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北部編:イルネーヌ町
血を飲む少年と、血を与える少女
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「う……こ、これ、食べるのむずかしいねっ」
「全部ばらばらになっちゃって上手に口まで運べないよぉ」
先ほどまであんなにかわいい見た目をしていたガレットだが、双子によってナイフを入れられたそれは、今や悲惨なものになっていた。具材がしっかり生地に包まれているわけではないので、口に運んでいる間にボトボト落ちてしまう。
試行錯誤した結果、双子は手でガレットを掴み、生地を半分に折って食べることにした。
「おいしかったけど、食べ方を考えるのに頭を使って、もっとおなかすいちゃったよー!」
ガレット一枚では空腹が満たされなかったのか、モニカがメニューを手に取った。
「アーサー、他にも食べる?」
「うん! 肉の腸詰が食べたい! あと、パンに……あれっ、バナナがない……」
「バナナはあとで、果物屋さんを探しましょ。わたしはサラダが食べたいな!」
それからも双子は、満腹になるまで追加で注文した。最後にクレープを頼み、ぺろりと平らげる。結局、全メニューを制覇してしまった。
「ふーっ! おなかいっぱい!」
モニカが満足げにおなかをぽんぽんと叩く。
一方アーサーは、無意識に妹をじーっと見ていた。その目には、物足りなさがありありと浮かんでいた。その視線に気付いたモニカは優しい顔つきになる。
「ごはん食べたら飲ませてあげるから。もう少し我慢してね」
「ふぁっ。え、ぼ、僕、何か言った!?」
慌てたアーサーが裏返った声を出したので、モニカがぷっと噴き出す。
「言った! 口じゃなくて、目でだけどね」
アーサーはカッと顔を赤らめて、妹から顔を背けた。
「どうしてそんな顔するの? 私は気にしてないよ」
「う、うん。でもなんか、ねえ?」
「ねえ? って聞かれても」
モニカはクスクス笑って立ち上がり、店主に代金を支払いに行った。
「小銀貨九十六枚だよぉ」
「わぁー、結構食べたわね」
モニカは代金に驚きながら、金貨一枚をトレーに載せた。所持金が残り約金貨七枚。このままでは、一週間を満足に生活できるかどうかも怪しい。
部屋へ戻ると、早速モニカがベッドに座り、首を傾けて襟を引っ張った。
「アーサー、どうぞ」
「うー、ごめんね、モニカ」
申し訳なさそうに背後に座った兄の頭を、モニカがぺちんと叩く。
「いい加減慣れなさいよ。毎日そんな顔されちゃ、私の方も滅入っちゃうじゃない」
「うぅぅ……いただきます……」
アーサーは、ナイフでモニカの首元に薄い傷をつけた。血が滲むと、ごくりと唾を飲み込み唇を当てる。モニカにできるだけ負担がかからないようにか、長い時間をかけて少量ずつ、アーサーは血を吸った。徐々に彼の空腹が満たされていく。
(モニカの血、おいしい。優しい味。こうやってセルジュ先生も、ミモレスの血を飲んでたのかな)
「なんだか私たち、セルジュ先生とミモレスみたいだね」
「ふぁっ!?」
考えていたことと全く同じことをモニカが言ったので、アーサーは驚いて思わず彼女から口を離した。モニカは気にせず、言葉を続ける。
「聖魔法が使える女の人と、吸血しないと生きていけない、心優しい男の人。正にわたしとアーサーだわ」
「そ、そうだね?」
「ロマンチックね。ミモレスは、生まれ変わってセルジュ先生と結ばれることはできなかったけど。ミモレスの魂を持つ私と、セルジュ先生の魂魄の残滓とひとつになったアーサーが、こうして一緒にいるなんて」
アーサーは、妹にこれ以上ないほど優しい瞳を向けた。
モニカは兄にもたれかかり、手を握る。
「ミモレス。セルジュ先生。わたしとアーサーは、ずっとずーっと一緒にいるからね。絶対に離れないよ。おばあちゃん、おじいちゃんになるまで、仲良くするって約束する。あなたたちの分まで、しあわせになるって約束する」
彼女の一言に、アーサーはぽろりと涙を流した。そして、妹を抱きしめる。
