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北部編:懐かしい顔ぶれ
ユリアン・ロベス
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「実は、俺たちも知らないんです」
「はあ?」
「あの……。俺たち、そういうもんだと思ってたんですけど。指定依頼って、ポストに入ってるものなんですか?」
「だいたいそうなんじゃねえか? ただの指定依頼なら、依頼主が指定依頼用紙を冒険者ギルドに郵送して、冒険者ギルドがお前らに声をかけるんだから。ポストには入ってるだろうな」
クルドがそう言うと、ベニートが首を横に振った。
「あ、いえ。家のポストに入ってたんです」
「……は?」
「カミーユさんに家を建ててもらう前までは、俺が寝泊まりしてる宿のポストに入ってました」
「……」
カミーユとクルドは目を見合わせ、ため息を吐く。
「……そんな指定依頼、聞いたことねえよ」
「お前ら、ギルド通さずに指定依頼を受けてたのか? そんなんでよく依頼完了証明書がもらえたな」
「……実は、多額の報酬の代わりに、完了証明書をもらってなかったんです」
「おいおいおい……」
「一度目に届いた封筒の中に、指定依頼用紙と、〝どうか内密に〟って書かれた便箋と、前金として紙に包まれた白金貨九枚が一緒に入ってたんです。便箋に送り主の住所も書かれていなくて、お金も返しようがなくて。受けるしかないと思って受けたんですけど。指定依頼を終えると、知らせてもいないのに残りの報酬がまたポストに入っていました」
「指定依頼の中には極秘任務もあると聞いていたので、そういうものなのかと……。だから、二度目と三度目の指定依頼も、同じようにギルドには報告せずに受けていました」
「完了証明書がもらえなくても、かなり報酬が良かったので……。まあいっかと思ってたんすけど……。これっておかしいんですか?」
ベニート、アデーレ、イェルドが、今まで三人だけの秘密にしていたことを初めて他の人に話し、不安げにS級冒険者を見た。まさかカミーユとクルドがそんな顔をするほど普通ではないことが起こっているなんて、彼らは思いもしなかった。
カミーユは三人の顔に葉巻の煙を吹きかけ、「このバカども」と悪態をつく。
「冒険者は基本的に、冒険者ギルドを通して依頼を受けるもんだ。ギルドを通さねえ極秘指定依頼も確かにあるが、そういうときは依頼主と冒険者は対面して契約を交わす。顔も知らねえ、どこの誰かも分かんねえやつなんかの極秘任務なんか受けるんじゃねえよ。さては大金に目が眩んだな?」
「……」
「もしかしたらお前ら、面倒なことに巻き込まれてるかもな」
「え……」
「お前ら、今まで受けた指定依頼の内容を言ってみろ」
「……今回のイルネーヌ町は、近隣の中ランクダンジョン掃討。前回の王都では、タチの悪い盗賊団が王都で潜んでいるということで、聞き込みして噂を集め、盗賊団の居場所を突き止めて討伐すること。前々回はスイフィシュ町付近の森にはびこっている魔物掃討でした」
クルドは首を傾げ、理解できないとでも言うように眉を寄せる。
「とてもじゃないが、極秘指定依頼の内容とは――」
「おい! ちょっと待て!」
「?」
突然大声を出したカミーユに、クルドもベニートたちも体をビクつかせた。
それに構わず、カミーユは身を乗り出してベニートに詰め寄る。
「ベニート。そのスイフィシュ町付近の指定依頼って、三年前のアレか!?」
「あ……はい」
「あれもユリアン・ロベスからだったのか!」
「はい……」
「お、おいカミーユ。どうしたんだ急に」
未だ心臓が波打っているのか、クルドは胸に手を当てたままカミーユに目を向けた。
そんな彼に、カミーユは口早に応える。
「三年前、アーサーとモニカが魔女に殺されかけたことがあったんだ。あの魔女だって、王族が仕向けた罠だった。冒険者ギルドにスパイまで入れて、虚偽の無指定依頼書をギルドの掲示板に貼っつけてやがったんだ」
「三年前から、そんなことされてたのかよ……」
「ああ。それで、その魔女の棲んでる山に一番近い村がスイフィシュだった。たまたまその時に指定依頼でスイフィシュ村に出向いていたベニートたちが、死にかけてるあいつらを助けて、あいつらは九死に一生を得た」
「ほー……」
「それで? 三年間音沙汰がなかったユリアン・ロベスから、最近になって立て続けに二件も指定依頼が届いたと?」
「はい」
「……」
