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最終編:反乱編:侯爵家にて
侯爵の使者
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双子とS級冒険者がバンスティンダンジョンから帰還した日から一カ月の月日が流れたある日、ダフが王城を訪れた。
門番が彼を引き留める。
「ダフ、お前はもう殿下の近衛兵ではないと聞いた。ここを通すわけにはいかない」
「オーヴェルニュ侯爵の使者として参りました。通していただけませんか」
「……少し待て。国王に確認をとる」
「お願いします」
門番から話を聞いた国王は、「一体何の用だ……」とめんどうくさそうに呟いた。
「今から王妃とヴィクスでお茶を飲もうと話していたのに」
「使者の相手なんてあとでいいでしょう? お茶を飲むまで待たせましょう」
「ふむ、それもそうだな。では、庭に行こうか」
国王と王妃が立ち上がったので、ヴィクスは慌てて彼らを呼び止めた。
「お父様、お母様。先に用事を済ませた方がゆっくりお茶を飲めますよ」
「待たせていてもゆっくりしたらいいじゃないか。予定を乱されるのは嫌いなんだ」
「ええ、そうよヴィクス。どうして家族のひと時より使者ごときを優先しなければならないの?」
ヴィクスは小さくため息を吐き、王妃の手を握る。
「お母様。僕はうしろに面倒な予定があると休まりません。どうか僕のわがままを聞いていただけませんか?」
「まあ、ヴィクスったら。真面目なのね、可愛いわ」
「先に使者の話を聞いても?」
「ええ、ヴィクスのお願いとあれば仕方ないわね。いいわよね、あなた?」
「ああ、王妃とヴィクスがそう言うなら」
三人の会話を聞いていた衛兵や使用人は内心毒づいた。
(オーヴェルニュ侯爵からの使者付きの書簡だぞ……? 重大なことに決まっているのに)
(侯爵の使者よりもティータイム……。呆れてものも言えない)
(国王の意思より王妃の意思。王妃の意思よりヴィクス王子の意思、か。そりゃあヴィクス王子が好きなだけ悪さもできるわけだ)
(ティータイムに行っている間に、ヴィクス王子の私室に置いてある菓子に毒でも仕込んでおくか。一年以上も毒を仕込んでいるのにまだのうのうと生きやがって。さっさと死ね)
楽しそうに談笑しながら、国王、王妃、ヴィクス王子は謁見の間で使者を待った。謁見の間に入ってきたのがダフだったので、ヴィクスの表情が一瞬強張る。
(どうして使者として来たんだ……。殺されるに決まっているのに……)
国王と王妃は、もう息子の近衛兵として働いていた青年の顔を忘れているようだった。
跪くダフに、国王が耳くそをほじりながら適当に話しかけた。
「して? なんの用だ?」
「はっ。オーヴェルニュ侯爵からの書簡をお持ちいたしました」
差し出された書簡を受け取りった国王は、目を通していくうちにだんだんと顔を歪ませていく。
「……なんだこの書簡は!!」
国王は最後まで読まずにビリビリと書簡を引き裂いた。そしてダフを指さし、衛兵に命令する。
「おい! こいつの首をはねろ!!」
「お待ちください、お父様」
ヴィクスが声をかけても、憤る国王が落ち着く様子はない。完全に頭に血が上っているようだった。
「おい衛兵! 何している! 早くこの使者の首をはねろ!!」
「まだ殺さないで」
国王とヴィクスが真逆の命令をするので、衛兵はどうしてよいか分からず立ちすくんだ。
ヴィクスは「そのままで」と目で合図し、国王に尋ねる。
「お父様。書簡の内容を教えてくださいませんか?」
「わしと王妃に退位しろと!! そしてアウスに譲位しろなどと言ってきた!!」
「なんですって!?」
書簡の内容を聞いた王妃が怒り狂い、金切り声を上げた。
