9 / 63
第1章:魔王討伐
第9話 使い捨て
しおりを挟む
炎が消え去ったあとには、焼け焦げ息絶えたドラゴンの姿があった。
朝陽の前にぽつぽつと影が増えていく。中央に立つ勇者は、それまで見せたことのない冷たい目で朝陽を見下ろしていた。
「おい、貴様。先ほどの会話、聞こえていたぞ」
「……」
「俺たちよりも使い捨ての道具の方が大切だって?」
「『ひだまり』は使い捨ての道具なんかじゃありません……。湊の……僕にとっても……とても大切な作品だったんです……」
勇者は鼻で笑い、朝陽を蹴り上げた。
「ぐあっ……」
「ふざけるな! 俺たちは代用のきかない勇者パーティなんだぞ! この使い捨てのアイテムやお前と違ってな!!」
「……僕のこと、使い捨てだと思ってたんですか……?」
眉を寄せる朝陽に、勇者をはじめ他のメンバーもわざとらしく首を傾げた。
「当然だろう。なんだ? まさかこれまでの言葉を真に受けていたか?」
「で、でも……勇者、君は僕の命も大切だと言ってくれたじゃないですか……」
勇者の高笑いが魔王の間に響き渡る。
「ああ! 大切だったさ。さっきまではな。なぜならお前は――ローラーは、俺たちが危険にさらされたときの囮……つまり身代わりの命として必要だったからなあ!」
「は……?」
朝陽は仲間たちの顔を見回した。昨晩酒を振る舞ってくれたエルマも、楽しい話を聞かせてくれたサルルも、大声で笑いながら朝陽の頭を撫でまわしていたダイアも、今では彼にゴミを見るときのような目を向けている。
勇者が朝陽の頭に足を置く。
「俺たちの身代わりになる前に死なれちゃかなわない。それじゃあ高い金を払った意味がなくなるからな。それに俺たちは、伝説級の魔法スクロールを……いざとなれば戦力になるものを、お前が隠し持っていることも知っていた」
「違う……っ、これは魔法スクロールなんかじゃない……っ」
「うるさい」
踏みつけられ床に頭を強打した朝陽は、痛みとショックのあまり意識を失いそうになった。
勇者は怒りに任せ、今まで隠していたことを暴露した。
朝陽が召喚された前日に失踪した勇者パーティの一人も、長期雇われのローラーだったそうだ。それまで酷使され続けていた彼の体はもうボロボロで、魔王城に挑むとなれば、まず間違いなく命はないだろうと悟り、ローラーは逃げ出した。
「全く。臆病者の出来損ないだったよ、彼は」
慌てて臨時ローラーを募集するも、手を挙げる者はいなかった。
「魔王城に挑むには俺たちのレベルがまだ低すぎるとか、せめてもっと弱い魔王に挑めとか、ローラーの分際で鬱陶しいアドバイスを言うだけ言って逃げるんだ。それでも挑もうとする勇敢な俺たちに、本来ならば賞賛を向けるべきじゃないのか? 国の為に戦う俺たちに命を賭すべきなんじゃないか?」
藁にもすがる思いで、勇者たちは召喚術を試みたそうだ。召喚術は、魔術の退化によりここ百五十年成功させた者がいなかった。それをエルマが奇跡的に成功させ、朝陽が召喚されたらしい。
「やはり神は勇者の味方だ。異世界人ほど身代わりとしてうってつけの命はない。なぜなら魔族は稀少なものを好むからな。万が一のことがあっても、お前の命を差し出せば俺たち全員が助かるに違いなかった」
その上、朝日の鞄には伝説級の魔法スクロール――生徒の習字作品が三枚も入っていた。たとえ朝陽が非戦闘員だったとしても、そのスクロールがあれば、下手な冒険者よりも戦力になると勇者パーティは踏んだのだ。
朝陽は力ない声を漏らす。
「じゃあ……元から僕の命も、生徒の作品も、使い捨てとしか見ていなかったんですね……。あんなに優しくしてくれたのに……」
「そりゃあ、辛く当たって逃げられると都合が悪いからな。俺たちはそこまでバカじゃない。ローラーには優しくして、喜んで囮になってもらえるよう接している」
勇者は朝陽の髪を掴み、耳元で囁いた。
「ああ、それと。送還術なんて魔術は存在しない」
朝陽は目を見開き、拳をぶるぶると震わせた。
「存在しない……? じゃあ、まさか……」
「お前にローラーをさせるための方便だ。奇跡的に魔王城から無事帰れたとしても、お前は元の世界になんか帰られないんだよ」
勇者が噴き出すと、他の三人もつられて肩を震わせた。
