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合宿編:北部のS級冒険者

たまげるクルドパーティ

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5分間の手合わせが終了したとき、アーサーとライラは地面にはりつけにされていた。二人とも服を矢で刺して動きを封じたくらいではギブアップをしてくれず、服を引きちぎってサンプソンに攻撃してきたので最終的には両手のひらに深く矢を刺されて行動不能にされていた。それでもアーサーとライラは足をばたつかせながら地面深くに刺さった矢を引き抜こうとするので、サンプソンは思わず「はやく終了の合図をしてくれる?!」とブルギーに叫んでいた。

手合わせを終えパーティの元へ戻って来たサンプソンは、いつものおっとりした笑みが消え眉間にしわを寄せて大きなため息をついていた。明らかに動揺している彼に、心なしかカミーユパーティがニヤニヤしているように見えた。

「おつかれさん、サンプソン。俺らのかわいい生徒の手のひらに矢を思いっきりぶち込むなんてなあ」

「よく言うよ!なんだいあの痛み耐性は!!信じられない!!」

「あらあらァ。声を荒げるなんてあなたらしくないわァ」

「手加減するんじゃなかったの?」

「してたよ!でも妙にしぶといし下手に手を抜けないくらい筋が良くてさ!!なんだあの子たちほんとに…!ライラはA級アーチャーだから分かるけど、アーサーはまだE級冒険者なんでしょ?あんなのがE級だって?!A級の間違いだろう!」

「ぎゃはは!!びっくりした?!びっくりしたー?!」

カミーユパーティがこぞってサンプソンの周りに集まり話しかけた。サンプソンだけでなく他のクルドパーティも先ほどの手合わせを見て腰を抜かしたようで口をあんぐり開けて治療を受けているライラとアーサーを見ていた。

「…こりゃ、たまげた」

「あの子たちすごいね~!真っ赤な血をたくさん流してるのに平気な顔してるよブルギー!それに見て~!二人ともとってもきれいな血の色だよ~!!」

「うん、ミントお前は少し黙ってような~」

「私も回復しにいっていい~?!」

「おう行ってやれー。その前にマデリア、ミントに沈黙魔法かけといてくれるか?」

「はいはい」

いつものことなのか、ミントはみずからマデリアの傍に立ち沈黙魔法を受けた。声が出なくなったことを確認してからアーサーとライラの元へ行き嬉しそうに回復魔法をかけている。回復してもらっている間、アーサーはなぜミントがふさがっていく傷口を食い入るように見つめながら鼻息を荒くしているのかよく分からなかった。

一方マデリアは口元を指でトントン叩きながらカミーユに尋ねていた。

「ふうん。カミーユたちが弟子にした理由が分かったわ。他の子たちもあのレベル?」

「そうだな。あいつらは特に筋がいいが、他のやつらもすげえぜ」

「へえ。それは楽しみ。ブルギー、次は私がいい」

アーサーとライラの手合わせを見て俄然やる気が出たのか、マデリアが杖を取り出し前へ出た。モニカにチッチッチと舌を鳴らしながら手招きする。

「モニカ、おいで。手合わせしましょう」

「は、はい!よろしくおねがいします!」

モニカがトコトコとマデリアの傍へ駆け寄るところを横目に、またカミーユパーティがニヤニヤする。その様子にブルギーが小さな声で尋ねた。

「カミーユ。モニカも筋がいいのか?」

「筋が良い?さあどうだろうなあ」

「どうだろうなー!!ふひひっ!!」

「なんだその笑いは。リアーナがそんなに嬉しそうってことはよっぽど筋がいいんだな」

「さあなー!!あたししーらねっ!!たはー!!」

「外野がうるさいわね。モニカ、始めましょう」

「はい!!」

元気いっぱいに返事をするモニカに口元を緩めながら、マデリアが杖を構えた。

「じゃあまずは攻撃魔法を打ってみてくれる?」

「はい!!」

「ふふ。元気な返事。かわいらしい」

「いきます!」

「はいどうぞ」

モニカは深呼吸をしてから歌を口ずさんだ。楽し気に歌いながら杖を振ると、マデリアが大きな炎に包まれる。

「?!」

「?!?!」

15歳の女の子が放つレベルではない炎にクルドパーティは目玉が出るほど驚いた。マデリアが慌てて反属性魔法で打ち消したが、モニカの魔法はそれだけでは終わらない。間髪入れずに鋭い風魔法、地鳴りがするほどの落雷、洪水レベルの水魔法が次々と放たれる。マデリアは楽々と打ち消していたが、言葉を失いぽかんとモニカを眺めている。