「アウスとモリアは死んだのではなかったの!? 裏S級に殺されたんでしょう!? 私はモリアの髪まで見たわよ!!」
それに答えたのはダフだ。
「いいえ。アウス王子とモリア王女は生きております。裏S級に襲われたときも生き延びました。あなたたちは闇オークションで彼らと出会っているはずです。覚えておりませんでしょうか? あなたたちが狙っていたペンダントを、白金貨11万枚で競り落とした少年と少女を」
「「……!!」」
「変装しておりましたので髪色は違いましたが、あれは生存していたアウスとモリアでした」
ショックのあまり王妃がふらつく。
「そんな……。アウスとモリアが……生きていたなんて……」
「し、しかし! 臣下たちはアウスとモリアが死んだと報告してきたぞ……。目視で確認したとも……!」
未だ信じられない国王が騒いでいると、ヴィクスが壁に拳を打ち付けた。驚く国王と王妃が目をやると、ヴィクスは肩を震わせながら呻いた。まるで今初めてそのことを聞き、怒りで自制が効いていないように見える。
「まさか、臣下が虚偽の報告を……!? そう言われると、彼らに詳しいことを聞くとうまくはぐらかされたような気がします……っ。お父様、お母様……申し訳ございません……これは臣下を信用してしまった僕の責任です……!」
ダフはヴィクスの迫真の演技に内心舌を巻いた。
しかしそれを演技だとは微塵も気付いていない国王と王妃は、必死にヴィクス王子を慰めようとしている。
「何を言っているのだヴィクス! お前が悪いわけないだろう!」
「ええ、そうよ! 虚偽の報告をした臣下が悪いの! あなたは何も悪くはないわ!!」
「いいえ、その件は僕が責任を持って動いていました……。僕の責任です」
「いいや、違う違う! ええい、そんな臣下がいるせいでヴィクスが傷ついてしまったではないか!! おい、これに関わっていた臣下を呼べ!!」
目の前に侯爵の使者がいるにもかかわらず、国王と王妃は大騒ぎしながら身内の問題に夢中になった。
ダフは跪いたままぼうっとその光景を眺めていた。
門番が彼を引き留める。
「ダフ、お前はもう殿下の近衛兵ではないと聞いた。ここを通すわけにはいかない」
「オーヴェルニュ侯爵の使者として参りました。通していただけませんか」
「……少し待て。国王に確認をとる」
「お願いします」
門番から話を聞いた国王は、「一体何の用だ……」とめんどうくさそうに呟いた。
「今から王妃とヴィクスでお茶を飲もうと話していたのに」
「使者の相手なんてあとでいいでしょう? お茶を飲むまで待たせましょう」
「ふむ、それもそうだな。では、庭に行こうか」
国王と王妃が立ち上がったので、ヴィクスは慌てて彼らを呼び止めた。
「お父様、お母様。先に用事を済ませた方がゆっくりお茶を飲めますよ」
「待たせていてもゆっくりしたらいいじゃないか。予定を乱されるのは嫌いなんだ」
「ええ、そうよヴィクス。どうして家族のひと時より使者ごときを優先しなければならないの?」
ヴィクスは小さくため息を吐き、王妃の手を握る。
「お母様。僕はうしろに面倒な予定があると休まりません。どうか僕のわがままを聞いていただけませんか?」
「まあ、ヴィクスったら。真面目なのね、可愛いわ」
「先に使者の話を聞いても?」
「ええ、ヴィクスのお願いとあれば仕方ないわね。いいわよね、あなた?」
「ああ、王妃とヴィクスがそう言うなら」
三人の会話を聞いていた衛兵や使用人は内心毒づいた。
(オーヴェルニュ侯爵からの使者付きの書簡だぞ……? 重大なことに決まっているのに)
(侯爵の使者よりもティータイム……。呆れてものも言えない)
(国王の意思より王妃の意思。王妃の意思よりヴィクス王子の意思、か。そりゃあヴィクス王子が好きなだけ悪さもできるわけだ)
