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第1章:魔王討伐

第6話 メンバーの一員

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 翌朝、六時ちょうどに迎えに来た勇者は、朝陽を例の地下室に連れて行った。そこには他のパーティも待機しており、彼らの傍らには巨大なリュックが一つ転がっている。

 朝陽が来たことに気付いたダイアが、ニカッと歯を見せ彼にリュックを背負わせた。

「よーし、頼んだぞ、ローラー!」
「えっ、お、重っ……」
「そりゃお前、五人分のアレコレが入ってるんだからな! 頑張れよ!」

 もうすでに帰りたい、と朝陽は思った。

 エルマがメンバーを円の中心に集め、金色の装飾がなされた豪華な巻物を広げる。
「エルシス・テルポルテ」

 朝陽の体が微かに光りふわりと浮いたかと思えば、視界が真っ暗になり、ジェットコースターで急降下したときのような恐怖心と気持ち悪さに襲われた。

 体の感覚が正常に戻り目を開けると、地下室だったはずの場所が薄暗い地上に変わっていた。
 目の前には、黒い茨が張り巡らされた禍々しい城がそびえ立っている。早朝のはずなのに空が暗く、鴉よりも一回り大きな黒い鳥が飛び交っていた。

 朝陽は城を見上げ、身震いした。

「これが……魔王城……」
「正しくは、アストレラ地区の魔王だよ。魔王は地区ごとに点在しているの」

 サルルの補足に、朝陽は首を傾げた。

「え? 魔王って一人だけなんじゃないんですか?」
「魔王はこの国に十人くらいいるよ~。本当は魔族のトップに大魔王っていうのがいるんだけど、百五十年前にかつての勇者様が倒したから今は不在なんだあ」
「今〝は〟?」
「うん。勇者様と同じように、大魔王も転生するから。いつかは現れるはずなの」

 かつての勇者が大魔王を倒したあと、ヒト族は百五十年かけて点在する魔王討伐をしているらしいのだが、倒しても倒しても新たな魔王が就任するのでキリがないらしい。

「君たちも何度か魔王を倒してるの?」

 朝陽が質問すると、勇者パーティからピリッとした空気が流れた。
 勇者は小さく舌打ちして、不愛想に応える。

「いや、まだだ。俺たちはほんの一年前にパーティを組んだばかりだからな。今日が初めての魔王討伐だ。しかし、必ず勝つ」

 サルルとエルマが頷き、勇者の腕に抱きついた。

「そのためにいっぱい訓練してきたもんね!」
「レベル上げもしたもの。大丈夫よ」

 そしてその三人をダイアが羽交い絞めする。

「そうさ! 俺たちは最強の冒険者、無敵の勇者パーティだ!! 絶対勝つぜ! 絶対にだ!」

 夢や目標に向かって努力をしてきたのであろう彼らは、おそらく朝陽よりも少し年下だ。朝陽には彼らの姿が、習字コンクールに向けて必死に頑張っている生徒たちの姿と重なった。

(……と、命がけで戦っている彼らと生徒たちは少し違うか。それでも……なんだか応援したくなるな)

 先ほどまで荷物が重すぎて帰りたいという感情しかなかった朝陽も、勇者パーティの熱意にやられてグッと拳を握った。

「僕は戦うことはできないけど、精一杯サポートします!」
「おお、相棒!」

 勇者は笑顔で彼らの輪の中に朝陽を入れる。

「さあ、行こう。魔族は俺たちが倒すんだ!」

 門に固く巻き付く茨を、エルマが火魔法で一瞬にして灰にする。城に入ると早速魔物が襲いかかってきた。朝陽のゲームの知識が正しければ、襲ってきた魔物は武器を持ったゴブリンだ。

 勇者が剣に手をかけると、ダイアが彼の肩を掴んだ。

「テメェの手は煩わせねえよ、勇者サマ」

 ダイアが気を溜め正拳突きをしただけで、周囲にいたゴブリンが粉々になり吹き飛ばされた。

(す、すごい! すごいけど、めちゃくちゃグロいっ……オエエエッ……)

 戦闘中、朝陽はずっと口に手を当てえずいていた。時には飛び散った魔物の目玉や血肉が服に付き、情けない悲鳴を上げてはカクカク震える。
 真っ青な顔をしている朝陽に、サルルが駆け寄った。

「アサヒ、大丈夫? 回復魔法かけようか?」
「ううん! 僕は大丈夫ですから、他のメンバーのために魔力は温存してください」
「で、でも、具合悪そうだよぉ。せめてポーションを……」
「それもメンバーのための貴重な薬だから、僕には使わないでください」

 二人のやりとりを聞いていた勇者が、朝陽にポーションを投げ渡す。

「アサヒ、飲め。君の分のポーションもきちんと用意している。今は君も俺のパーティであり、君の命も大切なものなんだ。だから俺たちにばかり気を遣って無理をするな」
「ゆ、勇者……ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて……」

 勇者パーティは、魔王城を攻略している間、ずっと朝陽の体調を気にしてくれていた。
 はじめは強引で自慢ばかりする勇者たちがいけ好かないと思っていた朝陽も、彼らと行動を共にしているうちに、だんだんと好意を抱くようになった。
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