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北部編:王城にて
真夜中の来客
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ヴィクスが近衛兵を雇った数日後、裏S級冒険者がこっそり彼を訪れた。
夜中二時。ヴィクスが眠る暗い寝室の窓がカタリと微かな音を立てて開く。彼の瞼がそっと開き、驚く様子もなく起き上がる。
「遅かったね」
「すみません。色々と後始末してまして」
「そう。……こっちに来てくれるかい」
「はい」
ヴァラリアとマルムがベッドの前で跪くと、ヴィクスが口を開いた。
「ひとまず、お疲れ様」
「どうも」
「失敗したって?」
「はあ。五年も待っててくれてたのにすみません。回収できたのはこれくらいです」
ヴァラリアは、アーサーとモニカのアイテムボックスを地面に置いた。血の痕がべっとりと付いたそれを手に取り、ヴィクスはちらりと彼を見る。
「中身はそのままだろうね?」
「はい。結構いいもん入ってましたけどね。銅貨一枚盗ってませんよ」
「信用するよ。それにしても、マルムがいたにもかかわらず失敗なんて。どうして?」
頭を掻くヴァラリアの隣で、マルムが淡々と報告する。
「モリアが異国の魔法具を所持していました。それは彼女の体に憑依して、計算外の行動を取りました。それで逃げられました」
「君たちが逃がすなんて、信じられない」
「僕も信じられませんよ。反魔法液も使ったし、アウスに魔物の魂魄もしっかり飲ませた。どうして逃げられたのか見当もつかないです」
「彼らは闇オークションに参加していたそうだよ」
ヴィクスの言葉に、ヴァラリアが顔を歪めて地面を殴りつける。
「やっぱりあいつらか……! 子ども二人がペンダントを買い取ったって報告があったんすよ」
「うん。つまり君たちは、彼らの生け捕りにも、ペンダントをこちらに買い取らせることにも失敗したということだよ」
「弁明の余地もないです」
無表情で応えるマルムに、ヴィクスは静かな笑みを浮かべ足を組んだ。
「今回は許してあげる。国王には、彼らの暗殺に成功したと言ってあるから」
「え……」
「あ、ありがたいですけど、虚偽の報告をしたってことですか……」
「ああ。今回の失敗が国王に知られたら、さすがの君たちでも処刑は免れないからね」
ヴィクスがそう言うと、ヴァラリアがチッと舌打ちをする。
「……処刑なんか素直に受け入れるわけないだろうが。こっちには――」
小さな声でぼやくヴァラリアの腰に、マルムが素早くナイフを突き刺した。
「ってぇ! 何すんだマルム!」
「静かに。次期国王の前だよ」
「チッ……」
二人のやりとりに、ヴィクスがクスクスと笑う。
(だろうね。だから……)
「国王に知られる前に、君たちは自分の尻拭いをしてもらうよ」
「……と、言いますと?」
マルムの問いにヴィクスはすぐに応えず、アイテムボックスから丸めた紙を一枚取り出し、彼に渡す。
受け取ったマルムはそれに目を通し、「へえ」と口角を上げた。
「君たちに与えていた魂魄たちは育っているかい?」
「そうですね……。五年かけてずいぶん育てましたが、あともうしばらく待っていただいた方がいいです」
「分かった。じゃあそれらが育ちきったタイミングを見計らって出すよ」
何を?と紙を覗き込むヴァラリアに、ヴィクスが答える。
「君たちの巣……Sランクダンジョンの中でも最も凶悪であると言われている、バンスティンダンジョン掃討の指定依頼。依頼先はS級冒険者カミーユパーティとクルドパーティ」
「おおー! やっとこの時が来たんすね! 待ち侘びましたよ」
「元々いる魔物を繁殖させ続け、さらに魂魄蘇生による奇形種の魔物も今や溢れかえっています。ここに入った人は例えカミーユだって死ぬでしょうね」
