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イベントストーリー:太陽が昇らない日

太陽が昇らない日

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時は戻り最終週3日目の朝、7時を知らせるベルが遠く離れた町から微かに聞こえてきた。アーサーは欠伸をしながらむくりと起き上がり、隣で眠っている妹の肩を揺らす。モニカは不機嫌そうに呻き、兄の腕にぎゅーっとしがみついてまた寝息をたて始めた。あ、これはなかなか起きてくれないやつだと悟ったアーサーはアイテムボックスから火魔法液を取り出し、しっかりと握りモニカの頬をむぎゅっとひねった。

「モニカー。朝だよー」

「ん"っ…」

「昨日の特訓疲れたもんね。でも今日も特訓があるんだよー。だから起きてモニカ。寝坊したらカミーユに怒られちゃうよ」

「ん"ん"っ」

「ただでさえ僕たちいつもみんなより遅いのに、これ以上お寝坊したら笑われちゃうよ」

何度起こしてもモニカはぐずるだけだった。腕にしがみつかれているのでベッドから出ることもできない。アーサーは困って小さなため息をついた。

「困ったなあ。これは昼過ぎまで寝ちゃうときのモニカだ」

「おーーーーい!!!起きろおまえらぁぁぁっ」

アーサーが半ば諦めてボーっとしていたところに、リアーナの大声とドアを激しくノックする音が部屋に鳴り響いた。騒音に驚いたモニカはビクリと起き上がりアーサーに抱きついた。

「え?!なに?!なんの音?!」

「リアーナが起こしにきたんだよ。このお寝坊さん」

「えっ、今何時?!」

「7時15分」

「きゃ!遅刻しちゃうじゃない!どうして起こしてくれなかったのぉ?!」

「起こしてたよ。15分間」

双子がそんな会話をしていると、リアーナが返事を待たずにドアを開けた。いつもと装いが違い、黒い服の上にマントを羽織っている。寝衣のままベッドの上で座っている双子を見て、ニカっと笑いずかずかと中に入ってきた。

「かーーー!!今まで寝てたのかぁ?!相変わらず朝に弱いなあおまえらは!!」

「リアーナ、どうしたの?今日はいつもと服が違うね」

「おう!!今日は10年に1度の特別な日だからな!!」

「特別な日?」

部屋の中へ入ったリアーナは、こくんと頷きカーテンを勢いよく開けた。外は真っ暗で、朝なのに太陽が昇っていない。モニカはじろっとアーサーを睨んだ。

「アーサー、リアーナも。まだ夜じゃない。なあんだ、だから眠いんだわ。せっかく気持ち良く寝てたのに起こさないでよ。じゃあ、おやすみなさい」

文句を言いたいだけ言ってからモニカはまたベッドに潜り込んだ。アーサーは困惑して時計を確認する。やはり短針が7時を指している。

「あれ?ど、どうして?今って朝の7時だよね?」

「おう!!朝の7時だ!!だからモニカ起きろぉ!!」

「嘘つかないでよ…だってこんなに真っ暗じゃない…」

「今日はそういう日なんだよ!!太陽が昇らない日!!今日は一日中夜だ!!」

「そんな日あるわけないじゃない…」

「僕も知らないなあ…」

「そりゃ、10年前って言ったらお前らまだ外に出たことなかったからな」

「あっ…」

リアーナが言いづらそうにモゴモゴと呟いた。前回の太陽が昇らない日は約10年前にあったそうだ。双子はそのときまだ5歳。地下の牢獄で過ごしていた。知らないで当然なのだ。アーサーとモニカもそれに気付き黙り込んでしまった。

気まずい雰囲気に耐えられず、リアーナは二人の首根っこを掴んでサロンへ連れて行った。そこにはすでに、S級とC級冒険者がリアーナと同じ格好をしていた。彼らは起きてきた貴族生徒たちに特別な服を着せたり化粧を施している。双子が入ってきたことに気付いたカトリナはニッコリ笑って手招きした。

「おはよう、アーサー、モニカ。今クラリッサのお化粧をしているからちょっと待っててねェ」

「…?」

「あの、リアーナ。これは…?」

「この国には"太陽が昇らない日"にまつわる逸話があってな!数百年前、太陽が昇らない日に魔物が大量発生したんだ!そんときの王子が魔物のドンにお菓子を詰めた袋を渡して、"これをあげるから民を傷つけないでください"ってお願いしたんだと!魔物はお菓子を気に入って、下っ端と一緒に巣に帰っていったらしい!!」

「へぇ~!!」

「それからバンスティン国は、"太陽が昇らない日"に子どもが魔物に仮装して、大人はそいつらにお菓子を配るっている行事をするようになった!!」

「かわいいイベントだね!!」

「おう!!だから今日は特訓は休みだ!!一番近い町に行ってイベントを楽しめ!!」

「きゃーーー!!」

「わーーー!!たのしみー!!!」

面白そうなイベントに双子は目をキラキラさせた。すでに仮装ができているダフ、シリル、ライラは3人で楽し気に話をしている。ダフは顔を深緑色に塗り、顔中縫い目だらけの怪物に仮装している。シリルは使い古しの包帯を体中に巻きマミーの仮装をしていた。ライラは敢えて髪をボサボサにセットして、青白く肌を化粧している。どうやら魔女の仮装をしているようだった。

「はい。じゃあアーサーの番よォ。仮装したい魔物はいるかしらァ?」

クラリッサ(目元に濃いアイラインを引き、真っ赤な口紅を塗っている。淫魔(♀)の仮装らしい)の化粧を終えたカトリナがわくわくした様子でアーサーに尋ねた。アーサーはもじもじしながら、照れくさそうに答える。

「き、吸血鬼になりたい…」

「あらァ!!いいわねいいわねェ~!!どんな外見がいいとかあるかしらァ?」

「えっと、眼鏡かけたい…」

「まあまあ!!すごくいいじゃないのォー!!あとはなにかあるかしら?」

「白衣を着たい…」

「アーサー!!あなた分かってるじゃないのォ!!なあにそれっ!どこでそんな知識仕入れたのォ?!」

「知識…?いや、僕の大好きな吸血鬼の恰好を真似しようと思って…」

「ふふ。フィール侯爵のことねェ。いいわよアーサー。私、フィール侯爵の肖像画を見たことがあるから、忠実に再現できると思うわァ」

「ほんと?やったぁ!」

「任せてちょうだい!ん~腕が鳴るわァ!!」

「えー!アーサーセルジュ先生の仮装をするの?じゃあ私、ロイの仮装したいなー」

「いいね!!二人で吸血鬼に仮装しようモニカ~!」

貴族生徒に聞こえないようにそんな会話をして、双子は吸血鬼の仮装をした。貴族生徒は双子の仮装にどこか既視感を覚えたが、彼らの仮装が誰を真似ているかはっきりと分かったのはライラだけだった。
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