(ティータイムに行っている間に、ヴィクス王子の私室に置いてある菓子に毒でも仕込んでおくか。一年以上も毒を仕込んでいるのにまだのうのうと生きやがって。さっさと死ね)
楽しそうに談笑しながら、国王、王妃、ヴィクス王子は謁見の間で使者を待った。謁見の間に入ってきたのがダフだったので、ヴィクスの表情が一瞬強張る。
(どうして使者として来たんだ……。殺されるに決まっているのに……)
国王と王妃は、もう息子の近衛兵として働いていた青年の顔を忘れているようだった。
跪くダフに、国王が耳くそをほじりながら適当に話しかけた。
「して? なんの用だ?」
「はっ。オーヴェルニュ侯爵からの書簡をお持ちいたしました」
差し出された書簡を受け取りった国王は、目を通していくうちにだんだんと顔を歪ませていく。
「……なんだこの書簡は!!」
国王は最後まで読まずにビリビリと書簡を引き裂いた。そしてダフを指さし、衛兵に命令する。
「おい! こいつの首をはねろ!!」
「お待ちください、お父様」
ヴィクスが声をかけても、憤る国王が落ち着く様子はない。完全に頭に血が上っているようだった。
「おい衛兵! 何している! 早くこの使者の首をはねろ!!」
「まだ殺さないで」
国王とヴィクスが真逆の命令をするので、衛兵はどうしてよいか分からず立ちすくんだ。
ヴィクスは「そのままで」と目で合図し、国王に尋ねる。
「お父様。書簡の内容を教えてくださいませんか?」
「わしと王妃に退位しろと!! そしてアウスに譲位しろなどと言ってきた!!」
「なんですって!?」
書簡の内容を聞いた王妃が怒り狂い、金切り声を上げた。
「アウスとモリアは死んだのではなかったの!? 裏S級に殺されたんでしょう!? 私はモリアの髪まで見たわよ!!」
それに答えたのはダフだ。
「いいえ。アウス王子とモリア王女は生きております。裏S級に襲われたときも生き延びました。あなたたちは闇オークションで彼らと出会っているはずです。覚えておりませんでしょうか? あなたたちが狙っていたペンダントを、白金貨11万枚で競り落とした少年と少女を」
「「……!!」」
「変装しておりましたので髪色は違いましたが、あれは生存していたアウスとモリアでした」
ショックのあまり王妃がふらつく。
「そんな……。アウスとモリアが……生きていたなんて……」
「し、しかし! 臣下たちはアウスとモリアが死んだと報告してきたぞ……。目視で確認したとも……!」
未だ信じられない国王が騒いでいると、ヴィクスが壁に拳を打ち付けた。驚く国王と王妃が目をやると、ヴィクスは肩を震わせながら呻いた。まるで今初めてそのことを聞き、怒りで自制が効いていないように見える。
「まさか、臣下が虚偽の報告を……!? そう言われると、彼らに詳しいことを聞くとうまくはぐらかされたような気がします……っ。お父様、お母様……申し訳ございません……これは臣下を信用してしまった僕の責任です……!」
ダフはヴィクスの迫真の演技に内心舌を巻いた。
しかしそれを演技だとは微塵も気付いていない国王と王妃は、必死にヴィクス王子を慰めようとしている。
「何を言っているのだヴィクス! お前が悪いわけないだろう!」
「ええ、そうよ! 虚偽の報告をした臣下が悪いの! あなたは何も悪くはないわ!!」
「いいえ、その件は僕が責任を持って動いていました……。僕の責任です」
「いいや、違う違う! ええい、そんな臣下がいるせいでヴィクスが傷ついてしまったではないか!! おい、これに関わっていた臣下を呼べ!!」
目の前に侯爵の使者がいるにもかかわらず、国王と王妃は大騒ぎしながら身内の問題に夢中になった。
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