「それなのにお前はそれを信じて……全員分の荷物を文句ひとつ言わず持ち、美味いメシを作り、鎧や武器まで磨いてくれていたなあ。ぷぷ、ぶはっ、あはは! 本当におかしかったよ! 健気で従順なお前を見る度、笑いを堪えるので必死だった!!」
朝陽の前にぽつぽつと影が増えていく。中央に立つ勇者は、それまで見せたことのない冷たい目で朝陽を見下ろしていた。
「おい、貴様。先ほどの会話、聞こえていたぞ」
「……」
「俺たちよりも使い捨ての道具の方が大切だって?」
「『ひだまり』は使い捨ての道具なんかじゃありません……。湊の……僕にとっても……とても大切な作品だったんです……」
勇者は鼻で笑い、朝陽を蹴り上げた。
「ぐあっ……」
「ふざけるな! 俺たちは代用のきかない勇者パーティなんだぞ! この使い捨てのアイテムやお前と違ってな!!」
「……僕のこと、使い捨てだと思ってたんですか……?」
眉を寄せる朝陽に、勇者をはじめ他のメンバーもわざとらしく首を傾げた。
「当然だろう。なんだ? まさかこれまでの言葉を真に受けていたか?」
「で、でも……勇者、君は僕の命も大切だと言ってくれたじゃないですか……」
勇者の高笑いが魔王の間に響き渡る。
「ああ! 大切だったさ。さっきまではな。なぜならお前は――ローラーは、俺たちが危険にさらされたときの囮……つまり身代わりの命として必要だったからなあ!」
「は……?」
朝陽は仲間たちの顔を見回した。昨晩酒を振る舞ってくれたエルマも、楽しい話を聞かせてくれたサルルも、大声で笑いながら朝陽の頭を撫でまわしていたダイアも、今では彼にゴミを見るときのような目を向けている。
勇者が朝陽の頭に足を置く。
「俺たちの身代わりになる前に死なれちゃかなわない。それじゃあ高い金を払った意味がなくなるからな。それに俺たちは、伝説級の魔法スクロールを……いざとなれば戦力になるものを、お前が隠し持っていることも知っていた」
「違う……っ、これは魔法スクロールなんかじゃない……っ」
「うるさい」
踏みつけられ床に頭を強打した朝陽は、痛みとショックのあまり意識を失いそうになった。
勇者は怒りに任せ、今まで隠していたことを暴露した。
朝陽が召喚された前日に失踪した勇者パーティの一人も、長期雇われのローラーだったそうだ。それまで酷使され続けていた彼の体はもうボロボロで、魔王城に挑むとなれば、まず間違いなく命はないだろうと悟り、ローラーは逃げ出した。
「全く。臆病者の出来損ないだったよ、彼は」
慌てて臨時ローラーを募集するも、手を挙げる者はいなかった。
「魔王城に挑むには俺たちのレベルがまだ低すぎるとか、せめてもっと弱い魔王に挑めとか、ローラーの分際で鬱陶しいアドバイスを言うだけ言って逃げるんだ。それでも挑もうとする勇敢な俺たちに、本来ならば賞賛を向けるべきじゃないのか? 国の為に戦う俺たちに命を賭すべきなんじゃないか?」
藁にもすがる思いで、勇者たちは召喚術を試みたそうだ。召喚術は、魔術の退化によりここ百五十年成功させた者がいなかった。それをエルマが奇跡的に成功させ、朝陽が召喚されたらしい。
「やはり神は勇者の味方だ。異世界人ほど身代わりとしてうってつけの命はない。なぜなら魔族は稀少なものを好むからな。万が一のことがあっても、お前の命を差し出せば俺たち全員が助かるに違いなかった」
その上、朝日の鞄には伝説級の魔法スクロール――生徒の習字作品が三枚も入っていた。たとえ朝陽が非戦闘員だったとしても、そのスクロールがあれば、下手な冒険者よりも戦力になると勇者パーティは踏んだのだ。
朝陽は力ない声を漏らす。
「じゃあ……元から僕の命も、生徒の作品も、使い捨てとしか見ていなかったんですね……。あんなに優しくしてくれたのに……」
「そりゃあ、辛く当たって逃げられると都合が悪いからな。俺たちはそこまでバカじゃない。ローラーには優しくして、喜んで囮になってもらえるよう接している」
勇者は朝陽の髪を掴み、耳元で囁いた。
「ああ、それと。送還術なんて魔術は存在しない」
朝陽は目を見開き、拳をぶるぶると震わせた。
「存在しない……? じゃあ、まさか……」
「お前にローラーをさせるための方便だ。奇跡的に魔王城から無事帰れたとしても、お前は元の世界になんか帰られないんだよ」
勇者が噴き出すと、他の三人もつられて肩を震わせた。
