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合宿編:休息

海遊び

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モニカとアーサーは手を繋ぎながら打ち寄せる波につま先を近づけた。二人にとって初めての海遊び。少しだけ緊張する。

「つめたっ」

あらたにやってきた波が二人のつま先を乱暴に撫でた。氷のように冷たい海水に二人は驚き目を合わせる。緊張したおももちで、彼らは頷き海の中に足を差し込んだ。

「んんっ!」

「ひゃー!つめたいー!!」

「でも気持ちいいね!ゆっくり体をならさないと」

アーサーは波打ち際へ腰を下ろし、海水をすくいあげ自分の体に少しずつかけた。慣れてくると冷たすぎて感じていた痛みもやわらぎ、そこにはただ心地よさだけが残った。

「モニカ、慣れた?」

「うん!きもちいい!」

「じゃあもうちょっと深いところにいってみよっか」

「いくー!」

「アーサー!モニカー!あんまり遠くへ行くなよーーー!!」

「はーい!!」

やっと海辺へ到着したリアーナが遠くから叫んだ。アーサーとモニカは彼女たちに手を振りながら、ゆっくりゆっくり海を歩いた。はじめはくるぶしまでも届いていなかった海が、徐々に深みを増していく。気が付けば胸のあたりまで海水に浸かっていた。

アーサーはモニカの手を離し、ふよふよ浮いたり犬かきをして遊んでいる。モニカが浮いている兄の上に乗ったり、泳いでいる兄の背中に飛びついたりするので、毎回アーサーは溺れかけた。

「わぷぅっ!」

「きゃははは!!」

「もうっ!モニカぁっ!溺れちゃうじゃないかあ!」

「ごめんごめん!」

謝りながらもモニカはアーサーの背中にへばりついて離れない。仕方がないので海中でジャンプをしたり潜って遊んだ。アーサーの背中の上で、モニカは楽しそうに笑い声をあげている。

「不思議だなあ。いつもよりモニカが軽く感じる」

「そうなのー?!わたし痩せたのかなあ!」

「痩せたのかなー?それにしては軽すぎるよ。モニカもうちょっと食べなきゃだめだ」

「じゃあ今日はいっぱい甘いのたーべよっ」

「甘いのだけじゃだめだよ?」

「お肉もいっぱい食べる~!」

「残念だけど、モニカが海中で軽いのは痩せたからじゃないよ」

「わぁっ!!」

二人ではしゃいでいると、突然背後からジルの声がした。海水で濡れた髪をかきあげながら、冷静に事実を突きつける。

「液体中にある物体は、その押しのけた液体の重さと同じだけの浮力を液体から受けるからね」

「???」

「つまり水の中では軽く感じるんだよ。モニカの体重は昨日とかわらずさんじゅう…」

「きゃーーーーー!!!どうして私の昨日の体重を知ってるのよーーー!!!」

「見たら分かるでしょ…」

「分からないわよ普通!!」

「大丈夫だよモニカ。モニカが僕より体重が重くたって僕気にしてないよ!」

「わたしが気にするのよぉ!!アーサーのばかぁぁぁっ!!」

「わーーーーーーーー」

「アーーーサーーーーー!」

妹の逆鱗に触れたアーサーは風魔法で地平線の彼方まで吹き飛ばされた。あの無気力なジルが全力でクロールをしている姿を見てカトリナとリアーナは声をあげて大笑いしていた。恥ずかしさのあまりモニカは涙目で顔を真っ赤にしてライラとクラリッサのところへ行き慰めてもらった。

◇◇◇

無事アーサーを回収して戻って来たジルは、ぜぇぜぇと肩で息をしながら砂浜に倒れこむ。さすがのS級冒険者でも数kmを泳いで往復したのはかなりこたえたようだ。カミーユはあきれ顔でジルとアーサーに水を手渡した。

「おまえらなあ。年頃の女子になんてこと言うんだよ」

「僕は体重を言っただけだよ。アーサーだよ悪いの」

「えっ僕ぅ?!」

「そもそも女子の体重を暴露するなっつってんだよ」

「アーサーも相当悪かったよな!!ぎゃはは!!」

「女子の敵だわァ。二人とも教育しなおさないと」

「げぇ…」

アーサーとジルがげっそりとした声を出した。カトリナはやると言ったらやるし、やるからにはスパルタだ。女心を理解するまでみっちりシゴかれるだろう。それはごめんだとアーサーは慌てて起き上がりダフとシリルの元へ走っていった。

「あら。逃げられちゃった」

「そりゃ逃げるだろ」

「残念残念」

カトリナはうふふと笑い、友人たちと水遊びしている双子を眺めた。モニカはクラリッサ、ライラとふよふよ浮かびながらお喋りをしており、アーサーはシリル、ダフと誰が一番速く泳げるか競争していた。アーサーは泳ぎが上手ではないので一番遅かった。はじめてアーサーに勝ててダフとシリルは大喜びだ。悔しかったのかアーサーはそれから何度も何度も二人の体力が切れるまで勝負を挑んでいたので、カミーユが無言でアーサーを回収した。

「あ!カミーユ離してよぉ!」

「なんで体力回復するために設けた休日であいつらをバテさせてんだよ!」

「まだ二人に勝ってない~!!」

「今度泳ぎ教えてやるから!犬かきであいつらに勝てるわけねえだろうが!」

「え!ほんと?!」

「おう、暇なときにな」

「やったー!!約束だよカミーユ!!」

「おう」

「アーサー!」

「モニカ!」

カミーユに担がれているアーサーに気付き、モニカが走ってやってきた。いつの間にかモニカも水着の上に寝衣を着ている。

「モニカも休憩?」

「うん!のど乾いちゃった!」

「モニカも寝衣着たんだねー!どうして?あんなにいやがってたのに」

「え、だって…」

モニカは気まずそうに指をもじもじさせながら呟いた。

「わたし、アーサーよりおにくついてるから…」

「あっ…」

「おなかぷにぷにだし…足だってアーサーより太いし…」

どうやらアーサーに"重い"と言われたことをかなり気にしているようだ。恥ずかしそうに自分の体を隠そうとする妹を見て、アーサーはやっと自分の失言に後悔した。

「モニカごめん!僕そういうつもりで言ったんじゃないんだ!どっちかっていうと、モニカが重いんじゃなくて僕が軽すぎるから…。体もガリガリだし…。モニカが僕のことを気遣って、体を鍛えるんじゃなくて身体強化魔法に切り替えたのも知ってたからさ。僕があの時言いたかったのは、僕よりモニカが重くっても、ムキムキになったってなんだって、僕はモニカがだいすきだよって言いたかったんだ!!」

「…アーサーよりおなかにおにくついてても?」

「うん!むしろふにふにしててかわいいよ!!きもちいいし!」

「ほんと?」

「ほんと!!」

何度も念を押したあと、やっとモニカはえへへと笑った。アーサーが寝衣を脱いでと言うと、恥ずかしそうにだがまた水着姿になった。カミーユにおろしてもらい、アーサーはモニカと手を繋いで大人たちが休憩している場所へ行く。アデーレが渡してくれたオレンジジュース(リアーナの氷魔法のおかげでキンッキンに冷えていた)を受け取りながら砂浜に腰を下ろした。

「あ、モニカ」

「ん?」

オレンジジュースを飲んでいるモニカにジルが声をかけた。

「モニカ、"おにく"っていうのは筋肉のことで、脂肪は"あぶらみ"になると思うよ」

その日、ジルが女性たちにボコボコにされたのは言うまでもない。
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