487 / 718
画廊編:4人での日々
アーサーの取り合い
しおりを挟む
ポルの部屋へ行ったアーサーは、早々にドレスを脱がされて男の子の姿に戻っていた。朝食を食べたばかりなのに、二人でベッドに潜り込み二度寝を試みる。ポルはアーサーの胸の中で心地よさそうに目を瞑っていたが、一方アーサーはジュリアに兄だと気付かれたのではないかと考えてしまい眠気は一向に訪れなかった。
(うわぁ…。ジュリアにまでバレちゃったらいよいよまずいよ…。ヴィクスに話がいっちゃうかもしれないし、そうなったら国王と王妃の耳にも入るよね…。僕たちが王子と王女と仲良くしてるって知られたらそれこそ殺されちゃう…)
そのとき、ポルの部屋をノックする音が聞こえた。アーサーは頭を持ち上げてドアの方を見る。ゆっくりと開いたドアの隙間から、ウィルクが顔をのぞかせた。
「ウィルク?どうしたの?」
「あっ…。えっと…。少し…お兄さまが恋しくなって…。ポルの部屋へ入っていったと聞いたので、来てしまいました。返事も待たずにドアを開けて申し訳ありません」
「大丈夫だよ。でもポルが寝てるから静かにね」
「え?」
アーサーは指を唇に当てて「シー」と合図をした。そこで兄しか見ていなかったウィルクの視界にポルの姿が映った。アーサーにべったりくっつき、幸せそうに胸に頭をうずめながら寝息を立てている。
「……」
「ウィルク?」
ふくれっ面をしたウィルクがドタドタと足音を立ててベッドまで歩いてきた。横になっているアーサーとポルを見下ろす彼の目は、かつてのワガママウィルクと同じだった。
「おいそこの」
「……」
「おい!!聞いているのか!!」
「ちょ、ちょっとウィルク…。寝てるから静かにって…」
「…なに。うるさ…」
怒鳴り声に目を覚ましたポルが、目をこすりながら声の主を見上げた。それがウィルクだと分かった彼は、顔をしかめてアーサーに抱きついた。
「なんだ、おまえか」
「おまえとはなんだ。誰に向かって口を聞いている」
「ウィルク!どうしたの急に!そんなこと言うのよくないよ!」
「お兄さまもお兄さまです!!なぜこのような薄汚い子どもと抱き合って寝ているのですか!!」
「だ、抱き合って!?言い方が良くないよ!!」
「僕という弟がいるのに!!お兄さまは僕をほったらかしにして、こんな子どもと寝ているなんて!!」
「ポルのことを”こんな子ども”なんて言わないで!!僕にとって大事な子なんだから!!」
「なぁっ…」
ポルを庇うアーサーに、ウィルクは眩暈がした。
(お兄さまが僕よりこの子どもを選んだ。実の弟の僕よりも、赤の他人の子どもをぉぉ…っ)
選ばれたポルは、勝ち誇った顔でニヤァと笑った。
「へへ。アーサーは俺のものだからな。横取りするな」
「お兄さまは僕のものだ!!うぬぼれるな!!」
「わぁー…」
これはえらいことになったぞ、とアーサーは顔を青くした。はじめは年上のウィルクに引いてもらおうと説得していたが、兄を取られてしまうと不安になったウィルクが大人になれるはずがなく失敗に終わった。
インコを取り出しかねないと思い、今度はポルを説得しようとした。今では世界で一番だいすきなアーサーを手放せるわけがなく、これも失敗した。
ウィルクとポルはアーサーを挟んで激しい言い争いをした。すべてを諦めたアーサーは、彼らの間で菩薩のような顔をして遠い場所を眺めていた。
「だから離れろと言っているんだ!!平民風情が僕のものに手を出すな!!」
「アーサーは俺のものだっていてるだろ!!弟だからっていつまでも兄ちゃんにくっついてんじゃねえよ!!俺より年上のくせにみっともない!!」
「ちょっと待ちなさーーーーい!!!」
