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決戦編:裏S級との戦い
襲いかかる絶望
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マルムがジルとミントに、ヘラがマデリアに気を取られている間に、カトリナがサンプソンにエリクサーを飲ませた。失った血は戻らないが、死んでもおかしくなかった傷が治る。
「ふう。アーサーとモニカに命を救われたよ」
サンプソンは、隣でガタガタ震えているカトリナの背中をそっとさする。
「心配かけたね、カトリナ」
「ええ……良かった……良かった……」
「傷も癒えたところだし、僕は魔術師とケジメをつけてこようかな」
サンプソンが立ちあがり、弓を肩にかけて歩き出した。
カトリナは首を横に振り、サンプソンを引き留める。
「え……? あなた今死にかけたばかりなのよ? それに失血量がひどい……」
「カトリナ、君はジルを弟のように大切に想っているよね。……僕とマデリアも、今では家族のような仲なんだ」
振り返ったサンプソンが目尻を下げる。優しい春風のような笑顔。その笑顔は、カトリナがはじめて恋をした、九歳の彼そのものだった。
「マデリアがこれ以上悪夢にうなされないように。……彼女のような憐れな子がこれ以上増えないために、僕はあの魔術師を倒す。そのために……君と離れてまで僕は彼女と生きてきたんだ」
サンプソンは最後にもう一度微笑み、カトリナに掴まれた手をそっと放す。カトリナもそれ以上は何も言えなかった。
歩きながら弓を引くサンプソン。いつもの柔らかい表情をしているが、矢をかけている手はわなわなと震え、血管が浮き上がっている。
「……困ったな。昂ぶりすぎて矢が定まらない」
◇◇◇
魔術師ヘラが奇声を発しながら杖を振り回す。杖から不自然な光が放たれ、魔術が無差別に人を攻撃した。魔物の魔力を使っているためか、パスが狙っていなくとも魔法が生きているかのようにヒトを追いかける。
魔力が枯渇している魔法使いでは完全に相殺することは不可能だ。そこでアーサーも魔法液で参戦したが、焼け石に水だった。
焦りを帯びたカミーユとクルドが、魔術を躱しながらメンバーに指示を出した。
「あの魔術師やべえ!! 追跡型の魔法!? 厄介すぎる!!」
「ジルとミント以外は魔術師を狙え!! さっさと倒さねえとやられんぞ!!」
メンバーは頷き、魔術師ヘラを取り囲もうと走り出した。
しかし――
見えない何かが爆発して、裏S級とアーサー以外がみな吹き飛ばされた。壁に打ち付けられた冒険者は、全身を強打して意識が混とんとする。
一瞬の出来事にアーサーは呆然と立ち尽くした。
「え……。ど……どうしたのみんな!? 大丈夫!?」
頭から血を流し気を失っているモニカに駆け寄ろうとしたアーサーの目の前に、シルヴェストルが静かに姿を現した。
「シルヴェストル……」
「アウス。とうとうこの時が来てしまった。僕は残念だ」
「こ、これ……シルヴェストルがしたの……?」
「うん。僕と君たちは敵同士だから……殺さないといけないんだ」
「……」
「一人残さず、ね……」
シルヴェストルの右手がモニカに向けられる。彼が指を鳴らすと、モニカがまた吹き飛ばされ、地面に打ち付けられた。
倒れたモニカの口から血がこぼれ、腕は不自然な曲がり方をしている。
アーサーは絶叫してシルヴェストルに剣を向けた。
「うわぁぁぁぁっ!! やめろぉぉぉっ!!」
「大丈夫。モリアは殺さない。死なない程度におさえておくよ。他の冒険者は手加減しないけど」
よろよろと起き上がろうとしていたS級冒険者に、魔術師ヘラの魔術が直撃する。その後またシルヴェストルが指を鳴らすと、冒険者の全身に深い傷が刻まれ、血が噴き出した。
