【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

文字の大きさ
上 下
702 / 718
最終編:反乱編:北部アウス軍

詩の贈り物

しおりを挟む
 その夜、ヴィクスの私室を誰かがノックした。ヴィクスが返事をする前にドアが開きジュリアが入って来る。ヴィクスは妹の顔を見た途端、深いため息を吐きソファにもたれかかった。

「泣いたり笑ったり、大人のふりをしたり子どものふりをしたり。大変ですわね、お兄さま」
「茶化さないでくれ……。これでも気を張っているんだから」
「当然よね。もう局面は終盤を迎えているのですから」

 ジュリアはヴィクスの隣に座り、テーブルに置かれている焼き菓子を手に取った。

「あ、食べない方が良いよ。毒入りだから」
「まあ。城内への手回しも完璧ですわね」
「ああ。この中に僕の味方なんて誰ひとりいないよ」
「いるじゃないですか。お父様とお母様が」
「……ジュリア、僕は今機嫌が悪いんだ。それ以上のことを言うと……」
「ふふ。お兄さまらしくもないですわね。こんな冗談も真に受けてしまうなんて」
「君が帰ってきてくれただけで、少しはマシだけどね……」
「……」

 ヴィクスが弱音を吐くなんて珍しい。よほど神経をすり減らし、疲れているのだろう。
 ヴィクスとジュリアの間にしばらくの沈黙が続いた。

「……ウィルクの様子は?」
「ずっと私室に閉じこもっています」
「そう。いくら閉じこもっても待ち受ける結末は変わらないのに」
「……」
「……ウィルクもバカじゃない。もう、僕たちの未来は分かっているだろうか」
「ええ。分かっているはずです」
「ウィルクは……僕を恨んでいるかな」
「それは私にも分かりませんわ」
「ジュリアはどう思う? 彼がお父様につくか、僕たちにつくか」
「……分かりません」
「そうか。……まあ、どちらについたとしても同じことだ」

 ヴィクスは力が抜けた腕をジュリアに伸ばし、頭を撫でた。そんなことをされたのははじめてで、ジュリアは顔を真っ赤にして大声を上げる。

「お、お兄さま……!?」
「最後に一度くらい、優しい兄を演じたくなった」
「……なんですか、それは」
「ああ、僕の可愛いジュリア。つり目で性格がキツそうな見た目をしているけれど、君の心は誰よりも柔らかく、思いやりがある優しい子」
「……褒められているのか貶されているのか分かりませんわ」
「君がこんな家元に生まれなければ、美しい令嬢として正しく育ち、由緒ある家に嫁いでいたのだろう」
「……」
「君がこんな兄のあとに生まれなければ、その聡明な頭と優れた魔力で両親から愛されていたのだろう」
「……」
「ああ、僕の可愛いジュリア。その短い人生を僕のために捧げてくれてありがとう。来世では、僕が君に仕えよう。君の願いを全て受け入れ、君のわがままを困りながらも喜ぼう」

 ジュリアは退屈そうにため息を吐き、兄の手を払った。そして今度はジュリアがヴィクスの頭を撫でる。

「……ジュリア、何をしているんだい?」
「最期に詩の贈り物ですか? それなら私もできますわ」
「い、いや、それよりも頭を撫でないでくれないか……」
「ああ、私の憎むべきヴィクスお兄さま。虚ろな瞳とやつれた体のそのままに、あなたの心は痩せ細っている」
「……褒め言葉がひとつも見当たらない」
「あなたがこんな家元に生まれなければ、そんな醜いクマなど目の下に刻まれなかったでしょうに。ああ、憐れなお兄さま」
「うーん……先ほど不機嫌と伝えたばかりなのだが……」
「あなたが私のような妹のまえに生まれなければ、とうの昔に計画は破綻して、失敗して首を落とされていたでしょう。優秀な妹に感謝してくださいませ」
「ふむ……真実なのだが気に食わない」
「ああ、私の憎むべきヴィクスお兄さま。その短い人生をアーサー様とモニカ様のために捧げてくれて……お二人も非常に有難迷惑ですわ。来世では、人を巻き込んだ迷惑行為をなさらないよう、私が見張ってあげましょう」
「どうしようか。腹が立つけど言い返せない」

 ムスッとしているヴィクスを、ジュリアがぎゅっと抱きしめる。

「来世では、自分の幸せのために生きてください。来世でも私の兄として生まれてください。そして今度は二人で手を繋ぎ、ひだまりの下で笑い合いましょう。大切な大切な、私のヴィクスお兄さま」
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。