騒ぎを聞きつけたのか、モニカがぷんぷんしながらドアを乱暴に開けた。叱られると思ったウィルクとポルは、ヒッと恐怖の声を漏らしてアーサーにしがみついた。モニカを怒らせたら怖いことは、ウィルクもポルも充分知っていた。
予想通り、モニカは氷魔法を纏っていた。カツカツと部屋へ入り、ウィルクとポルの頭をペチペチとはたいた。二人をベッドから追い払い、頬を膨らませながらアーサーを抱き寄せてこう叫ぶ。
「アーサーは私のものだもん!!!」
「えええー!?」
「どうしてアーサーが驚いてるのよ!!」
「いや!!ここは二人のケンカをやめさせてそれで終わりでいいでしょ!?どうしてケンカに参加しちゃうの!?」
「だって二人がおかしなことを言ってるから!!」
「おかしなことではありませんお姉さま!!確かにお兄さまはお姉さまのものでもありますが、次に僕のものなんです!!」
「なに言ってるんだ。アーサーはモニカでもウィリーのものでもない。俺のものだしここは俺の部屋なんだぞ!早くここから出て行けよぉっ」
「ちがうわ!!アーサーは私だけのものだもんー!!」
アーサーは寝ることにした。目が覚めたらきっとケンカもおさまって仲直りしてるだろう。僕はどこでも眠れるのが特技なんだ。例え僕のまわりで僕を取り合ってる子たちが3人暴れまわってたって、きっと眠れる。そう考えながらそっと目を瞑った。
一方アーサー大好きっこたちは壮絶な戦いを繰り広げていた。勇敢にもポルがモニカをポカポカと殴ったが、合宿で体を鍛えられたモニカには1ミリもダメージが通らない。
姉を殴られ、ウィルクが怒ってポルの頬に平手打ちを食らわせた。「いってえな!!」と叫びながらポルがウィルクの股間を蹴り上げる。ウィルクはしばらく床に倒れこんでヒクヒク痙攣をしていた。
モニカだって容赦なしだ。ウィルクとポルがアーサーに手を伸ばそうものなら、腕をひねりあげられてギブアップするまで離してくれなかった。
(うわぁ…。ジュリアにまでバレちゃったらいよいよまずいよ…。ヴィクスに話がいっちゃうかもしれないし、そうなったら国王と王妃の耳にも入るよね…。僕たちが王子と王女と仲良くしてるって知られたらそれこそ殺されちゃう…)
そのとき、ポルの部屋をノックする音が聞こえた。アーサーは頭を持ち上げてドアの方を見る。ゆっくりと開いたドアの隙間から、ウィルクが顔をのぞかせた。
「ウィルク?どうしたの?」
「あっ…。えっと…。少し…お兄さまが恋しくなって…。ポルの部屋へ入っていったと聞いたので、来てしまいました。返事も待たずにドアを開けて申し訳ありません」
「大丈夫だよ。でもポルが寝てるから静かにね」
「え?」
アーサーは指を唇に当てて「シー」と合図をした。そこで兄しか見ていなかったウィルクの視界にポルの姿が映った。アーサーにべったりくっつき、幸せそうに胸に頭をうずめながら寝息を立てている。
「……」
「ウィルク?」
ふくれっ面をしたウィルクがドタドタと足音を立ててベッドまで歩いてきた。横になっているアーサーとポルを見下ろす彼の目は、かつてのワガママウィルクと同じだった。
「おいそこの」
「……」
「おい!!聞いているのか!!」
「ちょ、ちょっとウィルク…。寝てるから静かにって…」
「…なに。うるさ…」
怒鳴り声に目を覚ましたポルが、目をこすりながら声の主を見上げた。それがウィルクだと分かった彼は、顔をしかめてアーサーに抱きついた。
「なんだ、おまえか」
「おまえとはなんだ。誰に向かって口を聞いている」
「ウィルク!どうしたの急に!そんなこと言うのよくないよ!」
「お兄さまもお兄さまです!!なぜこのような薄汚い子どもと抱き合って寝ているのですか!!」
