9 / 71
1章
第8話 はじめての合奏
しおりを挟む
翌日、一年生にコンクール曲――課題曲と自由曲の二曲――の楽譜が配られた。段原先輩は楽譜を一年生に配りながら担当楽器を告げた。
一年生の中で一番上手な優紀は、スネアやグロッケン(鉄琴のひとつ)など、目立つ楽器も割り当てられていた。
しかし海茅は、バスドラム(大太鼓)やクラッシュシンバルなど、パッとしないものばかりだったので思わずため息が出た。
海茅たちは早速練習に取りかかる。楽譜をもらったばかりと言うのに、パート練習をしたあとに合奏練習があるそうだ。優紀や他の目立つ楽器を担当することになった一年生は、ひぃひぃ言いながら必死に練習していた。
海茅はサラッとバスドラムの楽譜をさらってからクラッシュシンバルの練習をした。始めは情けない空気の音しかしなかったが、一時間ほど練習するとちゃんと音が鳴るようになった。
これで大丈夫だ、と海茅はホッとしたが、それから何を練習すれば良いのか分からず手持無沙汰になってしまった。彼女は何度か担当楽器の練習をして、合奏まで時間を潰した。
合奏十分前、外で練習していた管楽器の部員が音楽室に戻って来た。
海茅が立っている近くの席に、フルート教室に通っている部員、如月明日香が腰かけた。
練習し始めた明日香のフルートの音色に、海茅は拳を握る。
悔しいけど、すごく上手い。
(私ももっとフルートの練習をしていれば、そこに座れてたのかもしれないのに……)
時間ちょうどに顧問が音楽室に入ってきた。
顧問は何も言わずに指揮棒を持ち、振る。
強面の顔からは想像できないたおやかな指揮に、海茅の目は釘付けになった。
顧問が指揮棒を振ると、糸で引かれるように、楽器から音色が流れ出る。
しかし――
(指揮が滑らかすぎて拍が取りにくい……! 今どこぉ!?)
指揮者の元で演奏することが初めてだった海茅にとっては、顧問の指揮が分かりづらく、早々に譜面を見失っていた。
他の一年部員にもそういった人たちがいたが、先輩たちが顧問と意思疎通できているおかげで、一応曲にはなっていた。
どこを演奏しているのか分からなくなった海茅が困っていると、段原先輩が小声で教えてくれた。
「いまここね。海茅ちゃんはもうすぐクラッシュシンバル。頑張って」
「あ、ありがとうございます!」
海茅は急いでクラッシュシンバルのところまで行き、スタンドからシンバルを持ち上げた。
(いち、に、さん、よん、……今!)
勢いよく叩かれたクラッシュシンバルは、パフッと空気の音だけ鳴らして静かになった。
大失敗だ。
海茅がおそるおそる窺い見ると、顧問は肩をすくめただけですぐに他の楽器の方を向いた。
そんな顧問が明日香のフルートのソロを聴き、「まあいいんじゃないか?」というような満足げな表情をしていたので、余計に海茅は落ち込んだ。
合奏が終わったあと、顧問は合奏の振り返しをした。パートごとにアドバイスをしていた彼が、ふと海茅の方を向く。
「もっと練習しなさい。良い音を奏でられるように」
「……はい」
返事をしたものの、海茅は「シンバルなんかに良い音もクソもあるか」と内心毒づいた。
一年生の中で一番上手な優紀は、スネアやグロッケン(鉄琴のひとつ)など、目立つ楽器も割り当てられていた。
しかし海茅は、バスドラム(大太鼓)やクラッシュシンバルなど、パッとしないものばかりだったので思わずため息が出た。
海茅たちは早速練習に取りかかる。楽譜をもらったばかりと言うのに、パート練習をしたあとに合奏練習があるそうだ。優紀や他の目立つ楽器を担当することになった一年生は、ひぃひぃ言いながら必死に練習していた。
海茅はサラッとバスドラムの楽譜をさらってからクラッシュシンバルの練習をした。始めは情けない空気の音しかしなかったが、一時間ほど練習するとちゃんと音が鳴るようになった。
これで大丈夫だ、と海茅はホッとしたが、それから何を練習すれば良いのか分からず手持無沙汰になってしまった。彼女は何度か担当楽器の練習をして、合奏まで時間を潰した。
合奏十分前、外で練習していた管楽器の部員が音楽室に戻って来た。
海茅が立っている近くの席に、フルート教室に通っている部員、如月明日香が腰かけた。
練習し始めた明日香のフルートの音色に、海茅は拳を握る。
悔しいけど、すごく上手い。
(私ももっとフルートの練習をしていれば、そこに座れてたのかもしれないのに……)
時間ちょうどに顧問が音楽室に入ってきた。
顧問は何も言わずに指揮棒を持ち、振る。
強面の顔からは想像できないたおやかな指揮に、海茅の目は釘付けになった。
顧問が指揮棒を振ると、糸で引かれるように、楽器から音色が流れ出る。
しかし――
(指揮が滑らかすぎて拍が取りにくい……! 今どこぉ!?)