「…え?あなた全属性魔法この威力で使えるの?」

「あ、はい!土魔法はちょっと苦手だけど…」

「すごいわね…。でもこちらからの魔法は打ち消せる?」

マデリアが試しに数々の攻撃魔法をモニカに放った。モニカはそれを怪我ひとつ負わず打ち消してみせる。

「へ、へえ。さすがリアーナに教わってるだけあるわね。判断も早い。…でもリアーナとの特訓じゃこれは味わったことないんじゃない?」

そう言いながらマデリアがモニカに向けて杖を振った。その瞬間、モニカの目の前が真っ暗になった。

「え…?」

「暗闇、こわいでしょ?」

「な、なにも見えない…」

「じゃあ次は声を奪ってあげる」

「…っ、…っ!」

「お、おいマデリア。やりすぎだぞ…」

本気を出し始めてしまったマデリアに思わずブルギーが口を挟んだ。それと同時にリアーナがモニカに叫んでいた。

「モニカ!それただの状態異常だから!!回復魔法!!」

「っ!!」

「回復魔法?これほど強力な攻撃魔法を使えるのに私の状態異常を打ち消せるほどの回復魔法なんて使えるわけ…」

「ぷはー!!びっくりしたーーー!!!」

「?!?!」

「?!?!?!」

リアーナのアドバイスを受けてからたった数秒で沈黙と暗闇を破ったモニカにクルドパーティは顎が外れそうなほど口を開けて間抜けな表情を浮かべていた。我慢できずにカミーユたちが肩を震わせ吹き出している。

「マデリアの状態異常を…数秒で回復しただって…?!」

「まさかありえない…。マデリアが手を抜いてたとしても…そもそも状態異常回復ができる魔法使いなんてそうそういない…」

「モニカ…あなた面白いわね…。こんな軽々私の状態異常を破っちゃうなんて。状態異常回復魔法が使えるの?」

「えっと、回復魔法が使えます!ケガと、状態異常回復するやつ!!」

「…え?」

「まさか嘘だろ」

「攻撃魔法、回復魔法、状態異常回復魔法が得意な魔法使いだって?」

「そんな魔法使い、聖女かエルフにしかいないと思ってた~…」

「…モニカ、状態異常魔法は使えるの?」

「毒魔法は得意です!あと最近睡眠魔法を覚えました!」

「毒、一度私にかけてくれる?」

「えーっと、どのくらいの強さがいいですか?ダフレベル、モニカレベル、カミーユレベル、アーサーレベルからお選びいただけます…」

「ふふ、なあにそれ。よく分からないけど一番強いやつでいいわよ」

「わ、分かりました…。じゃあアーサーレベルで行きますね」

モニカは心配そうに歌いながら杖を振った。毒魔法をかけられたマデリアは口から血を流したが、表情を変えず自分に杖を向ける。すぐさま状態異常回復魔法をかけたようだった。彼女は血を垂らしたままモニカを見た。

「……」

「あ、えっと、だめでしたか…?」

「……」

「マデリアさん…?」

マデリアは返事をせずリアーナに視線を送った。目が合ったリアーナはニヤニヤしていたが、マデリアの表情が予想以上に狼狽えていたので少し戸惑った。

「マデリア?なんだよその顔」

「…なんでもない。モニカありがとう。すべて素晴らしい魔法だったわ」

「は、はい!!ありがとうございました!!」

モニカはペコっと頭を下げてアーサーの隣へ戻った。手を繋ぎ笑い合いながら話している二人を、マデリアだけでなく他のクルドパーティも呆然と眺めていた。
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