上 下
3 / 63
プロローグ:異世界転移

第3話 勇者パーティにステハラされました

しおりを挟む
 朝陽は顔をしかめた。聞き慣れない複数の声がやかましかったせいもあるが、それよりも、ジメッとした空気に漂う雑巾のような臭いに耐えられなかったからだ。

 朝陽の気も知らず、四種類の声が大喜びしている。

「うおおお! まさか本当に召喚術を成功させちまうなんて!! エルマ! やっぱりお前は天才だな!」
「嘘! まさか成功するなんて思ってなかったわよ? これ歴史書に載っちゃうんじゃない?」
「いやもうお前の名前はすでに歴史書に載ってるだろ」
「ああ、そうだった。ふふ」

 地響きのような野太い声と、やたらと艶めかしい声がそんなやりとりをしている一方で、オタク女子が大歓喜しそうなイケメンボイスと、萌えキャラのようなほわほわした女の子の声が会話しているのも聞こえた。

「ああ、エルマが俺のパーティにいてくれて良かった! 俺はなんて幸せ者なんだ!」
「さすがエルマちゃんだねえ~。サルルも頑張らなくっちゃ!」

 薄目を開けた朝陽は、すぐにそっと目を閉じた。
 胸毛ボーボーのマッチョ。赤髪の美女。金髪碧眼のイケメン。三角帽を被った美少女。
 蝋燭の火で照らされる古い石造りの建物の床には、公園で見たものと同じ魔法陣が描かれている。
 見知らぬ人たち、見知らぬ場所のはずなのに、彼らが何者か、ここがどこかがぼんやりと把握できてしまった朝陽は苦笑を漏らした。

 彼らはおそらく冒険者かなにかのパーティだろう。マッチョは格闘系のジョブ、美女は魔法使い、イケメンは剣士、美少女も魔法使い。そしてこの場所はどこかの地下室で、魔術的な儀式が行われる場所。
 昨晩夜更かしをしてプレイしていたMMORPGでも、こういうキャラメイクをしているプレイヤーがいるし、こういう場所も存在する。

 朝陽はコツコツと自身の頭を軽く叩く。

「なんだ、白昼夢か。最近ゲームしすぎだしな。気を付けないと」

 白昼夢から覚めようと深呼吸を繰り返す朝陽に、四人が気さくに話しかけてくる。懸命に無視していた朝陽だが、女子たちにくっつかれて思わず目を開けた。

「ちょっ、ちょっと、なんですかさっきから! や、やわらか……じゃなくて、やめてください!」

 突然大声を出した朝陽に、空想上の人物はポカンと口を開けた。
 しかし、金髪イケメンはすぐに笑顔を取り戻し、激しいスキンシップで朝陽を歓迎する。

「やあやあ、異世界人! こちらの世界へようこそ! 俺はこの国の勇者、マルクスだ。ところで、俺たちは明日魔王を討伐する予定なんだが、君も一緒に来てくれないか?」

 わらび餅の感触に思考を奪われていた朝陽は、勇者の言葉をすぐには理解できなかった。

「……はい?」
「実はメンバーの一人が昨晩失踪してね……。すごく困っていたんだよ。それで、藁にも縋る思いで召喚術――異世界から優秀な人材を呼び寄せる非常に難しい術を試してみたら、なんと君が来てくれた! これは運命だ! 君は俺たちのパーティに加わるべく、ここに来たんだよ!」

 状況が呑み込めず茫然と立ち尽くしている朝陽を置いてきぼりにして、勝手に事態が進んでいく。
 勇者に指示を出された赤髪の魔法使いは、勢いよく巻物を広げ呪文を唱えた。すると白紙だった紙に文字と数字が浮かび上がった。
 なぜか朝陽は、巻物にあらわれた日本語ではないはずの文字を読むことができた。レベルや体力、魔力、耐久力など、ゲームでよく見る文字列が並んでいる。