「ああ、なんだか、血を飲まなきゃいけない自分がきらいじゃなくなった。ありがとう、モニカ」
「全部ばらばらになっちゃって上手に口まで運べないよぉ」
先ほどまであんなにかわいい見た目をしていたガレットだが、双子によってナイフを入れられたそれは、今や悲惨なものになっていた。具材がしっかり生地に包まれているわけではないので、口に運んでいる間にボトボト落ちてしまう。
試行錯誤した結果、双子は手でガレットを掴み、生地を半分に折って食べることにした。
「おいしかったけど、食べ方を考えるのに頭を使って、もっとおなかすいちゃったよー!」
ガレット一枚では空腹が満たされなかったのか、モニカがメニューを手に取った。
「アーサー、他にも食べる?」
「うん! 肉の腸詰が食べたい! あと、パンに……あれっ、バナナがない……」
「バナナはあとで、果物屋さんを探しましょ。わたしはサラダが食べたいな!」
それからも双子は、満腹になるまで追加で注文した。最後にクレープを頼み、ぺろりと平らげる。結局、全メニューを制覇してしまった。
「ふーっ! おなかいっぱい!」
モニカが満足げにおなかをぽんぽんと叩く。
一方アーサーは、無意識に妹をじーっと見ていた。その目には、物足りなさがありありと浮かんでいた。その視線に気付いたモニカは優しい顔つきになる。
「ごはん食べたら飲ませてあげるから。もう少し我慢してね」
「ふぁっ。え、ぼ、僕、何か言った!?」
慌てたアーサーが裏返った声を出したので、モニカがぷっと噴き出す。
「言った! 口じゃなくて、目でだけどね」
アーサーはカッと顔を赤らめて、妹から顔を背けた。
「どうしてそんな顔するの? 私は気にしてないよ」
「う、うん。でもなんか、ねえ?」
「ねえ? って聞かれても」
モニカはクスクス笑って立ち上がり、店主に代金を支払いに行った。
「小銀貨九十六枚だよぉ」
「わぁー、結構食べたわね」
モニカは代金に驚きながら、金貨一枚をトレーに載せた。所持金が残り約金貨七枚。このままでは、一週間を満足に生活できるかどうかも怪しい。
部屋へ戻ると、早速モニカがベッドに座り、首を傾けて襟を引っ張った。
「アーサー、どうぞ」
「うー、ごめんね、モニカ」
申し訳なさそうに背後に座った兄の頭を、モニカがぺちんと叩く。
「いい加減慣れなさいよ。毎日そんな顔されちゃ、私の方も滅入っちゃうじゃない」
「うぅぅ……いただきます……」
アーサーは、ナイフでモニカの首元に薄い傷をつけた。血が滲むと、ごくりと唾を飲み込み唇を当てる。モニカにできるだけ負担がかからないようにか、長い時間をかけて少量ずつ、アーサーは血を吸った。徐々に彼の空腹が満たされていく。
(モニカの血、おいしい。優しい味。こうやってセルジュ先生も、ミモレスの血を飲んでたのかな)
「なんだか私たち、セルジュ先生とミモレスみたいだね」
「ふぁっ!?」
考えていたことと全く同じことをモニカが言ったので、アーサーは驚いて思わず彼女から口を離した。モニカは気にせず、言葉を続ける。
「聖魔法が使える女の人と、吸血しないと生きていけない、心優しい男の人。正にわたしとアーサーだわ」
「そ、そうだね?」
「ロマンチックね。ミモレスは、生まれ変わってセルジュ先生と結ばれることはできなかったけど。ミモレスの魂を持つ私と、セルジュ先生の魂魄の残滓とひとつになったアーサーが、こうして一緒にいるなんて」
アーサーは、妹にこれ以上ないほど優しい瞳を向けた。
モニカは兄にもたれかかり、手を握る。
「ミモレス。セルジュ先生。わたしとアーサーは、ずっとずーっと一緒にいるからね。絶対に離れないよ。おばあちゃん、おじいちゃんになるまで、仲良くするって約束する。あなたたちの分まで、しあわせになるって約束する」
彼女の一言に、アーサーはぽろりと涙を流した。そして、妹を抱きしめる。
「ああ、なんだか、血を飲まなきゃいけない自分がきらいじゃなくなった。ありがとう、モニカ」
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