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決戦編:裏S級との戦い
使役
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「おや。マルムもヘラも、どっちもあっさり殺されちゃった。ヒトというのは儚いね」
途中から傍観者を決め込んでいたシルヴェストルがクスクス笑った。仮にも仲間として行動していた人が死んだのに、悲しみや怒りなどという感情は一切ないようだ。彼はアーサーに向き直り、目尻を下げる。
「さて、余興が終わってしまったよアウス。このままじゃ、僕は君の仲間たちと戦わないといけないわけだけど」
「……」
ギリギリと歯ぎしりをするアーサー。ちらっとカミーユを窺うと、彼は必死の形相で首を横に振っている。
アーサーは深呼吸したあと、口を開いた。
「僕は君を使役しない!! 裏S級を倒したカミーユたちなら、君だって倒せる!!」
「……へえ?」
「僕だって戦う! 僕は君を倒す!!」
「そっか。残念」
シルヴェストルはわざとらしくため息を吐き、大きく手を振り上げた。
「……え」
一瞬のできごと、そして信じられない光景に、アーサーは自分の目を疑った。信じたくなかった。
「ブルギー!!」
「おいっ! ブルギー! うわぁぁぁぁっ!」
「ミント! ミント回復を……!」
一瞬のうちにブルギーの胴体が引き裂かれ、切り離された。
息絶えていることは分かっているのに、ミントは泣きながら回復魔法をかけている。
「おやおや。死んでるのに。滑稽だなあ。悲しかったのかな」
シルヴェストルが笑いをこらえながら指先をちょちょっと揺らした。
それだけなのに――
ミントの首が飛んだ。
「うわぁぁぁぁあ!!」
アーサーは絶叫しながらシルヴェストルに飛び掛かった。
「やめろぉぉぉっ! やめろ、やめろやめろやめろーーーー!!」
「そんな泣かなくてもいいじゃないか。親交の浅いヒトたちだっただろう?」
「僕の大切な仲間だぁぁぁっ! やめろぉぉぉっ!」
怒ったのはアーサーだけではない。
特に遺されたクルドパーティは、かつてない殺気を放ちシルヴェストルに襲いかかった。
「テメエェェェェ!! 俺の大事なミントとブルギーをぉぉぉぉ!!」
「僕からこれ以上大切なものを奪うなぁぁぁ!!」
「八つ裂きにしてやる……! 殺す……! 殺す……!!」
クルドがシルヴェストルと距離を詰め、大剣を振り下ろす。しかしシルヴェストルは人差し指一本で彼の大剣を受け止めた。もう片方の手でサンプソンが放った十本の矢を受け止め、マデリアの魔法を相殺する。
「ヒトの寿命は何年? 君たちは今いくつ? たった数十年しか生きていない君たちが、数千年と生き、数百年に亘り力を溜めていた僕に敵うと思う?」
「……っ」
そう言い放ち、シルヴェストルはクルド、サンプソン、マデリアを吹き飛ばし、おまけに内臓を破裂させた。
カミーユパーティもシルヴェストルに挑むも、手も足も出せず返り討ちに遭う。
「あ……あ……」
あのS級冒険者が、まるで赤子のようだ。シルヴェストル相手では全く歯が立たない。
血みどろになり地面にうずくまるS級冒険者を見て、アーサーは体の感覚がなくなり、意識を失いそうになった。
そんな彼に、シルヴェストルが語り掛ける。
「アウス。もう一度言うよ」
シルヴェストルはS級に背を向け、涙で濡れたアーサーの頬を両手で優しく包み、微笑んだ。
「僕を使役して、アウス。そしたら僕はこれ以上、彼らを殺さない」
「……」
アーサーは、無惨に横たわっているブルギーとミントの遺体に目をやった。
もう、仲間を失いたくない。
「やめ……ろ……アーサー……」
ガボガボと血を吐きながら、カミーユが起き上がる。続けてジル、カトリナ、リアーナも、アーサーにかすれた声で言った。
「こんな恐ろしい魔物……使役なんかしたら……君はもう……人ではなくなってしまう……」
