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画廊編:再会

花言葉

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「リーノ、アーサー、モニカ!見てこのドレス!ジッピンのドレスよ!とっても素敵じゃない?どれが私に似合うと思う?」

色とりどりの華やかなキモノにオリバ夫人は大喜びしていた。どれも素敵で一人では決められないらしく、子どもたちに選んでもらおうと思ったようだ。

「リーノ聞いて。あなたのお父さんにどれが似合うと思う?って聞いたら、どれも似合うから選べないって言うのよ!全部買うかい?って聞かれたんだけれど、ドレスはとっておきを1着選ぶから良いのにねえ!ねえ、そう思わない?」

オリバ夫人はおしゃべりだ。リーノに話しかけているはずなのに、口を挟むすきがないほどずっと一人で話している。いつものことなのかリーノはニコニコ笑いながら夫人の言葉を聞いているふりをしていた。夫人が「あーんどれにしましょうか~!」とまたキモノに目を移すと、リーノが双子にこっそり耳打ちする。

「たぶんキモノを選ぶのにあと1時間かかるぞ」

リーノの予想は的中した。子どもたちが「これがいいんじゃない?」と選んでも、「いいわねえ~!でもこれもいいのよねえ~。あとこれも、これも、これもいいのよぉ~」と一着も絞ることができない。その問答を何度も何度も重ね、げんなりした男爵と子どもたちに助けを求められたカユボティが決着をつけた。

「オリバ夫人。ドレスは髪と瞳の色で選ぶのが良いですよ。あなたによく映える色は赤ですね。赤色のドレスが似合うとよく言われませんか?」

「あら。ええ、そう言われると、そうですわね」

「この中から1着を選ばなければいけないのなら、一番あなたを引き立たせるキモノにしなければ。なので赤色のキモノにしてはいかがですか?」

「うーん…。そうね!そうするわ。せっかくなら一番似合うものがいいですもの」

「赤いキモノは2着ですね。どちらも花の模様が描かれています。ひとつは椿。「気取らない優美さ」という花言葉をもつジッピンの花です。それに椿は魔よけの力を持つといわれています。もうひとつは菖蒲。「希望」の花言葉をもち、長寿を願うきもちが込められています。どちらがお好みでしょうか?」

「まあ!どちらも素敵ね。どちらも素敵だけれど…菖蒲はこちらの国でもある花だから、せっかくならジッピンの花であるツバキの模様がいいわ」

「実は私もそう思っておりました。気取らない優美さ…あなたにぴったりですから」

「ふふ!じゃあ決まりね。こちらを1着くださいな」

「かしこまりました」

カユボティのおかげでサクッと着物が決まり、伯爵と子どもたちは安堵のため息を漏らした。ヴァジーはキモノを包んでいるカユボティのそばにより、小声でぶつくさ文句を言う。

「まったく。どうしてもっと早くあれを言わなかったんだい。そうしたら1時間もかからなかったのに」

「悪いね。できたらご自身で選んでいただきたかったし、嘘はつきたくなかったからさ」

「…おい。まさか君。さっきのウンチクはやはり…」

「口からでまかせだよ。そもそも彼女に一番赤が似合うかどうかも分からない。2着あった赤いキモノを選んでいただくために言っただけだし」

「そんなことだろうと思った。彼女の髪と瞳に合う色は深緑だ。赤も似合うだろうが…」

「私は異国の花言葉なんて知らないし、キモノになぜその模様が使われているかも知らない。君が知らないことをどうして私が知っているんだい。私はただ、彼女が好みそうな言葉を並べただけだよ」

「そういうことか…。そうだな、本当に知っていたら君ははじめからその説明をしているはずだ」

「伯爵と子どもたちが泣きそうな顔をしていたのでね…」

「まあ、オリバ夫人がお気に召したのならそれで良いとしよう…。またはじめから選び直しなんて勘弁だ」

きれいな紙に包まれたキモノを、オリバ夫人は大切に抱きしめた。この日オリバ家が購入した商品は、ウキヨエ5点、簪5本、キモノ1着。計白金貨32枚と金貨5枚だったところを、カユボティが白金貨32枚にサービスしていた。アーサーとモニカは購入されたウキヨエを馬車に積み込む手伝いをして、屋敷に帰っていくオリバ家を見送った。リーノは窓から身を乗り出し、見えなくなるまで彼らに手を振っていた。

カユボティが適当に作った花言葉をおおいに気に入ったオリバ夫人は、舞踏会で、お茶会で、時にはすれ違った町民に、着ているドレスに描かれた花のウンチクを言って回った。やがてその美しい花言葉が話題になり、大衆向けの雑誌に載り、小説に使われ、花言葉一覧の書籍にまで記載されてしまった。こうしてツバキは本当に"気取らない優美さ"の意味を持つようになり、長年そのことを気にしていたカユボティはこっそり胸を撫でおろしたという。
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