「ガハッ……」
あのS級冒険者が手も足も出ない。半年間戦い続けていた疲労に加え、頭を強打したことでさらに動きが鈍くなっている。その上止むことのない裏S級からの攻撃に痛めつけられるS級に、なす術などなかった。
「モニカッ……!」
カミーユが全身血だらけになりながら、モニカの上に覆いかぶさった。クルドもモニカの傍に這い寄り、裏S級の冒険から守ろうとしている。他の冒険者もよろよろとモニカを囲み、近接で襲い掛かってくるマルムから彼女を守った。
「絶対に死なせちゃいけねえ……!」
「モニカを守れ……! ミント! モニカに回復魔法を……!」
「任せて……! 治す……!」
「リアーナ、モニカに反魔法を……!」
「今やってる……! 待っとけよモニカ……! すまねえこんな怪我させちまって……!」
カミーユは大剣を握ったが、すぐに剣に持ち替えマルムに応戦した。
それを見たマルムがクスッと笑う。
「バンスティン国一番の大剣の使い手と呼ばれてるカミーユが、大剣が重くて持てなくなったの?」
「うるっせぇ……!」
「そんなに体力がなくなってたんだね。そりゃそうか。ここまで頑張って戦ってたんだもんね」
「さっきからうだうだうるせえんだよ……!」
「……まあ、こんなバテバテなのに僕の攻撃をやすやすと防ぐんだから、よっぽど強いね」
「そいつぁどーも……っ」
シルヴェストルがまた指を鳴らそうとしたので、アーサーは悲鳴を上げて彼に切りかかった。しかし軽々と避けられ、頭を撫でられる。それでもアーサーは剣を振り回す。
「やめろぉぉぉぉっ! これ以上みんなを傷つけるなあぁぁ!」
「やめてほしい? アウス」
「僕の大切な人たちを!! 攻撃するなああああっ!」
「僕に攻撃を止めさせる方法が、ひとつだけあるよ」
シルヴェストルは飛び上がり、アーサーが振り上げた剣の上にとんと足先を乗せ、宙返りをしながら彼の背後に立った。そして、アーサーの耳元で囁く。
「僕を使役してよ、アウス。そうしてくれたらこれ以上彼らを傷つけないと約束する」
「ふう。アーサーとモニカに命を救われたよ」
サンプソンは、隣でガタガタ震えているカトリナの背中をそっとさする。
「心配かけたね、カトリナ」
「ええ……良かった……良かった……」
「傷も癒えたところだし、僕は魔術師とケジメをつけてこようかな」
サンプソンが立ちあがり、弓を肩にかけて歩き出した。
カトリナは首を横に振り、サンプソンを引き留める。
「え……? あなた今死にかけたばかりなのよ? それに失血量がひどい……」
「カトリナ、君はジルを弟のように大切に想っているよね。……僕とマデリアも、今では家族のような仲なんだ」
振り返ったサンプソンが目尻を下げる。優しい春風のような笑顔。その笑顔は、カトリナがはじめて恋をした、九歳の彼そのものだった。
「マデリアがこれ以上悪夢にうなされないように。……彼女のような憐れな子がこれ以上増えないために、僕はあの魔術師を倒す。そのために……君と離れてまで僕は彼女と生きてきたんだ」
サンプソンは最後にもう一度微笑み、カトリナに掴まれた手をそっと放す。カトリナもそれ以上は何も言えなかった。
歩きながら弓を引くサンプソン。いつもの柔らかい表情をしているが、矢をかけている手はわなわなと震え、血管が浮き上がっている。
「……困ったな。昂ぶりすぎて矢が定まらない」
◇◇◇
魔術師ヘラが奇声を発しながら杖を振り回す。杖から不自然な光が放たれ、魔術が無差別に人を攻撃した。魔物の魔力を使っているためか、パスが狙っていなくとも魔法が生きているかのようにヒトを追いかける。
魔力が枯渇している魔法使いでは完全に相殺することは不可能だ。そこでアーサーも魔法液で参戦したが、焼け石に水だった。
