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魔女編:合同クエスト

吸血双子

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 目が覚めたアーサーは異様な喉の渇きに違和感を覚えた。水を飲んでも満たされない。吐き気がして、手が痙攣している。

「…?」
「目が覚めた?」

 見張りをしていたアデーレがアーサーに声をかけた。アーサーが口を手で押さえながら頷く。

「顔が青いわね。ひょっとしてもう禁断症状が出てる?」
「禁断症状?」
「ちょっと待ってね」

 アデーレが袖をまくり手首を軽く切った。血が床に落ちるのを見て、アーサーはごくりと喉を鳴らした。口内に唾液が溢れる。

「飲んで」
「え?」

 アデーレはチムシーの一件を話し、数日間は血を飲まないと命が危ないと説明した。

「だから、はい。飲んで」
「えっと、じゃあ…お言葉に甘えて」

 アーサーがアデーレの手首に口を付け血を啜る。あまりのおいしさに夢中で血を貪った。

「おい、その辺にしといてやれ」

 いつの間にか起床していたベニートが、アーサーの肩を掴んでアデーレから引き離した。アデーレは顔面蒼白でぐったりしている。

「アデーレ、ご、ごめん!!」
「大丈夫よ、ちょっとクラクラするだけ」

 ベニートはアデーレに造血薬を手渡したあと、アーサーの容態を診る。

「アーサー、お前はどうだ?具合良くなったか?」
「うん…おかげさまで」

 申し訳なさそうに謝り続けるアーサーに、ベニートが苦笑いをした。

「あんま気にすんな。だが小柄なアデーレとモニカから血を飲むときは気を付けてくれ。男の俺とイェルドには遠慮はいらないけどな」

 アーサーはぽかんとした顔でベニートを見た。はじめはあんなに怖かったが、一緒に過ごして感じたことがある。

「ベニートって、カミーユに似てる」
「は?カミーユって、S級冒険者のカミーユさんのことか?バカ言え。俺はそんな立派なもんじゃねーよ」
「そんなことない」

 まわりのことをよく見ていて、面倒見がいい。戦闘面では頭の機転が良く、メンバーが戦いやすいよう指示を出す。間違いなくリーダーの素質を持っていた。
 アデーレも冷静であり状況をよく分析でき、戦闘ではメンバーで一番戦闘力が高い。イェルドはムードメーカーで、疲れて無言になっているときに面白い話をして場の雰囲気を和ませてくれる。好戦的で敵を見たら我先にと突っ込む向こう見ずなところもあるが、それにつられてメンバーの士気が高まる。

「僕、このメンバーで合同クエストできてよかった」

 アーサーがニッコリ笑うと、照れたようにアデーレが上を向き、ベニートは頭を掻いた。

「私もそう思う」
「まあ、俺も今までで一番やりやすいな。アデーレとイェルドの戦闘力は頼りになるし、アーサーとモニカも戦い慣れてて危うげない。それにメンバーに薬師がいるのは、安心できる」

 褒められてだらしない顔で笑ってると、後ろから殺気がした。

「?!」

 振り返ると、そこには冷たい目をしたモニカが立っていた。アーサーを見下ろし、凍り付くような冷気を纏っている。

「え?モニカどうしたの?あの、氷魔法が出ちゃってるよ?落ち着いて?」
「おいしかった?」
「え?」
「アデーレの血、おいしかった?」
「え、あ、まあ…おいしかったよ…?」
「ふーん」

 それだけ訊いて、モニカはぷいと背を向けた。


 ◇◇◇

 軽食をとってから、5人は掃討を再開した。特に危うげなく……どころか、ほとんど何もせず洞窟の最奥まで辿り着いた。というのも、なぜか不機嫌なモニカが、魔物が現れると同時に魔法で一掃してしまったからだ。
 数百体のゴブリンを一瞬で消し炭にしたモニカの魔法に、イェルドは口笛を吹く。

「すっげぇ~。こんな魔法使い見たことねえよ」

 大人たちが感心している中、アーサーは妹を叱りつけた。

「ちょっとモニカ、またそんな使い方して! そんなことしてたら魔力なくなっちゃうでしょ!」
「大丈夫よこれくらい。アーサーは黙ってて」
「さっきから何怒ってるんだよ!意味分かんない!」
「はぁ?!別に怒ってないんですケドォ!」

 双子が突然取っ組み合いの喧嘩を始めたのを、どこかホッとしたような顔で眺める大人三人。アデーレはクスクス笑っていた。

「なんか、やっとあいつらの子供らしいところ見た気がする」
「ほんとにな!妙に落ち着いてるし礼儀は正しすぎるし強いしで、こいつら子供に化けた大人じゃねーかと思ってたわ」
「モニカったら、アーサーのこと大好きなのね」

 しばらくその様子を見ていたが、二人が杖と剣を構えだしたのでさすがに止めに入った。
 子ども二人を落ち着けさせ、休憩をとった。アーサーの禁断症状が出始めたからだ。

 アーサーに血を与えながら、モニカは「ねえ、血っておいしい?」と尋ねた。

「うん、おいしいよ。モニカも飲んでみる?」
「え?」

 アーサーが自分の手首を切り、妹に腕を差し出した。ちょっとドキドキしながら、アーサーの血をぺろりと舐める。

「どう?」
「うーん、別においしくは…ってあれ…なんだかもっと飲みたくなってきた…」
「ちょ、お前らなにしてる?!」

 ベニートが止めに入った。こちらを向いているモニカの息遣いは荒く、口からよだれを垂らしている。

「アーサーの血を飲んだのか?!」
「うん…もうちょっと飲んでいい?」
「だめだ!アデーレ、イェルド、来てくれ!」

 呼ばれた二人がモニカを抱えてアーサーから離した。

「あのなあ、チムシーに寄生されて吸血欲が残ってるやつの血を飲むと、その吸血欲が飲んだ奴に感染するんだよ。つかなんで飲んだ。なんで飲ませた。ったく…」

 ブツブツと毒づきながら、ベニートが両手首を少し深めに切った。血がボトボトと地面に落ちる。それを見た双子が犬のように呼吸を荒くした。

「飲め」
「おいベニート!さすがにその血の量はまずいだろ。片方は俺に任せろ」
「いや、お前は次の時に頼む。中途半端に二人が貧血状態になるより、一人から思いっきり吸わせて増血薬に頼る方がましだ」

 アーサーとモニカはベニートの手首に飛びつき音を立てながら血にしゃぶりつく。血が減っていくベニートは「あー…」と気のない声をあげた。

「っていうかなんだよこの絵面…」
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