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合宿編:四週目・王様ゲーム
そんな"王様"どこにいる?
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「ちょっと待ておまえらぁっ!役職は説明終わってからだ落ち着け!!」
「はっ!」
モニカの一言でやる気まんまんになった生徒たちをカミーユがなだめた。彼らは我に返り少し顔を赤らめながら大人しくなる。カミーユは落ち着いた彼らに説明を再開した。
「ふたつめのペナルティ。それは"王様"がルール違反をしたときに科せられる。ペナルティを受けるのは"兵士"だけ。"王様"にはなにもペナルティはない」
「どうして?」
「王様の尻ぬぐいは手下の仕事だからだ」
「……」
その一言でまたアーサーの頭の上にクエスチョンマークがひとつ増えた。それに気付かずカミーユは言葉を続ける。
「さて。これで説明は終わった。今から役職を決める。本当はクジで決めるんだが…。今回の特訓ではあらかじめきめてある。まず俺たちのー…」
「ねえカミーユ」
「お?」
説明の途中でアーサーが小さく手を挙げた。何度考えても分からない、という顔だ。
「どうしたアーサー?」
「やっぱりおかしいよ、このルール」
「どこがだ?」
「"王様"がなにもしちゃいけないっていうの。おかしい。自分のために戦ってくれてる人を助けない王様なんているのかなあ」
「ほー。なるほど?」
「ただ座ってるだけって、王様はなんのためにいるの?みんなを守るのが王様じゃないの?」
アーサーの純粋な質問に生徒たちは俯いた。"王様ゲーム"のルールを聞き、4人の生徒は早々にこれが現国王を風刺したゲームだと気付いていた。
(アーサー、なにも気付いていないのかしら?それとも嫌味?いえ、あの目は嫌味を言っているようにはとても…)
(アーサー…。君、ウィルク王子の所業を忘れたの…?今ではすっかり大人しくなったけど、あれが王族の本質だ…。君はそれを目の当たりにしてるのに…)
(ははっ。そんな国王であればこの国はもっと美しい国になっているぞアーサー)
(わ、私の家は王族を代々守ってきたわ。だから私もこの身を王族に捧げるつもり。でも…ときどきどうしようもなくやるせなくなるの。私が守るものはほんとうにあの方たちでいいのかって…。…もしアーサーみたいな考えを王族が持っていたなら…わ、私はこんな気持ちにはならなかったかもしれない…)
カミーユはすぅっと息を吸い、ゆっくり吐いた。さきほどから妙に静かだったアーサーは、ずっとこのルールに疑問を覚えていたのかと気付く。
「クックック…」
「?どうして笑うのさカミーユ」
「ああ、悪い。お前に言うのは気が引けるが、そんな王様、この国のどこにいるんだ?」
「……」
「…なんなら、お前が変えてみるか?」
「え?」
「ちょ…」
「なんでもねえよ。悪いなアーサー。これはそういうルールのゲームなんだよ。今回は我慢して付き合ってくれ。そしたらお前はきっと、もっとこのゲームがきらいになるぜ」
◇◇◇
《おぉぉぉい!なに言ってんだカミーユ!!おまっ!貴族の前でそんなこと!!このゲームだけでもやばいのに!!おまっ、おまぁぁぁ!!》
珍しくリアーナが狼狽えている。S級冒険者にしか聞こえない声量に必死に抑えつつ騒ぎ立てていた。
《うるせぇーっ。大丈夫だよ気にすんなって!おまえだってあいつらの顔見ただろ。アーサーの言ったことを聞いたときの顔。あれは王族を良く思ってない顔だった。ライラでさえ渋い顔してたぜ》
《そうねェ。あれは良い反応だったわァ。アーサーお手柄ね》
《アーサーが王様だったら良かったのに》
《ばか。それは言わねえ約束だろ》
《うーん。アーサーもモニカも、良い子ちゃんすぎてダメよォ。多少のしたたかさは必要よォ?》
《カトリナまで乗っかんな!はいこの話は終わりだ!ほら俺が急に黙ったからアーサーが勘付いてるぞ!》
◇◇◇
「カミーユ…またカミーユたちだけで…」
「はいじゃあ役割を決めるぞー!!」
怪訝な顔で口を開いたアーサーの言葉をカミーユが大声でかき消した。アーサーが少しムッと頬をふくらませたが、気付かないふりをして話を続ける。