「それなのにお前はそれを信じて……全員分の荷物を文句ひとつ言わず持ち、美味いメシを作り、鎧や武器まで磨いてくれていたなあ。ぷぷ、ぶはっ、あはは! 本当におかしかったよ! 健気で従順なお前を見る度、笑いを堪えるので必死だった!!」
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
天空からのメッセージ vol.36 ~魂の旅路~
天空の愛
エッセイ・ノンフィクション
そのために、シナリオを描き そのために、親を選び そのために、命をいただき そのために、助けられて そのために、生かされ そのために、すべてに感謝し そのためを、全うする そのためは、すべて内側にある 天空からの情報を自我で歪めず 伝え続けます それがそのため
末っ子姫は今日も家族に振り回される
りーさん
ファンタジー
アベリナ帝国の末っ子姫、フィレンティア。
末っ子の女の子のため、多くの兄姉や父母にも愛されており、それをフィレンティアもうれしくは感じていた。
そんな彼女がしばらく家族と暮らしているときに気づいた。
「なんか……愛がおもい?」
一人では、たとえ庭先であろうとも外出なんて許さない。
そもそもいつも家族の誰かがすぐ側にいるので、一人になることがない。
せっかく魔力が強いのに、危険だからと魔法の練習もさせない。
こんなことでは、誰かに依存しなければ生きていけなくなる。
「なんとか離れないと」
そう思うも、なかなかうまく行かずーー?
ーーーーーーーーーー
『冷宮の人形姫』の続編となります。
時系列的には、フィレンティアが感情を取り戻してから一ヶ月後くらいからです。
超変態なジャン=ジャック・ルソーの思想がフランス革命を引き起こすまで
MJ
歴史・時代
ルソーは生まれて9日で母親を亡くす。時計職人の父とは読書をして過ごすが、貴族と喧嘩をしてジュネーヴの街から逃走した。孤児同然となったルソーは叔父に引き取られ、従兄弟と共に少年時代を過ごす。
その後、いろんな職を転々としてニートのような生活を続ける。
どの仕事も長くは続かず、窃盗や変態行為に身を染めた。
しかし、読書だけは続けた。
やがて、ママンと出会い、最初は母親のような愛情を受けるが、その関係はどんどん深くなっていく。
フランスでは普通のことなのか、奇妙な三角関係を経験し、やがて、ママンとの別れも。
音楽を仕事にしたかったが、それほど才能はなかった。
ルソーはその後、女中と結婚し5人の子供を授かるが、貧乏すぎて養えない。
ルソーは抑圧された経験を通して、社会に疑問を持っていた。ルソーは理不尽な社会の事を文章にする。
「人間不平等起源論」
「社会契約論」
「新エロイーズ」恋愛小説
「エミール」教育論
「告白」自伝
「孤独な散歩者の夢想」
昔は娯楽も少なく、文書を書く人はお笑い芸人のようにチヤホヤされたものだ。
それらの文章はやがて啓蒙思想として人々に大きな影響を与えていくこととなる。
ルソーを弾圧する人も現れたが、熱烈に歓迎する人もいる中で過ごす。
そんな彼の思想が今では当たり前となった人権、平等、博愛を世にもたらすフランス革命を引き起こす原動力となった。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
寂しがり屋たちは、今日も手を繋いだまま秒針を回した
海咲雪
青春
【頻発性哀愁症候群】ーーー度々、「寂しい」という感情に襲われる病。「寂しさ」の度合いは人それぞれだが、酷いと日常生活にまで支障を起こす。十万人に一人ほどの割合で発症する稀な病である。先天性の場合もあれば、後天性の場合もある。明確な治療方法はまだ無い。
頻発性哀愁症候群に悩まされる奈々花は、高校の入学式で同じ症状に苦しむ菅谷に出会う。菅谷はクラスの中心にいるような人物で、人と関わるのを恐れている奈々花とは真逆の人物だった。そんな二人が出会って……
「知ってる?人間って寂しくても死なないんだよ。こんなに辛いのに」
「大丈夫だよ。寂しくないから。全然寂しくない」
「病気なのは私も一緒。『寂しがり屋仲間』」
「寂しがり屋」の二人は、今日も手を繋いだまま勇気を出すから。
[この物語はフィクションです。病名等は全て架空の設定です]
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる