607 / 718
北部編:決断
話し合い
しおりを挟む
アーサーとモニカは、イルネーヌ町でベニートパーティと再会できたことに大喜びした。ベニートたちも、元気そうな双子を見てホッと胸を撫でおろす。
次の日の夜、クルドのアジトに、クルドパーティ、カミーユパーティ、ベニートパーティ、シャナ、ユーリ、そして双子が集まった。アジトは決して狭くはなかったが、さすがに16人もの人が集まるとギチギチだ。
そんな中、カミーユが皆に向かって口を開いた。
「おいお前ら、話したいことがある。アーサーとモニカのことだ」
やっとか、という様子で皆がリビングルームに集まった。子どもたち、シャナ、そしてクルドとカミーユは椅子に座り、その他のメンバーは立つ。
カミーユは双子に視線を向け、異論は認めない口調で話す。
「アーサー、モニカ。ここでは隠し事はなしだ。ここにいる全員……ユーリ以外は、お前らの正体を知っている。この際ユーリにも聞かせるぞ。いいな」
「……うん」
アーサーとモニカはちらりとユーリを見た。嫌われちゃったらどうしよう、と不安そうに体を揺らしている。
カミーユはそれに構わず、ユーリに双子の正体を明かす。
「ユーリ、アーサーとモニカは、10年前に死んだとされている、アウス王子とモリア王女だ」
「え? ……ええーーーー!?」
驚きすぎて、ユーリが椅子からひっくり返ったので、リアーナとマデリアが噴き出した。
「ユーリのこんなみっともねえ姿、初めて見たぜー! ギャハハ!」
「かわいいわ。とてもかわいい。どれだけ大人びていても、子どもなのね」
ユーリには、二人のくだらない会話なんてひとつも耳に入らず、口をパクパクさせながら双子を指さした。
「え? あれっ? ということは、アーサーとモニカは、王子さまと王女さまってこと……?」
「そう言ってるだろ」
「え? え? ええ? ど、どうして王子さまと王女さまが、ポントワーブにいるの……?」
かくかくしかじか、カミーユは大雑把に双子がポントワーブに来た経緯を話した。その間アーサーとモニカはビクビクしていたが、話を聞き終えたユーリは、もちろんそんなことひとつも気にしなかった。
「そっか。大変な幼少時代を過ごしていたんだね。アーサー、モニカ、ポントワーブでの生活は楽しい?」
「うん」
「すごく楽しいよ」
アーサーとモニカがコクコク頷くと、ユーリはニパッと笑う。
「良かったあ」
「~~……」
ユーリの笑顔に、双子は目を擦った。黙っててごめんなさいと小さな声で謝ったが、ユーリは「いいんだ」と二人の手を握る。
「失礼になっちゃうかもしれないけど、僕にとってアーサーとモニカが、王子さまとか王女さまとか、そんなの関係ないし。そうでしょ?」
「うん……」
「ありがとう、ユーリ……」
しんみりした空気に、時間を気にしているカミーユがすっぱりと割り込む。
「ま、そういうことなんだ。そんで、こいつらは教会事件以来ずっと王族に命を狙われているんだ。王族が大掛かりに暗殺をしかけたのは三年前と、ほんでついこの間だ」
「……そんな……」
「こいつらの暗殺のついでに目を付けられてんのが、俺のパーティと、クルドパーティ、ベニートパーティだ」
「「え……?」」
始めて聞く事実に顔を上げた双子と目が合ったカミーユは、小さく頷く。
「おう。ま、その件に関してお前らが申し訳ねえと思う必要は全くねえ。お前らの事だから、それを知ったら自分らを責めると思って今まで黙ってたが、今はそうも言ってらんねえし、お前らにも協力してもらいてえんだ」
「そうだ。お前ら、冷静に聞いてくれよな。それで今後どうしていくかを、一緒に考えるんだ。分かったな」
クルドの言葉に、アーサーとモニカは唇を噛んで「分かった」と応えた。
「まず、お前らに包み隠さず伝えておく。俺らのパーティは、お前らと引き離すためにずっと指定依頼を出し続けられていた。あわよくば死ねとでも思ってたんだろう」
「……」
双子は、カミーユパーティが多忙なことを知っていた。だがそれがまさか自分たちのせいだったとは思いもしなかった。
「カミーユーー」
アーサーの言葉を、カミーユが遮る。
「おっと、謝るのはなしだぜ。いいか、これから絶対に俺らに謝んな。謝られたって嬉しくねえ」
「……」
「次、クルドパーティは、お前らの暗殺を、ヴィクス王子から受けていた。それは聞いてるよな?」
「うん」
「それともう一つ。お前らがイルネーヌ町に来たタイミングで、クルドパーティへの仕事が来なくなった」
「え……?」
「ちなみに俺らの指定依頼も止まった」
「……?」
「わけわかんねえだろうが、そのまま通して聞いてくれ」
「う、うん……」
「最後にベニートパーティだ。こいつらは、この三年間で三回、正体不明の依頼者から指定依頼を受けていたんだが、全部お前らを守るような動きをさせられている。魔女の件と、今回の件でだ」
「……?」
「以上だ」
難しい話にすでに白目を向いているモニカの隣で、アーサーが眉をひそめてカミーユに尋ねた。
「えっと、カミーユ。よく分からない……。それじゃあまるで、僕たちを暗殺しようとしてる人と、守ろうとしてる人がいるみたいに聞こえるけど」
「そうなんだよ」
「え……」
「事前に大人たちでじっくり話し合ったんだがな。そこで出た仮説がひとつある」
「どんな……?」
カミーユはクルドとベニートに目線を送り、彼らが頷いたのを見てから答えた。
「王族の中で、お前らを暗殺したいやつと、守りたいやつがバチッてる可能性だ」
次の日の夜、クルドのアジトに、クルドパーティ、カミーユパーティ、ベニートパーティ、シャナ、ユーリ、そして双子が集まった。アジトは決して狭くはなかったが、さすがに16人もの人が集まるとギチギチだ。
そんな中、カミーユが皆に向かって口を開いた。
「おいお前ら、話したいことがある。アーサーとモニカのことだ」
やっとか、という様子で皆がリビングルームに集まった。子どもたち、シャナ、そしてクルドとカミーユは椅子に座り、その他のメンバーは立つ。
カミーユは双子に視線を向け、異論は認めない口調で話す。
「アーサー、モニカ。ここでは隠し事はなしだ。ここにいる全員……ユーリ以外は、お前らの正体を知っている。この際ユーリにも聞かせるぞ。いいな」
「……うん」
アーサーとモニカはちらりとユーリを見た。嫌われちゃったらどうしよう、と不安そうに体を揺らしている。
カミーユはそれに構わず、ユーリに双子の正体を明かす。
「ユーリ、アーサーとモニカは、10年前に死んだとされている、アウス王子とモリア王女だ」
「え? ……ええーーーー!?」
驚きすぎて、ユーリが椅子からひっくり返ったので、リアーナとマデリアが噴き出した。
「ユーリのこんなみっともねえ姿、初めて見たぜー! ギャハハ!」
「かわいいわ。とてもかわいい。どれだけ大人びていても、子どもなのね」
ユーリには、二人のくだらない会話なんてひとつも耳に入らず、口をパクパクさせながら双子を指さした。
「え? あれっ? ということは、アーサーとモニカは、王子さまと王女さまってこと……?」
「そう言ってるだろ」
「え? え? ええ? ど、どうして王子さまと王女さまが、ポントワーブにいるの……?」
かくかくしかじか、カミーユは大雑把に双子がポントワーブに来た経緯を話した。その間アーサーとモニカはビクビクしていたが、話を聞き終えたユーリは、もちろんそんなことひとつも気にしなかった。
「そっか。大変な幼少時代を過ごしていたんだね。アーサー、モニカ、ポントワーブでの生活は楽しい?」
「うん」
「すごく楽しいよ」
アーサーとモニカがコクコク頷くと、ユーリはニパッと笑う。
「良かったあ」
「~~……」
ユーリの笑顔に、双子は目を擦った。黙っててごめんなさいと小さな声で謝ったが、ユーリは「いいんだ」と二人の手を握る。
「失礼になっちゃうかもしれないけど、僕にとってアーサーとモニカが、王子さまとか王女さまとか、そんなの関係ないし。そうでしょ?」
「うん……」
「ありがとう、ユーリ……」
しんみりした空気に、時間を気にしているカミーユがすっぱりと割り込む。
「ま、そういうことなんだ。そんで、こいつらは教会事件以来ずっと王族に命を狙われているんだ。王族が大掛かりに暗殺をしかけたのは三年前と、ほんでついこの間だ」
「……そんな……」
「こいつらの暗殺のついでに目を付けられてんのが、俺のパーティと、クルドパーティ、ベニートパーティだ」
「「え……?」」
始めて聞く事実に顔を上げた双子と目が合ったカミーユは、小さく頷く。
「おう。ま、その件に関してお前らが申し訳ねえと思う必要は全くねえ。お前らの事だから、それを知ったら自分らを責めると思って今まで黙ってたが、今はそうも言ってらんねえし、お前らにも協力してもらいてえんだ」
「そうだ。お前ら、冷静に聞いてくれよな。それで今後どうしていくかを、一緒に考えるんだ。分かったな」
クルドの言葉に、アーサーとモニカは唇を噛んで「分かった」と応えた。
「まず、お前らに包み隠さず伝えておく。俺らのパーティは、お前らと引き離すためにずっと指定依頼を出し続けられていた。あわよくば死ねとでも思ってたんだろう」
「……」
双子は、カミーユパーティが多忙なことを知っていた。だがそれがまさか自分たちのせいだったとは思いもしなかった。
「カミーユーー」
アーサーの言葉を、カミーユが遮る。
「おっと、謝るのはなしだぜ。いいか、これから絶対に俺らに謝んな。謝られたって嬉しくねえ」
「……」
「次、クルドパーティは、お前らの暗殺を、ヴィクス王子から受けていた。それは聞いてるよな?」
「うん」
「それともう一つ。お前らがイルネーヌ町に来たタイミングで、クルドパーティへの仕事が来なくなった」
「え……?」
「ちなみに俺らの指定依頼も止まった」
「……?」
「わけわかんねえだろうが、そのまま通して聞いてくれ」
「う、うん……」
「最後にベニートパーティだ。こいつらは、この三年間で三回、正体不明の依頼者から指定依頼を受けていたんだが、全部お前らを守るような動きをさせられている。魔女の件と、今回の件でだ」
「……?」
「以上だ」
難しい話にすでに白目を向いているモニカの隣で、アーサーが眉をひそめてカミーユに尋ねた。
「えっと、カミーユ。よく分からない……。それじゃあまるで、僕たちを暗殺しようとしてる人と、守ろうとしてる人がいるみたいに聞こえるけど」
「そうなんだよ」
「え……」
「事前に大人たちでじっくり話し合ったんだがな。そこで出た仮説がひとつある」
「どんな……?」
カミーユはクルドとベニートに目線を送り、彼らが頷いたのを見てから答えた。
「王族の中で、お前らを暗殺したいやつと、守りたいやつがバチッてる可能性だ」
13
お気に入りに追加
4,353
あなたにおすすめの小説
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!
山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」
────何言ってんのコイツ?
あれ? 私に言ってるんじゃないの?
ていうか、ここはどこ?
ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ!
推しに会いに行かねばならんのだよ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。