「使役してはダメ……私たちが……倒す、から……」
「お前まで……っ、魔物の世界に足ツッコまなくていい……! あたしらに任せろ……」
彼らの声に興を削がれたシルヴェストルは、うんざりした表情を浮かべて指を鳴らそうとした。
「やめて!!」
アーサーはその腕にしがみつき、泣き叫ぶ。
「使役する!! 君を使役するから……!! だからもう、これ以上僕の大切な人を殺さないで!! お願い! お願い……っ!!」
それを聞いたシルヴェストルは、子どものようなあどけない笑顔を向けた。
「えっ! 本当かいアウス!?」
「うん……っ。だから……もう……これ以上は……っ!」
「うんうん! もちろんだよアウス! 約束だもんね! もう彼らに手を出さないよ! わぁぁ、嬉しいなあ! ありがとうアウス! これから一生、君が死ぬその時まで僕がずーっと傍にいるからね!」
「……」
シルヴェストルは言っていた。魔物を使役することは、魔物と結婚することと同じだと。
魔物を従えさせられる代わりに、人生の終わりまでその魔物と共に生きていかなければいけない。
それだけではない。
魔物を使役する者は、魔物と契りを交わす必要がある。その契りでは、主人に魔物の魔力と血を流し込み、交換に魔物に主人の血(と魔力)を流し込まなければならない。これは共感性を高めるためとされているが、実際のところ魔物と人間が共に刻みつける強いマーキングなだけだ。
そして……一般的に魔物を使役する人は、道を踏み外した者、人を捨てた者として表の世界で生きられなくなる。
――このことを知っているからこそ、S級冒険者は命を捨ててでもアーサーを引き留めようとした。
シルヴェストルに攻撃されても、そこのことをアーサーに伝えた。
しかし、アーサーの意思は揺るがなかった。
「使役する……それでみんなが……助かるなら……」
シルヴェストルに痛めつけられ、もはや動くことすらできないカミーユたちは項垂れ、嗚咽を漏らした。
「頼む……やめてくれ……っ。俺はこんなことをさせるために……お前をここに連れてきたんじゃねえ……っ」
途中から傍観者を決め込んでいたシルヴェストルがクスクス笑った。仮にも仲間として行動していた人が死んだのに、悲しみや怒りなどという感情は一切ないようだ。彼はアーサーに向き直り、目尻を下げる。
「さて、余興が終わってしまったよアウス。このままじゃ、僕は君の仲間たちと戦わないといけないわけだけど」
「……」
ギリギリと歯ぎしりをするアーサー。ちらっとカミーユを窺うと、彼は必死の形相で首を横に振っている。
アーサーは深呼吸したあと、口を開いた。
「僕は君を使役しない!! 裏S級を倒したカミーユたちなら、君だって倒せる!!」
「……へえ?」
「僕だって戦う! 僕は君を倒す!!」
「そっか。残念」
シルヴェストルはわざとらしくため息を吐き、大きく手を振り上げた。
「……え」
一瞬のできごと、そして信じられない光景に、アーサーは自分の目を疑った。信じたくなかった。
「ブルギー!!」
「おいっ! ブルギー! うわぁぁぁぁっ!」
「ミント! ミント回復を……!」
一瞬のうちにブルギーの胴体が引き裂かれ、切り離された。
息絶えていることは分かっているのに、ミントは泣きながら回復魔法をかけている。
「おやおや。死んでるのに。滑稽だなあ。悲しかったのかな」
シルヴェストルが笑いをこらえながら指先をちょちょっと揺らした。
それだけなのに――
ミントの首が飛んだ。
「うわぁぁぁぁあ!!」
アーサーは絶叫しながらシルヴェストルに飛び掛かった。
「やめろぉぉぉっ! やめろ、やめろやめろやめろーーーー!!」
「そんな泣かなくてもいいじゃないか。親交の浅いヒトたちだっただろう?」
「僕の大切な仲間だぁぁぁっ! やめろぉぉぉっ!」
怒ったのはアーサーだけではない。
特に遺されたクルドパーティは、かつてない殺気を放ちシルヴェストルに襲いかかった。