「本当はクジで役割を決めるんだが、今回はあらかじめ決めてある。まず俺たちのチームはジルが王様だ。理由はジルの鉄壁はお前らじゃ到底崩せねえからだ」
「むぅっ!」
「で、お前らの王様は、一回戦はアーサーとモニカの二人。二回戦以降はアーサーとモニカが交代で一人ずつやってもらう」
「え?!わたしぃ?!」
「どうして僕たちばっかりなのぉ?!」
「お前らはいつだって俺と特訓できるが、他のやつらは今回が最初で最後の特訓になるだろう。次があったとしても1年後かそれ以上だ。そんなめったにない機会にただぼーっと椅子に座って時間を浪費なんてしたくねえだろ?なあお前ら」
カミーユがそう言うと、ダフ、シリル、クラリッサ、ライラは大きく頷いた。
「はい!!こんなめったにない機会を無駄にはしたくないです!!戦いたいです!!」
「ええ!!座ってるだけなんていや!!」
「と、いうことだ。アーサー、モニカ。今回は我慢してくれ。いいな?」
「…分かったぁ」
「言っとくが、王様だって並大抵の苦しみじゃねえぞ?味方が目の前でブッ刺されてても、血反吐吐いてても、どんどん倒れてっても、王冠を取るか取られるかまでは動いちゃいけねえ。自分を守ろうとして目の前で味方の腹に穴が開いたとしても、立ち上がって介抱することすら許されねえんだ。普通の人間であれば自分が傷つくより辛いぞ」
双子はごくりと唾を飲み込んだ。
「特にモニカ。お前は魔法をコントロールできなくなるときがあるな?感情が高ぶった時とか。それでも反則だからな。漏れねえように気を付けろよ」
「うぅっ…がんばる…」
「お前らが反則したら"兵士"が負けるよりしんどい目にあうってこと覚えとけよ」
「…わかった」
"王様と"兵士"は互いに目を見合わせる。
(僕とモニカが少しでも動いたら4人が瀕死のペナルティを受けちゃう。それだけは絶対にだめだ)
(王冠を奪われたらアーサーとモニカが死ぬほどのペナルティを受けるわ。守りきらないと…)
きっと生徒組はボコボコにされる。それは全員が分かっていた。それぞれが覚悟を決め、ゆっくりと立ち上がる。アデーレが双子の頭に小さな王冠を乗せ、椅子に座らせた。"兵士"4人は双子の前で武器を構える。
「10分間…耐えてみせる!!」
「はっ!」
モニカの一言でやる気まんまんになった生徒たちをカミーユがなだめた。彼らは我に返り少し顔を赤らめながら大人しくなる。カミーユは落ち着いた彼らに説明を再開した。
「ふたつめのペナルティ。それは"王様"がルール違反をしたときに科せられる。ペナルティを受けるのは"兵士"だけ。"王様"にはなにもペナルティはない」
「どうして?」
「王様の尻ぬぐいは手下の仕事だからだ」
「……」
その一言でまたアーサーの頭の上にクエスチョンマークがひとつ増えた。それに気付かずカミーユは言葉を続ける。
「さて。これで説明は終わった。今から役職を決める。本当はクジで決めるんだが…。今回の特訓ではあらかじめきめてある。まず俺たちのー…」
「ねえカミーユ」
「お?」
説明の途中でアーサーが小さく手を挙げた。何度考えても分からない、という顔だ。
「どうしたアーサー?」
「やっぱりおかしいよ、このルール」
「どこがだ?」
「"王様"がなにもしちゃいけないっていうの。おかしい。自分のために戦ってくれてる人を助けない王様なんているのかなあ」
「ほー。なるほど?」
「ただ座ってるだけって、王様はなんのためにいるの?みんなを守るのが王様じゃないの?」
アーサーの純粋な質問に生徒たちは俯いた。"王様ゲーム"のルールを聞き、4人の生徒は早々にこれが現国王を風刺したゲームだと気付いていた。
(アーサー、なにも気付いていないのかしら?それとも嫌味?いえ、あの目は嫌味を言っているようにはとても…)
(アーサー…。君、ウィルク王子の所業を忘れたの…?今ではすっかり大人しくなったけど、あれが王族の本質だ…。君はそれを目の当たりにしてるのに…)
(ははっ。そんな国王であればこの国はもっと美しい国になっているぞアーサー)
(わ、私の家は王族を代々守ってきたわ。だから私もこの身を王族に捧げるつもり。でも…ときどきどうしようもなくやるせなくなるの。私が守るものはほんとうにあの方たちでいいのかって…。…もしアーサーみたいな考えを王族が持っていたなら…わ、私はこんな気持ちにはならなかったかもしれない…)