「これってもしかして……僕のステータスだったりします……?」
「よく分かったな、異世界人!」

 ちなみに、勇者曰く、召喚術には異言語の習得術も練り込まれているため、召喚された人は瞬時に召喚先の言語を理解できるようになるらしい。

 エルマと呼ばれていた赤髪の魔法使いは、巻物を覗き込み「うっわ……」と渋い声を漏らす。

「レベル二十五で体力百五十……? ゴブリンより体力ないけど大丈夫かしら……。しかも魔力は〇……。魔力を持たないタイプのヒト族ね……。マジかあ……」

 続いて勇者も朝陽のステータスに目を通し、小さくため息を吐いた。

「力が五十だと? レベル二十五なんだよな。桁が一つ少ないんじゃないか?」
「で、でもっ、器用さは百だよ! 平均以上だよ!」
「俊敏さと耐久力が著しく低いがな! ガッハッハ!」

 なんとか朝陽のステータスを褒めようとした耳が尖った少女サルルを、マッチョ――ダイアが一蹴した。

 そして訪れる沈黙。

 朝陽は両手で顔を覆い羞恥心に震えた。ふと、朝陽の履歴書を見た面接官に鼻で笑われたという、就職活動時代の苦い記憶を思い出したのは、間違いなく勇者たちのせいだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【毎日20時更新】銀の宿り

ユーレカ書房
ファンタジー
それは、魂が生まれ、また還るとこしえの場所――常世国の神と人間との間に生まれた青年、千尋は、みずからの力を忌むべきものとして恐れていた――力を使おうとすると、恐ろしいことが起こるから。だがそれは、千尋の心に呪いがあるためだった。 その呪いのために、千尋は力ある神である自分自身を忘れてしまっていたのだ。 千尋が神に戻ろうとするとき、呪いは千尋を妨げようと災いを振りまく。呪いの正体も、解き方の手がかりも得られぬまま、日照りの村を救うために千尋は意を決して力を揮うのだが………。  『古事記』に記されたイザナギ・イザナミの国生みの物語を背景に、豊葦原と常世のふたつの世界で新たな神話が紡ぎ出される。生と死とは。幸福とは。すべてのものが生み出される源の力を受け継いだ彦神の、真理と創造の幻想譚。

アダルトショップごと異世界転移 〜現地人が大人のおもちゃを拾い、間違った使い方をしています〜

フーツラ
ファンタジー
 閉店間際のアダルトショップに僕はいた。レジカウンターには見慣れない若い女の子。少々恥ずかしいが、仕方がない。観念してカウンターにオナホを置いた時、突然店内に衝撃が走った。  そして気が付くと、青空の広がる草原にいた。近くにはポツンとアダルトショップがある。 「アダルトショップと一緒に異世界転移してしまったのか……!?」  異世界に散らばったアダルトグッズは現地人によって「神の品」として間違った扱いをされていた!  アダルトショップの常連、森宮と美少女店員三田が「神の品」を巡る混沌に巻き込まれていく!!

異世界おにぃたん漫遊記

ざこぴぃ。
ファンタジー
 希望高校一年の桃矢、早紀、舞の三人は防災訓練の途中で避難ルートから抜け出し、事故に合う。気が付くとそこは見たことのない山小屋だった。山小屋での生活を強いられていく中でそこが異世界であることに気付いた三人。 元の世界へと帰りたい早紀と、なぜか山小屋での生活を続けたい桃矢。 果たして三人はどうなってしまうのか。そして、その世界とは……!? 2023.2.1〜2023.7.25 著・雑魚ぴぃ イラスト・tampal様

仔猫殿下と、はつ江ばあさん

鯨井イルカ
ファンタジー
魔界に召喚されてしまった彼女とシマシマな彼の日常ストーリー 2022年6月9日に完結いたしました。

妖精名:解説っ子

toyjoy11
ファンタジー
日本に住んでた妖精が異世界転生をした少女と一緒に妖精一杯の世界に引っ越しました。 友達百人出来るかな♪ 一話一話はとても短いです。 とってもノーマルなハッピーエンドなざまぁ少な目のものの異世界転移した妖精のお話です。 ゆめもから出た完結したストーリーです。ちゃんと7/17に完結予定なので、安心してください。 毎日夜9時更新です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

処理中です...