カミーユが黙り込む。
まるで双子の居場所に移動させるように、依頼されたイルネーヌ町でのダンジョン掃討。
双子に知らせるためかのように、双子の噂を拾えと言わんばかりの聞き込み調査と、今ではおまけに思える盗賊団討伐依頼。
「……いや。あいつらに知らせたかったんじゃねえかもな。クルドと……俺たちに……」
「おいカミーユ! お前、また自分の頭ん中だけで話進めてるな! 俺らにも話せよ!」
クルドの大声に我に返ったカミーユは、深呼吸をしてから席に座った。
「……クルド。俺らも踊らされてるかもしんねえ」
「は!? 俺もか!?」
「そんな気がしてきた。お前らの依頼が止まってるのも、俺らの依頼が止まってんのも、意図的だな、これは」
「誰の意図だ?」
「ユリアン・ロベス。そして……ヴィクス王子」
「っ!?」
「ユリアン・ロベスとヴィクス王子はグルだ。しかし妙だな……」
「妙? どこがだ? っていうか妙じゃねえところなんてねえがな」
「ベニートが今まで受けてきた極秘指定依頼。まるでアーサーとモニカを助けるために、ベニートパーティを動かしてるようにしか見えねえ」
「……?」
「スイフィシュ村の依頼は言うまでもねえだろ。王都の依頼は、暗殺したら報酬がもらえるという噂が上書きされて、あいつらが死んだという噂になったという情報を仕入れさせるため。イルネーヌ町の依頼は、俺らとベニートパーティが合流して、王都での噂を知らせるために出したとしか思えねえ。それと、あいつらを守る人数を増やしたとしか……」
「それは都合の良い解釈なんじゃねえか? ヴィクス王子がそんなことするわけないだろ」
「じゃあ、ユリアン・ロベスがヴィクス王子を騙してサインさせたとかか? あの狡猾な王子がそんなことを許すと思うか? 王子はあいつらの動向なんて掴んでるだろ。望まない動きを許すはずがねえ」
「そもそもユリアン・ロベスって誰だよ。ヴィクス王子のサインなんて、簡単にもらえるはずねえ」
カミーユとクルドが、ベニートパーティを置き去りにして話に夢中になっている時に、イェルドがパッと思い浮かんだことを思わず口に出してしまった。
「ジュリア王女だったりして!」
そう言って「そんなはずないっすよねーハハハ!」と笑ったが、カミーユとクルドの動きが止まる。
「ユリアン・ロベス……」
「ジュリア王女……」
「「は……?」」
「はあ?」
「あの……。俺たち、そういうもんだと思ってたんですけど。指定依頼って、ポストに入ってるものなんですか?」
「だいたいそうなんじゃねえか? ただの指定依頼なら、依頼主が指定依頼用紙を冒険者ギルドに郵送して、冒険者ギルドがお前らに声をかけるんだから。ポストには入ってるだろうな」
クルドがそう言うと、ベニートが首を横に振った。
「あ、いえ。家のポストに入ってたんです」
「……は?」
「カミーユさんに家を建ててもらう前までは、俺が寝泊まりしてる宿のポストに入ってました」
「……」
カミーユとクルドは目を見合わせ、ため息を吐く。
「……そんな指定依頼、聞いたことねえよ」
「お前ら、ギルド通さずに指定依頼を受けてたのか? そんなんでよく依頼完了証明書がもらえたな」
「……実は、多額の報酬の代わりに、完了証明書をもらってなかったんです」
「おいおいおい……」
「一度目に届いた封筒の中に、指定依頼用紙と、〝どうか内密に〟って書かれた便箋と、前金として紙に包まれた白金貨九枚が一緒に入ってたんです。便箋に送り主の住所も書かれていなくて、お金も返しようがなくて。受けるしかないと思って受けたんですけど。指定依頼を終えると、知らせてもいないのに残りの報酬がまたポストに入っていました」
「指定依頼の中には極秘任務もあると聞いていたので、そういうものなのかと……。だから、二度目と三度目の指定依頼も、同じようにギルドには報告せずに受けていました」
「完了証明書がもらえなくても、かなり報酬が良かったので……。まあいっかと思ってたんすけど……。これっておかしいんですか?」
ベニート、アデーレ、イェルドが、今まで三人だけの秘密にしていたことを初めて他の人に話し、不安げにS級冒険者を見た。まさかカミーユとクルドがそんな顔をするほど普通ではないことが起こっているなんて、彼らは思いもしなかった。
カミーユは三人の顔に葉巻の煙を吹きかけ、「このバカども」と悪態をつく。
