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北部編:イルネーヌ町

再会

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アーサー額に汗が流れる。

 体格やオーラからして明らかに強そうだ。下手に襲い掛かっても返り討ちにあうことは、火を見るよりも明らかだった。

(どうしよう。モニカの背後を取られてる。動けない)

「ん? どうしたのアーサー?」

 兄の異変に気付いたモニカが、不思議そうに首を傾げた。アーサーが意味ありげな視線を送るも、モニカは呑気に「おなかすいたのー?」と尋ねている。

 警戒心をむき出しにしているアーサーに、マントを羽織った男が呆れた声を出した。

「おいおい。俺らのこと、もう忘れたのか?」

「!」

 背後から声がして、モニカはなぜ兄が急に挙動不審になったかを理解した。襲い掛かる恐怖心に耐えられず、咄嗟にモニカは強力な風魔法を放ってしまった。

――しかし、彼女の魔法は軽々と打ち消されてしまう。

「「!!」」

「お馬鹿さん。こんな室内で風魔法なんて」

(モニカの風魔法をやすやすと打ち消した……! やっぱりこの人たち、ただものじゃない)

(だ、誰!? 私の風魔法を相殺するなんて、リアーナレベルの魔法使いだわ……。まさか裏S級が……)

「おい、余計警戒させちまっただろうが」

「そりゃあ、顔を隠した大人たちに背後に立たれたら、警戒もするよねぇ」

「おっと。そうだった。顔を隠してたんだったな。そりゃあ分かんなくても無理はねえ」

 ガハハと豪快に笑い、先頭に立っていた男がフードを外した。続けて他のメンバーも顔を見せる。

「あ!?」

 見覚えのある顔ぶれに、双子は口をあんぐりと開けた。

「「クルドパーティ!!」」

「おうおう! 久しぶりだなあ、アーサー、モニカ! どうしてこんなところにいるんだあ?」

 先頭に立っていた男――クルドは、人なつっこい笑顔を向けて双子の肩を力強く抱いた。

 クルドパーティ――バンスティン国北部を拠点とするS級冒険者パーティであり、カミーユパーティと同じく、国内三本の指に入ると言われている優れもの揃いだ。

 カミーユパーティがおこなった合宿時に、双子は彼らと一度会ったことがあった。その時に手合わせをしてもらい、食事も共にしていた。

 クルド、マデリア、ブルギー、ミント、サンプソンの五人で構成されているクルドパーティは、カミーユパーティ同様、驚くほど強く、そして変人の集まりだった。

 予想を良い意味で裏切られた彼らの正体に、アーサーは泣き出してしまいそうなほどホッとしていた。一方モニカは、安堵と同時に湧き上がる猜疑心で体を強張らせたままだった。

「クルドさん! どうしてこんなところに~!?」

 アーサーが尋ねると、クルドは口角を上げる。

「イルネーヌ町が俺らの拠点だからな。家もこの町にあんだ」

「そうだったんだー! ここ、寒いねえ」

「ガハハ! そうだ寒いんだよ! なのになんだ、お前らの恰好は! ピラッピラの薄着なんて着て!」

「この服しかないんだよ~。寒いよぉ」

「あなたちこそ、どうしてこんなところにいるの? 依頼か何かかしら?」

「ううん! 実はね――」

 マデリアの質問に答えようとしたアーサーの服を、モニカがグイと引っ張った。

「ん? どうしたのモニカ」

「アーサー。そんな簡単に事情を話しちゃだめだよ。もしかしたらクルドさんたちも、私たちの命を狙ってるかもしれないんだよ?」

「……」

 耳元で囁くモニカに、アーサーは眉をハの字にした。今までのモニカだったら、そんな発想に至ることはなかった。今回の件でよほど人間不信になっていることが窺える。

 いくら小さな声で囁いても、耳の良いクルドパーティには筒抜けだ。彼らは合宿の時と雰囲気が違うモニカに目を見合わせた。そしてクルドが低い声で尋ねる。

「お前らもしかして、何かあったのか」

 アーサーは神妙な顔で小さく頷き、モニカは目を伏せたまま兄の手を握っている。

 マデリアは唇に手を当て、「ふーん、なるほどね」と納得したように呟いた。

「私たちだけじゃなかなか進展しないから、他のS級に頼んだのかしら」

「えっ……?」

 モニカが顔を上げる。

今のクルドパーティは笑っていなかった。クルドは双子に顔を近づける。

「実は、俺たちにお前らの暗殺依頼が来ていた」

「っ……」

「合宿の時にはもうその依頼は来ていたんだ。俺たちはお前らの正体に気付いたが、殺さなかった」

「……どうして?」

 おそるおそるモニカが聞くと、クルドは目尻を下げ、低く優しい声を出す。

「カミーユがお前らを守ろうとしていたからだ」

「……」

「あいつらが悪いやつを匿うわけがねえ。俺も、こいつらも、自分のパーティの次にカミーユたちを信用している。だからお前らを殺さなかった。例え王族の依頼であっても、な」

「それが私たちの信条よ。私たちが殺さないと決めた人たちは、指定依頼であっても殺さない」

 マデリアはそう言うが、とても信じられない。モニカは眉をひそめる。

「で、でもそんなことをしたら処刑されちゃうんじゃ……」

「そこは上手にやってるわ。あななたちのことは、まだ見つけられていないってずっと報告していたわ。そうやってごまかすか、暗殺完了の報告をして、異国へ亡命させたり、私たちが所有している施設で隠居してもらったりね」

「……」

「とにかく、場所を変えないか? こんなところでそんなヤバい話はよそうぜ」

 マデリアとモニカの会話にヒヤヒヤしていたブルギーが、あたりを見回してそう声をかけた。クルドは頷き、双子を椅子から立ち上がらせる。

「俺たちのアジトに来い。モニカ、お前に俺らの武器や所持金をぜーんぶ預ける。なんなら手足を縛ってもいい。魔女を呼んでお前らと契約したっていいぞ。だからついて来てくれないか。俺たちは、お前らを助けたい」

「……」
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