「テメエェェェェ!! 俺の大事なミントとブルギーをぉぉぉぉ!!」
「僕からこれ以上大切なものを奪うなぁぁぁ!!」
「八つ裂きにしてやる……! 殺す……! 殺す……!!」
クルドがシルヴェストルと距離を詰め、大剣を振り下ろす。しかしシルヴェストルは人差し指一本で彼の大剣を受け止めた。もう片方の手でサンプソンが放った十本の矢を受け止め、マデリアの魔法を相殺する。
「ヒトの寿命は何年? 君たちは今いくつ? たった数十年しか生きていない君たちが、数千年と生き、数百年に亘り力を溜めていた僕に敵うと思う?」
「……っ」
そう言い放ち、シルヴェストルはクルド、サンプソン、マデリアを吹き飛ばし、おまけに内臓を破裂させた。
カミーユパーティもシルヴェストルに挑むも、手も足も出せず返り討ちに遭う。
「あ……あ……」
あのS級冒険者が、まるで赤子のようだ。シルヴェストル相手では全く歯が立たない。
血みどろになり地面にうずくまるS級冒険者を見て、アーサーは体の感覚がなくなり、意識を失いそうになった。
そんな彼に、シルヴェストルが語り掛ける。
「アウス。もう一度言うよ」
シルヴェストルはS級に背を向け、涙で濡れたアーサーの頬を両手で優しく包み、微笑んだ。
「僕を使役して、アウス。そしたら僕はこれ以上、彼らを殺さない」
「……」
アーサーは、無惨に横たわっているブルギーとミントの遺体に目をやった。
もう、仲間を失いたくない。
「やめ……ろ……アーサー……」
ガボガボと血を吐きながら、カミーユが起き上がる。続けてジル、カトリナ、リアーナも、アーサーにかすれた声で言った。
「こんな恐ろしい魔物……使役なんかしたら……君はもう……人ではなくなってしまう……」
「使役してはダメ……私たちが……倒す、から……」
「お前まで……っ、魔物の世界に足ツッコまなくていい……! あたしらに任せろ……」
彼らの声に興を削がれたシルヴェストルは、うんざりした表情を浮かべて指を鳴らそうとした。
「やめて!!」
アーサーはその腕にしがみつき、泣き叫ぶ。
「使役する!! 君を使役するから……!! だからもう、これ以上僕の大切な人を殺さないで!! お願い! お願い……っ!!」
それを聞いたシルヴェストルは、子どものようなあどけない笑顔を向けた。
「えっ! 本当かいアウス!?」
「うん……っ。だから……もう……これ以上は……っ!」
「うんうん! もちろんだよアウス! 約束だもんね! もう彼らに手を出さないよ! わぁぁ、嬉しいなあ! ありがとうアウス! これから一生、君が死ぬその時まで僕がずーっと傍にいるからね!」
「……」
シルヴェストルは言っていた。魔物を使役することは、魔物と結婚することと同じだと。
魔物を従えさせられる代わりに、人生の終わりまでその魔物と共に生きていかなければいけない。
それだけではない。
魔物を使役する者は、魔物と契りを交わす必要がある。その契りでは、主人に魔物の魔力と血を流し込み、交換に魔物に主人の血(と魔力)を流し込まなければならない。これは共感性を高めるためとされているが、実際のところ魔物と人間が共に刻みつける強いマーキングなだけだ。
そして……一般的に魔物を使役する人は、道を踏み外した者、人を捨てた者として表の世界で生きられなくなる。
――このことを知っているからこそ、S級冒険者は命を捨ててでもアーサーを引き留めようとした。
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しかし、アーサーの意思は揺るがなかった。
「使役する……それでみんなが……助かるなら……」
シルヴェストルに痛めつけられ、もはや動くことすらできないカミーユたちは項垂れ、嗚咽を漏らした。
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