「冒険者は基本的に、冒険者ギルドを通して依頼を受けるもんだ。ギルドを通さねえ極秘指定依頼も確かにあるが、そういうときは依頼主と冒険者は対面して契約を交わす。顔も知らねえ、どこの誰かも分かんねえやつなんかの極秘任務なんか受けるんじゃねえよ。さては大金に目が眩んだな?」
「……」
「もしかしたらお前ら、面倒なことに巻き込まれてるかもな」
「え……」
「お前ら、今まで受けた指定依頼の内容を言ってみろ」
「……今回のイルネーヌ町は、近隣の中ランクダンジョン掃討。前回の王都では、タチの悪い盗賊団が王都で潜んでいるということで、聞き込みして噂を集め、盗賊団の居場所を突き止めて討伐すること。前々回はスイフィシュ町付近の森にはびこっている魔物掃討でした」
クルドは首を傾げ、理解できないとでも言うように眉を寄せる。
「とてもじゃないが、極秘指定依頼の内容とは――」
「おい! ちょっと待て!」
「?」
突然大声を出したカミーユに、クルドもベニートたちも体をビクつかせた。
それに構わず、カミーユは身を乗り出してベニートに詰め寄る。
「ベニート。そのスイフィシュ町付近の指定依頼って、三年前のアレか!?」
「あ……はい」
「あれもユリアン・ロベスからだったのか!」
「はい……」
「お、おいカミーユ。どうしたんだ急に」
未だ心臓が波打っているのか、クルドは胸に手を当てたままカミーユに目を向けた。
そんな彼に、カミーユは口早に応える。
「三年前、アーサーとモニカが魔女に殺されかけたことがあったんだ。あの魔女だって、王族が仕向けた罠だった。冒険者ギルドにスパイまで入れて、虚偽の無指定依頼書をギルドの掲示板に貼っつけてやがったんだ」
「三年前から、そんなことされてたのかよ……」
「ああ。それで、その魔女の棲んでる山に一番近い村がスイフィシュだった。たまたまその時に指定依頼でスイフィシュ村に出向いていたベニートたちが、死にかけてるあいつらを助けて、あいつらは九死に一生を得た」
「ほー……」
「それで? 三年間音沙汰がなかったユリアン・ロベスから、最近になって立て続けに二件も指定依頼が届いたと?」
「はい」
「……」
カミーユが黙り込む。
まるで双子の居場所に移動させるように、依頼されたイルネーヌ町でのダンジョン掃討。
双子に知らせるためかのように、双子の噂を拾えと言わんばかりの聞き込み調査と、今ではおまけに思える盗賊団討伐依頼。
「……いや。あいつらに知らせたかったんじゃねえかもな。クルドと……俺たちに……」
「おいカミーユ! お前、また自分の頭ん中だけで話進めてるな! 俺らにも話せよ!」
クルドの大声に我に返ったカミーユは、深呼吸をしてから席に座った。
「……クルド。俺らも踊らされてるかもしんねえ」
「は!? 俺もか!?」
「そんな気がしてきた。お前らの依頼が止まってるのも、俺らの依頼が止まってんのも、意図的だな、これは」
「誰の意図だ?」
「ユリアン・ロベス。そして……ヴィクス王子」
「っ!?」
「ユリアン・ロベスとヴィクス王子はグルだ。しかし妙だな……」
「妙? どこがだ? っていうか妙じゃねえところなんてねえがな」
「ベニートが今まで受けてきた極秘指定依頼。まるでアーサーとモニカを助けるために、ベニートパーティを動かしてるようにしか見えねえ」
「……?」
「スイフィシュ村の依頼は言うまでもねえだろ。王都の依頼は、暗殺したら報酬がもらえるという噂が上書きされて、あいつらが死んだという噂になったという情報を仕入れさせるため。イルネーヌ町の依頼は、俺らとベニートパーティが合流して、王都での噂を知らせるために出したとしか思えねえ。それと、あいつらを守る人数を増やしたとしか……」
「それは都合の良い解釈なんじゃねえか? ヴィクス王子がそんなことするわけないだろ」
「じゃあ、ユリアン・ロベスがヴィクス王子を騙してサインさせたとかか? あの狡猾な王子がそんなことを許すと思うか? 王子はあいつらの動向なんて掴んでるだろ。望まない動きを許すはずがねえ」
「そもそもユリアン・ロベスって誰だよ。ヴィクス王子のサインなんて、簡単にもらえるはずねえ」
カミーユとクルドが、ベニートパーティを置き去りにして話に夢中になっている時に、イェルドがパッと思い浮かんだことを思わず口に出してしまった。
「ジュリア王女だったりして!」
そう言って「そんなはずないっすよねーハハハ!」と笑ったが、カミーユとクルドの動きが止まる。
「ユリアン・ロベス……」
「ジュリア王女……」
「「は……?」」
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