「うん。王族にとって望ましくない動きをしているS級冒険者を処分してほしいんだ。王子と王女の盾となるだけでなく、教会の解体やその他王族が損をすることばかりするカミーユパーティ。それと、指定依頼での暗殺をせず、こっそり異国へ流しているクルドパーティもね。国王や臣下は気づいていないけど、僕の目はごまかせないよ。彼らが王族に反感を持っていることは明らかだ。そんなS級は危険な存在なだけだから、消して」
夜中二時。ヴィクスが眠る暗い寝室の窓がカタリと微かな音を立てて開く。彼の瞼がそっと開き、驚く様子もなく起き上がる。
「遅かったね」
「すみません。色々と後始末してまして」
「そう。……こっちに来てくれるかい」
「はい」
ヴァラリアとマルムがベッドの前で跪くと、ヴィクスが口を開いた。
「ひとまず、お疲れ様」
「どうも」
「失敗したって?」
「はあ。五年も待っててくれてたのにすみません。回収できたのはこれくらいです」
ヴァラリアは、アーサーとモニカのアイテムボックスを地面に置いた。血の痕がべっとりと付いたそれを手に取り、ヴィクスはちらりと彼を見る。
「中身はそのままだろうね?」
「はい。結構いいもん入ってましたけどね。銅貨一枚盗ってませんよ」
「信用するよ。それにしても、マルムがいたにもかかわらず失敗なんて。どうして?」
頭を掻くヴァラリアの隣で、マルムが淡々と報告する。
「モリアが異国の魔法具を所持していました。それは彼女の体に憑依して、計算外の行動を取りました。それで逃げられました」
「君たちが逃がすなんて、信じられない」
「僕も信じられませんよ。反魔法液も使ったし、アウスに魔物の魂魄もしっかり飲ませた。どうして逃げられたのか見当もつかないです」
「彼らは闇オークションに参加していたそうだよ」
ヴィクスの言葉に、ヴァラリアが顔を歪めて地面を殴りつける。
「やっぱりあいつらか……! 子ども二人がペンダントを買い取ったって報告があったんすよ」
「うん。つまり君たちは、彼らの生け捕りにも、ペンダントをこちらに買い取らせることにも失敗したということだよ」
「弁明の余地もないです」
無表情で応えるマルムに、ヴィクスは静かな笑みを浮かべ足を組んだ。
「今回は許してあげる。国王には、彼らの暗殺に成功したと言ってあるから」
「え……」
「あ、ありがたいですけど、虚偽の報告をしたってことですか……」
「ああ。今回の失敗が国王に知られたら、さすがの君たちでも処刑は免れないからね」
ヴィクスがそう言うと、ヴァラリアがチッと舌打ちをする。
「……処刑なんか素直に受け入れるわけないだろうが。こっちには――」
小さな声でぼやくヴァラリアの腰に、マルムが素早くナイフを突き刺した。
「ってぇ! 何すんだマルム!」
「静かに。次期国王の前だよ」
「チッ……」
二人のやりとりに、ヴィクスがクスクスと笑う。
(だろうね。だから……)
「国王に知られる前に、君たちは自分の尻拭いをしてもらうよ」
「……と、言いますと?」
マルムの問いにヴィクスはすぐに応えず、アイテムボックスから丸めた紙を一枚取り出し、彼に渡す。
受け取ったマルムはそれに目を通し、「へえ」と口角を上げた。
「君たちに与えていた魂魄たちは育っているかい?」
「そうですね……。五年かけてずいぶん育てましたが、あともうしばらく待っていただいた方がいいです」
「分かった。じゃあそれらが育ちきったタイミングを見計らって出すよ」
何を?と紙を覗き込むヴァラリアに、ヴィクスが答える。
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「うん。王族にとって望ましくない動きをしているS級冒険者を処分してほしいんだ。王子と王女の盾となるだけでなく、教会の解体やその他王族が損をすることばかりするカミーユパーティ。それと、指定依頼での暗殺をせず、こっそり異国へ流しているクルドパーティもね。国王や臣下は気づいていないけど、僕の目はごまかせないよ。彼らが王族に反感を持っていることは明らかだ。そんなS級は危険な存在なだけだから、消して」
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