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画廊編:王女と王子のわるだくみ

ルアンからの伝書インコ

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バンスティンで住まう貴族の子どもたちが教育を受ける場所、オヴェルニー学院。オーヴェルニュ家が創立した教育機関であり、カトリナの父が理事長を務めているその学院は、今ではアーサーとモニカにとっても縁深いところになっていた。というのも彼らが14歳の頃、カミーユから指定依頼を受けて潜入捜査をおこない、見事吸血鬼事件に終止符を打ったからだ。

1年経った今でも、アーサーとモニカはヒーローとして、またアイドルとして生徒たちの記憶に深く刻まれていた。双子と面識がない新入生でさえ、「アーサーとモニカという絶世の美男美女の兄妹が1年前に学院の危機を救ったらしい」「なんでも彼らは寮対抗戦で熱烈な口づけを交わしたとか」などというやや尾ひれのついた噂話を一度は耳にしたことがあるほどだった。

半年前に双子とともにカミーユとの合宿を受けたライラ、シリル、クラリッサもオヴェルニー学院の在学生だ。彼らは合宿後オヴェルニー学院へ戻り、見違えるほど成長した戦闘能力で先生や生徒を驚かせた。彼らの1か月休暇の理由は理事長だけが知る秘密だったので、先生・生徒間でさまざまな噂が立っていた。

そしてなにより、オヴェルニー学院には双子が愛してやまない実の妹と弟…つまり王子と王女も在籍している。王子であるウィルク王子は、吸血鬼事件のときに双子の正体を知り、今では彼らを心から慕っている。ジュリア王女も実は彼らの正体を知っているが、アーサーとモニカ、ウィルクでさえ、ジュリアが勘付いていることに気付いていない。

そんなオヴェルニー学院に一羽の伝書インコが舞い降りる。それは学院の副校長、ビアンナ先生の肩にちょんと止まった。

「あら。私宛かしら。…冒険者ギルドのマーク…。まさか」

《ビアンナセンセイ! オゲンキデスカ! アーサート モニカ デス!! オシラセアリマス!! オテガミ ヨンデクダサイ!》

「やっぱり!アーサーとモニカから知らせ…?なんでしょう、悪いことじゃないといいのですが…」

伝言を聞き、ビアンナ先生はインコにかけられた小さいアイテムボックスを手に取った。中には懐かしいアーサーとモニカの字でびっしり埋まった手紙が1枚入っている。

-----------------------

ビアンナ先生へ

お元気ですか?
この前はウィルクとジュリアに贈り物を届けてくださってありがとうございます。

今回もお願いがあってお手紙を書きました!
実は、僕たちの画廊がルアンにできました。
遠い異国、ジッピンの芸術品や雑貨を並べてます。

もしよければ、オヴェルニー学院の生徒に「よかったら遊びにきてね」って伝えていただけませんか?

ジッピンの芸術品も、画廊もとっても素敵なので、みんなに見に来てほしくって!

住所と画廊の名前を書いておきますね。
グサンヴィーレ地区 ルアン ミシュィン通り 563-2
画廊"夢見"

追伸:
僕たちは来月いっぱい"夢見"で売り子をしています!
みんな授業があるから来られないだろうけど…
売り子、がんばります!!

-----------------------

「…またこの方たちは突拍子もないことを…」

手紙を呼んだビアンナ先生は苦笑いをして手紙をもう一度読み返した。

「ルアンで画廊。…ルアンのような都市によく店を持てましたね。バンスティンで最も文化的で美しいと言われているあの町に…。それに、異国ジッピン?ジッピンは確か船で何週間もかかるほどの異国ですし、閉鎖的な国なので限られた異国人しか入国できないはず。どのような手を使って入国したんでしょうか。その上芸術品を持ち帰っていますし…。はあ、彼らは私でははかりしれません。考えるのはやめましょう」

そうしているうちに学院のベルが鳴る。このベルで生徒たちは起き出して身支度を整える。きっと今頃寝ぐせのついた頭で、目を擦りながら談話室に降りてきているだろう。ビアンナ先生は立ち上がり、寮長をつとめているリリー寮へ足を運んだ。

「あー!!ビアンナ先生だ!おはようございまーす!!」

「おはようマーサ」

「おはようございますビアンナ先生!どうしたんですかこんな朝早くにー!」

「おはようグレンダ。リリー寮の生徒にお話が」

リリー寮談話室に入ってきたビアンナ先生に挨拶をしたのはマーサとグレンダだ。最年長の5年となった彼女たちは、去年に比べてぐっと大人びた。特にグレンダは大人でも振り返ってしまうほど美人になり、学院内で2番目に綺麗なおんなのことして有名だ(ちなみに1番はジュリア王女)。二人ともアーサーと仲が良かった…というよりアーサーのことが好きで追いかけ回していた。マーサは他に好きな人ができたのか、双子が学院を去ってからそんなに騒いでいなかったが、グレンダは今でもアーサーに未練タラタラだった。アーサーにフラれたことがあるので諦めようとしていたが、なかなかアーサー以上に好きになれる人が見つからないらしい。

ビアンナ先生が手持ちのベルを鳴らすと、まだ寝室にいた生徒や洗面所にいた生徒が集まってきた。その中にはライラやジュリア王女、ウィルク王子もいた。

「せ、先生。おはようございます」

「おはようライラ」

「あら、どうかされましたか先生」

「おはようございますジュリア王女。少しお話がございますので、おかけになってください」

「分かったわ」

「話?話とはなんですか先生」

「おはようございますウィルク王子。あなたたちの大好きな人に関するお話なので、どうかみんなが集まるまでお待ちください」

「!!!」

"大好きな人"と聞き、ジュリアとウィルクは目を見合わせた。すでに彼らの目が期待に膨らみキラキラしている。二人はソファに並んで腰を下ろし、そわそわとリリー寮生徒が集まるのを待った。
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