「だ、抱き合って!?言い方が良くないよ!!」
「僕という弟がいるのに!!お兄さまは僕をほったらかしにして、こんな子どもと寝ているなんて!!」
「ポルのことを”こんな子ども”なんて言わないで!!僕にとって大事な子なんだから!!」
「なぁっ…」
ポルを庇うアーサーに、ウィルクは眩暈がした。
(お兄さまが僕よりこの子どもを選んだ。実の弟の僕よりも、赤の他人の子どもをぉぉ…っ)
選ばれたポルは、勝ち誇った顔でニヤァと笑った。
「へへ。アーサーは俺のものだからな。横取りするな」
「お兄さまは僕のものだ!!うぬぼれるな!!」
「わぁー…」
これはえらいことになったぞ、とアーサーは顔を青くした。はじめは年上のウィルクに引いてもらおうと説得していたが、兄を取られてしまうと不安になったウィルクが大人になれるはずがなく失敗に終わった。
インコを取り出しかねないと思い、今度はポルを説得しようとした。今では世界で一番だいすきなアーサーを手放せるわけがなく、これも失敗した。
ウィルクとポルはアーサーを挟んで激しい言い争いをした。すべてを諦めたアーサーは、彼らの間で菩薩のような顔をして遠い場所を眺めていた。
「だから離れろと言っているんだ!!平民風情が僕のものに手を出すな!!」
「アーサーは俺のものだっていてるだろ!!弟だからっていつまでも兄ちゃんにくっついてんじゃねえよ!!俺より年上のくせにみっともない!!」
「ちょっと待ちなさーーーーい!!!」
騒ぎを聞きつけたのか、モニカがぷんぷんしながらドアを乱暴に開けた。叱られると思ったウィルクとポルは、ヒッと恐怖の声を漏らしてアーサーにしがみついた。モニカを怒らせたら怖いことは、ウィルクもポルも充分知っていた。
予想通り、モニカは氷魔法を纏っていた。カツカツと部屋へ入り、ウィルクとポルの頭をペチペチとはたいた。二人をベッドから追い払い、頬を膨らませながらアーサーを抱き寄せてこう叫ぶ。
「アーサーは私のものだもん!!!」
「えええー!?」
「どうしてアーサーが驚いてるのよ!!」
「いや!!ここは二人のケンカをやめさせてそれで終わりでいいでしょ!?どうしてケンカに参加しちゃうの!?」
「だって二人がおかしなことを言ってるから!!」
「おかしなことではありませんお姉さま!!確かにお兄さまはお姉さまのものでもありますが、次に僕のものなんです!!」
「なに言ってるんだ。アーサーはモニカでもウィリーのものでもない。俺のものだしここは俺の部屋なんだぞ!早くここから出て行けよぉっ」
「ちがうわ!!アーサーは私だけのものだもんー!!」
アーサーは寝ることにした。目が覚めたらきっとケンカもおさまって仲直りしてるだろう。僕はどこでも眠れるのが特技なんだ。例え僕のまわりで僕を取り合ってる子たちが3人暴れまわってたって、きっと眠れる。そう考えながらそっと目を瞑った。
一方アーサー大好きっこたちは壮絶な戦いを繰り広げていた。勇敢にもポルがモニカをポカポカと殴ったが、合宿で体を鍛えられたモニカには1ミリもダメージが通らない。
姉を殴られ、ウィルクが怒ってポルの頬に平手打ちを食らわせた。「いってえな!!」と叫びながらポルがウィルクの股間を蹴り上げる。ウィルクはしばらく床に倒れこんでヒクヒク痙攣をしていた。
モニカだって容赦なしだ。ウィルクとポルがアーサーに手を伸ばそうものなら、腕をひねりあげられてギブアップするまで離してくれなかった。
11
お気に入りに追加
4,353
あなたにおすすめの小説
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。