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2章
第24話 vs鹿
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ずっと前を歩いていた優紀と茜は、メンバーを待つついでに屋台で鹿せんべいを購入していた。海茅も鹿と戯れたいと思ったので、鹿せんべいを買った。
しかし、海茅が鹿せんべいを受け取った瞬間、想像していた百倍の熱量を感じた。おそるおそる背後を見ると、早く寄越せと言わんばかりに詰め寄る鹿の群れがいる。
「ちょ……ちょっと待って。あげるから一列に並んで……?」
そんな言いつけを鹿が守るわけがない。海茅の手ごとせんべいを食べようとする鹿や、俺にも寄越せと海茅の腹や腰に噛みつく鹿が海茅を包囲する。
優紀と茜も同様に、鹿の圧に悲鳴を上げていた。二人は早々に男子にせんべいを押し付け、戦線離脱した。
しかし海茅は、あまりに多くの鹿に囲まれていたのでどうすることもできない。
「いっ、一列に並んでって言ってるでしょー!? ぎゃー! 私のお肉を噛みちぎろうとしないでー! えっ、鹿って草食だよね!? 大丈夫だよね私!? 今日が私の命日にならないよね!?」
大騒ぎする海茅に匡史が手を伸ばした。
「みっちゃん! 俺に鹿せんべいパスして!!」
「でっ、でもそんなことしたら匡史君が死んじゃう!!」
「死なないから! 大丈夫だから!」
海茅は一瞬躊躇ったあと、匡史に向けて鹿せんべいを投げた。
「ごめん匡史君っ……。南無三!!」
宙を舞った鹿せんべいを匡史が見事キャッチ。そして手早くそれを鹿の口元に近づけ食べさせた。
「屋台のおばあちゃんが言ってた。最近は客足が減って、鹿はずっとお腹空かせてるんだって」
匡史はおいしそうにせんべいを頬張る鹿ににっこり笑いかける。
「久々にありつけたメシにテンション上がっただけだもんな。もっといるか?」
屋台で追加の鹿せんべいを購入する匡史を眺めながら、優紀と茜、創が笑いを堪えていた。
「さっきのミッチーと匡史……、アクション映画みたいだった……!」
「あそこだけ劇的なBGMが流れてた……っ」
「彼方さん南無三って言ってた……っ」
海茅は三人の囁き声に頭から湯気が上る思いだった。
そんなことは露知らず、匡史は鹿にせんべいをやってデレデレと頬を緩めていた。
「っていうかさっき、ミッチーも匡史も名前で呼び合ってたね!」
春日大社を見学しているとき、茜がそんなことを言った。
海茅も匡史も「へっ?」とごまかしの返事をしたが、二人とも微かに顔が赤くなる。
「奈良公園のときも二人で歩いてたし。いつの間にそんな仲良くなったのー?」
「あっ、いや、別に」
「匡史は嘘が下手ねぇー! えっ、もしかして付き合ってるとか!?」
「「それはない!」」
匡史と海茅が同時に叫んだ。
声が揃ったことに、海茅の胸がキュッと締め付けられた。
それからは海茅と匡史が並んで歩くことはなかった。互いに横顔や後ろ姿をこっそり目で追うが、二人の視線はすれ違う。
海茅は女子と話しながら、スカートをもじもじといじった。
奈良公園に到着したときは直接話せただけで舞い上がりそうなほど嬉しかったのに、今となっては並んで歩けないことが寂しい。
(ワガママだなあ、私)
帰り際、茜がグループで写真を撮ろうと提案した。
たまたまなのか、優紀のはからいか、はたまた創と茜が面白がってかは分からないが、海茅は匡史の隣に立つことになった。
海茅と匡史の間には、照れと恥ずかしさが詰まった隙間が空いていた。
しかし、海茅が鹿せんべいを受け取った瞬間、想像していた百倍の熱量を感じた。おそるおそる背後を見ると、早く寄越せと言わんばかりに詰め寄る鹿の群れがいる。
「ちょ……ちょっと待って。あげるから一列に並んで……?」
そんな言いつけを鹿が守るわけがない。海茅の手ごとせんべいを食べようとする鹿や、俺にも寄越せと海茅の腹や腰に噛みつく鹿が海茅を包囲する。
優紀と茜も同様に、鹿の圧に悲鳴を上げていた。二人は早々に男子にせんべいを押し付け、戦線離脱した。
しかし海茅は、あまりに多くの鹿に囲まれていたのでどうすることもできない。
「いっ、一列に並んでって言ってるでしょー!? ぎゃー! 私のお肉を噛みちぎろうとしないでー! えっ、鹿って草食だよね!? 大丈夫だよね私!? 今日が私の命日にならないよね!?」
大騒ぎする海茅に匡史が手を伸ばした。
「みっちゃん! 俺に鹿せんべいパスして!!」
「でっ、でもそんなことしたら匡史君が死んじゃう!!」
「死なないから! 大丈夫だから!」
海茅は一瞬躊躇ったあと、匡史に向けて鹿せんべいを投げた。
「ごめん匡史君っ……。南無三!!」
宙を舞った鹿せんべいを匡史が見事キャッチ。そして手早くそれを鹿の口元に近づけ食べさせた。
「屋台のおばあちゃんが言ってた。最近は客足が減って、鹿はずっとお腹空かせてるんだって」
匡史はおいしそうにせんべいを頬張る鹿ににっこり笑いかける。
「久々にありつけたメシにテンション上がっただけだもんな。もっといるか?」
屋台で追加の鹿せんべいを購入する匡史を眺めながら、優紀と茜、創が笑いを堪えていた。
「さっきのミッチーと匡史……、アクション映画みたいだった……!」
「あそこだけ劇的なBGMが流れてた……っ」
「彼方さん南無三って言ってた……っ」
海茅は三人の囁き声に頭から湯気が上る思いだった。
そんなことは露知らず、匡史は鹿にせんべいをやってデレデレと頬を緩めていた。
「っていうかさっき、ミッチーも匡史も名前で呼び合ってたね!」
春日大社を見学しているとき、茜がそんなことを言った。
海茅も匡史も「へっ?」とごまかしの返事をしたが、二人とも微かに顔が赤くなる。
「奈良公園のときも二人で歩いてたし。いつの間にそんな仲良くなったのー?」
「あっ、いや、別に」
「匡史は嘘が下手ねぇー! えっ、もしかして付き合ってるとか!?」
「「それはない!」」
匡史と海茅が同時に叫んだ。
声が揃ったことに、海茅の胸がキュッと締め付けられた。
それからは海茅と匡史が並んで歩くことはなかった。互いに横顔や後ろ姿をこっそり目で追うが、二人の視線はすれ違う。
海茅は女子と話しながら、スカートをもじもじといじった。
奈良公園に到着したときは直接話せただけで舞い上がりそうなほど嬉しかったのに、今となっては並んで歩けないことが寂しい。
(ワガママだなあ、私)
帰り際、茜がグループで写真を撮ろうと提案した。
たまたまなのか、優紀のはからいか、はたまた創と茜が面白がってかは分からないが、海茅は匡史の隣に立つことになった。
海茅と匡史の間には、照れと恥ずかしさが詰まった隙間が空いていた。
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