焦りを帯びたカミーユとクルドが、魔術を躱しながらメンバーに指示を出した。
「あの魔術師やべえ!! 追跡型の魔法!? 厄介すぎる!!」
「ジルとミント以外は魔術師を狙え!! さっさと倒さねえとやられんぞ!!」
メンバーは頷き、魔術師ヘラを取り囲もうと走り出した。
しかし――
見えない何かが爆発して、裏S級とアーサー以外がみな吹き飛ばされた。壁に打ち付けられた冒険者は、全身を強打して意識が混とんとする。
一瞬の出来事にアーサーは呆然と立ち尽くした。
「え……。ど……どうしたのみんな!? 大丈夫!?」
頭から血を流し気を失っているモニカに駆け寄ろうとしたアーサーの目の前に、シルヴェストルが静かに姿を現した。
「シルヴェストル……」
「アウス。とうとうこの時が来てしまった。僕は残念だ」
「こ、これ……シルヴェストルがしたの……?」
「うん。僕と君たちは敵同士だから……殺さないといけないんだ」
「……」
「一人残さず、ね……」
シルヴェストルの右手がモニカに向けられる。彼が指を鳴らすと、モニカがまた吹き飛ばされ、地面に打ち付けられた。
倒れたモニカの口から血がこぼれ、腕は不自然な曲がり方をしている。
アーサーは絶叫してシルヴェストルに剣を向けた。
「うわぁぁぁぁっ!! やめろぉぉぉっ!!」
「大丈夫。モリアは殺さない。死なない程度におさえておくよ。他の冒険者は手加減しないけど」
よろよろと起き上がろうとしていたS級冒険者に、魔術師ヘラの魔術が直撃する。その後またシルヴェストルが指を鳴らすと、冒険者の全身に深い傷が刻まれ、血が噴き出した。
「ガハッ……」
あのS級冒険者が手も足も出ない。半年間戦い続けていた疲労に加え、頭を強打したことでさらに動きが鈍くなっている。その上止むことのない裏S級からの攻撃に痛めつけられるS級に、なす術などなかった。
「モニカッ……!」
カミーユが全身血だらけになりながら、モニカの上に覆いかぶさった。クルドもモニカの傍に這い寄り、裏S級の冒険から守ろうとしている。他の冒険者もよろよろとモニカを囲み、近接で襲い掛かってくるマルムから彼女を守った。
「絶対に死なせちゃいけねえ……!」
「モニカを守れ……! ミント! モニカに回復魔法を……!」
「任せて……! 治す……!」
「リアーナ、モニカに反魔法を……!」
「今やってる……! 待っとけよモニカ……! すまねえこんな怪我させちまって……!」
カミーユは大剣を握ったが、すぐに剣に持ち替えマルムに応戦した。
それを見たマルムがクスッと笑う。
「バンスティン国一番の大剣の使い手と呼ばれてるカミーユが、大剣が重くて持てなくなったの?」
「うるっせぇ……!」
「そんなに体力がなくなってたんだね。そりゃそうか。ここまで頑張って戦ってたんだもんね」
「さっきからうだうだうるせえんだよ……!」
「……まあ、こんなバテバテなのに僕の攻撃をやすやすと防ぐんだから、よっぽど強いね」
「そいつぁどーも……っ」
シルヴェストルがまた指を鳴らそうとしたので、アーサーは悲鳴を上げて彼に切りかかった。しかし軽々と避けられ、頭を撫でられる。それでもアーサーは剣を振り回す。
「やめろぉぉぉぉっ! これ以上みんなを傷つけるなあぁぁ!」
「やめてほしい? アウス」
「僕の大切な人たちを!! 攻撃するなああああっ!」
「僕に攻撃を止めさせる方法が、ひとつだけあるよ」
シルヴェストルは飛び上がり、アーサーが振り上げた剣の上にとんと足先を乗せ、宙返りをしながら彼の背後に立った。そして、アーサーの耳元で囁く。
「僕を使役してよ、アウス。そうしてくれたらこれ以上彼らを傷つけないと約束する」
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