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6章
第55話 草原のスネアドラム
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食事と入浴を終えた部員は、再び練習に戻った。
窓の外はもう真っ暗だ。外の景色は見えず、窓は鏡のように音楽室の中を映す。
いつもなら匡史とやりとりをしている時間なのに、海茅は音楽室で練習をしている。
変な気分だった。まるで吹奏楽部員だけが時間に置いて行かれてしまったような感覚。
しばらくして、パートリーダーで話し合いをしていた樋暮先輩が戻って来た。
「ただいまー」とだけ言ってそのままスネアの練習を始めた彼女に、段原先輩が声をかける。
「ちょっと樋暮。情報共有」
「えー? 別にたいしたことなんて何もなかったよ?」
「いいから、お願い」
樋暮先輩は小さくため息を吐き、気だるげにパートメンバーを集めた。
「簡単に言うと、仲直りしましょうって話だった。金賞で頭がいっぱいになってた人たちが謝って、これからはお互いリスペクトし合ってみんなで頑張ろうねー的な」
続きを待っても一向に樋暮先輩が話さないので、段原先輩が目をしばたいた。
「……え? それだけ?」
「そう。それだけ」
「本当にたいした話し合いじゃないね」
「ま、実際はみんなグスグス泣いてたけどね。この結論に行くまでに修羅場もあったし。なんか吹奏楽部の青春ドラマ見てるみたいだった」
他人事のように話す樋暮先輩に、段原先輩は苦笑いする。
「樋暮もそのドラマの主人公の一人なんだけどな……」
「私は吹奏楽を楽しみたいだけであって、泥臭い青春ドラマに出演する気はありませーん」
樋暮先輩は立ち上がり、そそくさと練習に戻った。スネアで軽快なリズムを奏で始めた途端、彼女の表情がほぉっと緩み、柔らかくなる。
「んー。草原を走ってる気分。気持ちいいー」
確かにそこは草原だった。樋暮先輩のスネアは草原を駆けまわる馬だ。軽い足取りで誰よりも速く駆け回り、気持ちのいい風に当たり笑う。重い荷台をよいせよいせと引いている人たちを、颯爽と追い越していく。
彼女は自由が好きだ。カラッとした晴れた日が好きだ。
そして彼女にとって、ぬかるんだ地面を照らし乾かしてくれるのもまた、スネアドラムなのだろう。
樋暮先輩は、草原を走りながらニパッと笑う。
「口で話し合うより、楽器で語り合った方がよっぽど建設的なのにね!」
窓の外はもう真っ暗だ。外の景色は見えず、窓は鏡のように音楽室の中を映す。
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変な気分だった。まるで吹奏楽部員だけが時間に置いて行かれてしまったような感覚。
しばらくして、パートリーダーで話し合いをしていた樋暮先輩が戻って来た。
「ただいまー」とだけ言ってそのままスネアの練習を始めた彼女に、段原先輩が声をかける。
「ちょっと樋暮。情報共有」
「えー? 別にたいしたことなんて何もなかったよ?」
「いいから、お願い」
樋暮先輩は小さくため息を吐き、気だるげにパートメンバーを集めた。
「簡単に言うと、仲直りしましょうって話だった。金賞で頭がいっぱいになってた人たちが謝って、これからはお互いリスペクトし合ってみんなで頑張ろうねー的な」
続きを待っても一向に樋暮先輩が話さないので、段原先輩が目をしばたいた。
「……え? それだけ?」
「そう。それだけ」
「本当にたいした話し合いじゃないね」
「ま、実際はみんなグスグス泣いてたけどね。この結論に行くまでに修羅場もあったし。なんか吹奏楽部の青春ドラマ見てるみたいだった」
他人事のように話す樋暮先輩に、段原先輩は苦笑いする。
「樋暮もそのドラマの主人公の一人なんだけどな……」
「私は吹奏楽を楽しみたいだけであって、泥臭い青春ドラマに出演する気はありませーん」
樋暮先輩は立ち上がり、そそくさと練習に戻った。スネアで軽快なリズムを奏で始めた途端、彼女の表情がほぉっと緩み、柔らかくなる。
「んー。草原を走ってる気分。気持ちいいー」
確かにそこは草原だった。樋暮先輩のスネアは草原を駆けまわる馬だ。軽い足取りで誰よりも速く駆け回り、気持ちのいい風に当たり笑う。重い荷台をよいせよいせと引いている人たちを、颯爽と追い越していく。
彼女は自由が好きだ。カラッとした晴れた日が好きだ。
そして彼女にとって、ぬかるんだ地面を照らし乾かしてくれるのもまた、スネアドラムなのだろう。
樋暮先輩は、草原を走りながらニパッと笑う。
「口で話し合うより、楽器で語り合った方がよっぽど建設的なのにね!」
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