カミーユはすぅっと息を吸い、ゆっくり吐いた。さきほどから妙に静かだったアーサーは、ずっとこのルールに疑問を覚えていたのかと気付く。
「クックック…」
「?どうして笑うのさカミーユ」
「ああ、悪い。お前に言うのは気が引けるが、そんな王様、この国のどこにいるんだ?」
「……」
「…なんなら、お前が変えてみるか?」
「え?」
「ちょ…」
「なんでもねえよ。悪いなアーサー。これはそういうルールのゲームなんだよ。今回は我慢して付き合ってくれ。そしたらお前はきっと、もっとこのゲームがきらいになるぜ」
◇◇◇
《おぉぉぉい!なに言ってんだカミーユ!!おまっ!貴族の前でそんなこと!!このゲームだけでもやばいのに!!おまっ、おまぁぁぁ!!》
珍しくリアーナが狼狽えている。S級冒険者にしか聞こえない声量に必死に抑えつつ騒ぎ立てていた。
《うるせぇーっ。大丈夫だよ気にすんなって!おまえだってあいつらの顔見ただろ。アーサーの言ったことを聞いたときの顔。あれは王族を良く思ってない顔だった。ライラでさえ渋い顔してたぜ》
《そうねェ。あれは良い反応だったわァ。アーサーお手柄ね》
《アーサーが王様だったら良かったのに》
《ばか。それは言わねえ約束だろ》
《うーん。アーサーもモニカも、良い子ちゃんすぎてダメよォ。多少のしたたかさは必要よォ?》
《カトリナまで乗っかんな!はいこの話は終わりだ!ほら俺が急に黙ったからアーサーが勘付いてるぞ!》
◇◇◇
「カミーユ…またカミーユたちだけで…」
「はいじゃあ役割を決めるぞー!!」
怪訝な顔で口を開いたアーサーの言葉をカミーユが大声でかき消した。アーサーが少しムッと頬をふくらませたが、気付かないふりをして話を続ける。
「本当はクジで役割を決めるんだが、今回はあらかじめ決めてある。まず俺たちのチームはジルが王様だ。理由はジルの鉄壁はお前らじゃ到底崩せねえからだ」
「むぅっ!」
「で、お前らの王様は、一回戦はアーサーとモニカの二人。二回戦以降はアーサーとモニカが交代で一人ずつやってもらう」
「え?!わたしぃ?!」
「どうして僕たちばっかりなのぉ?!」
「お前らはいつだって俺と特訓できるが、他のやつらは今回が最初で最後の特訓になるだろう。次があったとしても1年後かそれ以上だ。そんなめったにない機会にただぼーっと椅子に座って時間を浪費なんてしたくねえだろ?なあお前ら」
カミーユがそう言うと、ダフ、シリル、クラリッサ、ライラは大きく頷いた。
「はい!!こんなめったにない機会を無駄にはしたくないです!!戦いたいです!!」
「ええ!!座ってるだけなんていや!!」
「と、いうことだ。アーサー、モニカ。今回は我慢してくれ。いいな?」
「…分かったぁ」
「言っとくが、王様だって並大抵の苦しみじゃねえぞ?味方が目の前でブッ刺されてても、血反吐吐いてても、どんどん倒れてっても、王冠を取るか取られるかまでは動いちゃいけねえ。自分を守ろうとして目の前で味方の腹に穴が開いたとしても、立ち上がって介抱することすら許されねえんだ。普通の人間であれば自分が傷つくより辛いぞ」
双子はごくりと唾を飲み込んだ。
「特にモニカ。お前は魔法をコントロールできなくなるときがあるな?感情が高ぶった時とか。それでも反則だからな。漏れねえように気を付けろよ」
「うぅっ…がんばる…」
「お前らが反則したら"兵士"が負けるよりしんどい目にあうってこと覚えとけよ」
「…わかった」
"王様と"兵士"は互いに目を見合わせる。
(僕とモニカが少しでも動いたら4人が瀕死のペナルティを受けちゃう。それだけは絶対にだめだ)
(王冠を奪われたらアーサーとモニカが死ぬほどのペナルティを受けるわ。守りきらないと…)
きっと生徒組はボコボコにされる。それは全員が分かっていた。それぞれが覚悟を決め、ゆっくりと立ち上がる。アデーレが双子の頭に小さな王冠を乗せ、椅子に座らせた。"兵士"4人は双子の前で武器を構える。
「10分間…耐えてみせる!!」
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