指揮者の元で演奏することが初めてだった海茅にとっては、顧問の指揮が分かりづらく、早々に譜面を見失っていた。
他の一年部員にもそういった人たちがいたが、先輩たちが顧問と意思疎通できているおかげで、一応曲にはなっていた。
どこを演奏しているのか分からなくなった海茅が困っていると、段原先輩が小声で教えてくれた。
「いまここね。海茅ちゃんはもうすぐクラッシュシンバル。頑張って」
「あ、ありがとうございます!」
海茅は急いでクラッシュシンバルのところまで行き、スタンドからシンバルを持ち上げた。
(いち、に、さん、よん、……今!)
勢いよく叩かれたクラッシュシンバルは、パフッと空気の音だけ鳴らして静かになった。
大失敗だ。
海茅がおそるおそる窺い見ると、顧問は肩をすくめただけですぐに他の楽器の方を向いた。
そんな顧問が明日香のフルートのソロを聴き、「まあいいんじゃないか?」というような満足げな表情をしていたので、余計に海茅は落ち込んだ。
合奏が終わったあと、顧問は合奏の振り返しをした。パートごとにアドバイスをしていた彼が、ふと海茅の方を向く。
「もっと練習しなさい。良い音を奏でられるように」
「……はい」
返事をしたものの、海茅は「シンバルなんかに良い音もクソもあるか」と内心毒づいた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
スペクターズ・ガーデンにようこそ
一花カナウ
児童書・童話
結衣には【スペクター】と呼ばれる奇妙な隣人たちの姿が見えている。
そんな秘密をきっかけに友だちになった葉子は結衣にとって一番の親友で、とっても大好きで憧れの存在だ。
しかし、中学二年に上がりクラスが分かれてしまったのをきっかけに、二人の関係が変わり始める……。
なお、当作品はhttps://ncode.syosetu.com/n2504t/ を大幅に改稿したものになります。
改稿版はアルファポリスでの公開後にカクヨム、ノベルアップ+でも公開します。
『空気は読めないボクだけど』空気が読めず失敗続きのボクは、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられて……
弓屋 晶都
児童書・童話
「空気は読めないけど、ボク、漫画読むのは早い方だよ」
そんな、ちょっとのんびりやで癒し系の小学六年の少年、佐々田京也(ささだきょうや)が、音楽発表会や学習発表会で大忙しの二学期を、漫画の神様にもらった特別な力で乗り切るドタバタ爽快学園物語です。
コメディー色と恋愛色の強めなお話で、初めての彼女に振り回される親友を応援したり、主人公自身が初めての体験や感情をたくさん見つけてゆきます。
---------- あらすじ ----------
空気が読めず失敗ばかりだった主人公の京也は、小六の夏休みに漫画の神様から『人の感情が漫画のように見える』能力をさずけられる。
この能力があれば、『喋らない少女』の清音さんとも、無口な少年の内藤くんとも話しができるかも……?
(2023ポプラキミノベル小説大賞最終候補作)
大嫌いなキミに愛をささやく日
またり鈴春
児童書・童話
私には大嫌いな人がいる。
その人から、まさか告白されるなんて…!
「大嫌い・来ないで・触らないで」
どんなにヒドイ事を言っても諦めない、それが私の大嫌いな人。そう思っていたのに…
気づけば私たちは互いを必要とし、支え合っていた。
そして、初めての恋もたくさんの愛も、全部ぜんぶ――キミが教えてくれたんだ。
\初めての恋とたくさんの愛を知るピュアラブ物語/
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
たった一度の、キセキ。
雨音
児童書・童話
「幼なじみとか、昔の話だし。親しくもないやつからこんなんもらったって、気持ち悪いだけだろ」
片思いする幼馴染み・蒼にラブレターを渡したところ、教室で彼が友達にそう言っているところを聞いてしまった宮野雛子。
傷心の彼女の前に現れたのは、蒼にそっくりな彼の従兄・茜。ひょんなことから、茜は雛子の家に居候することになる。突然始まった、片思いの人そっくりな年上男子とのひとつ屋根の下生活に、どぎまぎする雛子だが、
どうやら彼には秘密があるようで――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる