したい、これ……)
さすがに見張り中に墨を磨ることはできないので、朝陽は指で砂の上に文字を書いた。何度も魔術書の文字を真似ていくうちに、だんだんとよく似た文字の違いも分かるようになってきた。
「アサヒー……見張り変わる……」
「ひぇあっ!」
突然ピヴルに肩を叩かれ、朝陽は体を大きくのけぞらせた。そんな大げさに驚くなと笑われた彼は、顔を真っ赤にして薄っぺらい布に潜り込んだ。
朝陽がさきほどまでいた場所に座ったピヴルは、ふと地面に目を向ける。
「ん? なんじゃこりゃ。ぷぷ。あいつ、見張り中に子どもみたいな落書きしやがって」
地面をびっしり埋め尽くす、特別な力を持つ文字たち。
もし朝陽が魔力を持っていたのなら、その完璧に再現された文字列の隙間に入ったピヴルを、骨も残さず焼き尽くしていただろう。
マルシャは歓声を上げて宝箱に抱きつく。
「やったー! 宝箱だー! 木箱だからあんまり良いのは入ってないだろうけど、それでも嬉しいね! できたらお酒が入ってたら嬉しい!」
「いや、そこは宝石とか装備とかって言えよ。売ればたんまり酒買えんだから」
ピヴルの呆れ声を気にする様子もなく、マルシャはノリノリで「開錠」魔法スクロールを展開した。
中には一冊の本が入っている。
マルシャとピヴルは同時に肩を落とした。
「なんでぇーっ。ボロボロの本って! つまんない!」
「これだったら酒の方がまだマシだったわ……」
非難轟々の中、ナナライは本をひょいと取り上げ、ページをぺらぺらめくる。
「魔術書だね。うーん、著者直筆でもなければ写本ですらない、印刷版の魔術書かあ。宝ランクはGかな。こんなに汚れてたら古本屋に売ることもできないし、これはダンジョン前のお店で売ろう」
「はぁーっ。喜んで損した。休憩しよう、休憩! お酒飲まないとやってらんない!」
疲労も溜まっていたので、マルシャの提案には全員が賛成した。
ここからはローラーの腕の見せ所だと、朝陽は張り切って料理を作る。今朝マルシャが狩ってきた鳥を使って欲しいとの要望があったので、二羽は丸焼きに、一羽は一口大の大きさに切ってスープの中に入れた。どの料理もナナライたちは美味い美味いと言って食べてくれた。
また酒盛りを始めたマルシャ、オウン、ピヴルを眺めていたナナライに、朝陽が話しかける。
「ナナライさん。さっきの魔術書、見せてもらってもいいですか?」
「もちろんいいよー。はいどうぞ」
ページをぱらぱらとめくりながら、朝陽は眉を寄せる。ナンブリッジ国の文字は読めるはずなのに、本に書かれた文字を読むことができなかった。
「これ、もしかして外国の文字ですか?」
「たぶん、ヘブル文字かルーン文字だね。魔術で使われる特別な文字だよ。私は読めないけど」
魔法使いなのに魔術書が読めないのはいかがなものか、という朝陽の心の声を敏感に感じ取ったナナライは頬を膨らませる。
「私は魔術師じゃなくて魔法使いだもん。冒険者で魔術書読める人なんてエルマ様しかいないよ、たぶん」
「魔法使いと魔術師って違うんですか?」
「全然違うよぉ! 魔法使いは魔力を持ってる人なら誰でもなれるけど、魔術師は賢くて魔力が高い人しかなれない超上級職! 格が違うんですぅ~」
魔法使いは杖を使ってなんとなく魔法を使っている人で、魔術師は魔術を研究して魔法陣や魔術書を生み出すすごい人、とナナライはざっくり説明した。
「私たちは自国の文字を読むのも精一杯。本を読むのは好きじゃないの。だって眠くなるから。私のパーティはみんな脳筋だから本が嫌い! アサヒは好き?」
「僕は結構好きですね。魔術書って面白そうだから興味あったんですが、文字が読めなくて残念です」
「だったら、ダンジョン終わったら図書館に行くといいよー! 本がたくさんあるから、ヘブル文字やルーン文字についての書物もあるはず! しかも図書館にある魔術書は全て著者直筆なんだよ!」
ナナライによると、文字は人の手で書いてこそ力が宿るものだそうだ。なので、強い魔力を持つ魔術師がその手で書きおろした書物が最も力が強い。弟子や職人が写本したものにも多少なりともは力があるが、印刷された魔術書には特別な力はなく、ただの教科書としてしか機能しないらしい。
「だから、魔術に興味があったらまずは図書館に行くべき! 今度連れて行ってあげるね!」
夜の見張りは、朝陽だけでなくナナライたちも交代でしてくれた。それに驚いている朝陽に、マルシャが「じゃあローラーはいつ寝るって言うのぉ!?」と素っ頓狂な声を出した。そこではじめて、朝陽はローラーも眠っていいことを知った。
見張りの間、朝陽は魔術書に目を通した。内容は理解できないがスキルのおかげで丸暗記することはできる。まるでスキャンしたデータが脳内に保存されるような感覚だった。
(元の世界でこのスキル持ってたら、テストの時楽だっただろうなあ……)
魔術書で使われている文字は魅力的な書体をしていた。書道家としての朝陽が疼く。
(なんだこのかっこいい書体。ちょっと甲骨文字に似てる? まあ全然違うけど。うわぁ……臨書したい、これ……)
さすがに見張り中に墨を磨ることはできないので、朝陽は指で砂の上に文字を書いた。何度も魔術書の文字を真似ていくうちに、だんだんとよく似た文字の違いも分かるようになってきた。
「アサヒー……見張り変わる……」
「ひぇあっ!」
突然ピヴルに肩を叩かれ、朝陽は体を大きくのけぞらせた。そんな大げさに驚くなと笑われた彼は、顔を真っ赤にして薄っぺらい布に潜り込んだ。
朝陽がさきほどまでいた場所に座ったピヴルは、ふと地面に目を向ける。
「ん? なんじゃこりゃ。ぷぷ。あいつ、見張り中に子どもみたいな落書きしやがって」
地面をびっしり埋め尽くす、特別な力を持つ文字たち。
もし朝陽が魔力を持っていたのなら、その完璧に再現された文字列の隙間に入ったピヴルを、骨も残さず焼き尽くしていただろう。
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