400 / 718
合宿編:休息
【419話】夜の空
しおりを挟む
太陽が地平線に沈み、ゆっくりと空が暗くなる。夜の雲はきれいだ。ゆったりと風に流され、月の前を遠慮がちに通り過ぎていく。
「あれ。そんなとこにいたの?」
「モニカ。どうしたのこんなところで」
「それはこっちのセリフよ」
森の奥には海を見渡せる開けた場所がある。モニカがそこへ行ったときには、すでにアーサーが一人で寝転んでいた。モニカはアーサーの隣に腰かけ、伸びをしながら背中を倒す。海からは波の音。森からは虫の鳴き声が聞こえてきた。
「それで?どうしてこんなところにいるの?」
「なんとなく。静かなところでぼーっとしたいなあって思って。てきとうに歩いてたんだけど、ここが気に入って長居してたんだー。海風がきもちいいし、虫の鳴き声がここちいい。モニカはどうしてここに来たの?」
「同じような理由ね。わたしは魔法の特訓でよくここを使うから前からお気に入りだったの」
「そうだったんだね。ここいいねえ。おちつく」
「うん。すきー」
アーサーとモニカは自然の音に耳をすませて穏やかな時間を過ごした。おしゃべりのモニカも静かに空を見上げている。アーサーもつられて空を見た。いつもより夜空がきれいな気がした。
「「月がきれいだねえ」」
二人が同時におなじことを呟いた。アーサーとモニカは目を合わせてクスクス笑う。
「同じタイミングで同じこと言っちゃったね」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいね」
「そう?僕はちょっとうれしいよ」
「やっぱりわたしたち双子なんだねえ」
「ねー」
「これからもずっと一緒にいてね、アーサー」
「うん。ずっと一緒だよ」
魂を分けた半身の存在を確かめるかのように、双子は互いの手をそっと握る。
「ねえ見てアーサー。月の模様、なにかに見えない?」
「見える!」
「なにに見えるー?」
「バナナ!」
「それは今アーサーがバナナ食べたいからじゃないの?!」
「じゃあモニカには何に見えるの?」
「アーサー!」
「ええ…?」
「アーサーが弓を引いてるところにそっくりなの!」
「そ、そうかなあ…」
「うん!ねえ、藍もそう思うよね?」
《いや、さすがに苦しいぞモニカ…》
「じゃあ藍にはなにに見えるの?」
《ハンマーで鉱石を採取しているリスに見えなくもないな》
「ええ…?」
「藍って変わってるわね!」
《なんでもアーサーに見える主にだけは言われたくない》
「アサギリには何に見える?」
《ああ?桜の花びら模様だろ普通に考えて!!》
「ああー…」
「ウスユキのことほんとに好きよねアサギリって…」
《はぁ?!そ、そんなんじゃねえやい!!ほら見てみろって!!あれは桜の…》
「はいはい」
《見えるぞアサギリ。サクラの花びらだな。見える見える》
《藍てめぇっ!俺のことガキ扱いしやがって!!》
「あはは!」
ひとしきり笑ったあと、また二人(と2本)は静かに月を眺めた。雲で隠れ、ゆっくりと顔を出す。変わり映えするのは雲の形だけなのに、いくら見ていても飽きないのが不思議だ。
「…みんな同じ月を眺めてるのかなあ」
アーサーはぼそりと呟いた。この空に浮かぶ不思議な美しい球体を、遠く離れている大切な人も見上げているのだろうか。月に祈ることをやめたウィルクも、今夜の月を見ているだろうか。異国にいるキヨハルやウスユキも、同じ月を見上げているのだろうか。クロネやヴァジーはいま、月の絵を描いているのだろうか…。彼の独り言を聞いていたモニカはこくりと頷いた。
「きっとみんな見てるわ」
《いや、ジッピンはいま朝だから…》
《アサギリ、余計なことを言うでない。今でなくとも、同じ月を見ていることには変わりない》
「みんな、今日の月を見てきれいだなって思ってるといいなあ」
アーサーが空に向かって手を伸ばす。モニカも真似して手を伸ばした。月を掴もうとしてみたり、指でつついてみたりする。
「きれいだなあ」
◇◇◇
「今夜は月がきれいだね」
広い窓にもたれてヴィクスはひとりでに呟いた。耳にはタンザナイトのピアスを、小指には黄緑色の宝石が埋め込まれた指輪を付けている。彼は祈るように指輪の宝石を指で撫でてから小指を唇に当てた。
「アウスお兄さま。モリアお姉さま。あなたたちも今、この美しい月を見上げていますか?」
「あれ。そんなとこにいたの?」
「モニカ。どうしたのこんなところで」
「それはこっちのセリフよ」
森の奥には海を見渡せる開けた場所がある。モニカがそこへ行ったときには、すでにアーサーが一人で寝転んでいた。モニカはアーサーの隣に腰かけ、伸びをしながら背中を倒す。海からは波の音。森からは虫の鳴き声が聞こえてきた。
「それで?どうしてこんなところにいるの?」
「なんとなく。静かなところでぼーっとしたいなあって思って。てきとうに歩いてたんだけど、ここが気に入って長居してたんだー。海風がきもちいいし、虫の鳴き声がここちいい。モニカはどうしてここに来たの?」
「同じような理由ね。わたしは魔法の特訓でよくここを使うから前からお気に入りだったの」
「そうだったんだね。ここいいねえ。おちつく」
「うん。すきー」
アーサーとモニカは自然の音に耳をすませて穏やかな時間を過ごした。おしゃべりのモニカも静かに空を見上げている。アーサーもつられて空を見た。いつもより夜空がきれいな気がした。
「「月がきれいだねえ」」
二人が同時におなじことを呟いた。アーサーとモニカは目を合わせてクスクス笑う。
「同じタイミングで同じこと言っちゃったね」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいね」
「そう?僕はちょっとうれしいよ」
「やっぱりわたしたち双子なんだねえ」
「ねー」
「これからもずっと一緒にいてね、アーサー」
「うん。ずっと一緒だよ」
魂を分けた半身の存在を確かめるかのように、双子は互いの手をそっと握る。
「ねえ見てアーサー。月の模様、なにかに見えない?」
「見える!」
「なにに見えるー?」
「バナナ!」
「それは今アーサーがバナナ食べたいからじゃないの?!」
「じゃあモニカには何に見えるの?」
「アーサー!」
「ええ…?」
「アーサーが弓を引いてるところにそっくりなの!」
「そ、そうかなあ…」
「うん!ねえ、藍もそう思うよね?」
《いや、さすがに苦しいぞモニカ…》
「じゃあ藍にはなにに見えるの?」
《ハンマーで鉱石を採取しているリスに見えなくもないな》
「ええ…?」
「藍って変わってるわね!」
《なんでもアーサーに見える主にだけは言われたくない》
「アサギリには何に見える?」
《ああ?桜の花びら模様だろ普通に考えて!!》
「ああー…」
「ウスユキのことほんとに好きよねアサギリって…」
《はぁ?!そ、そんなんじゃねえやい!!ほら見てみろって!!あれは桜の…》
「はいはい」
《見えるぞアサギリ。サクラの花びらだな。見える見える》
《藍てめぇっ!俺のことガキ扱いしやがって!!》
「あはは!」
ひとしきり笑ったあと、また二人(と2本)は静かに月を眺めた。雲で隠れ、ゆっくりと顔を出す。変わり映えするのは雲の形だけなのに、いくら見ていても飽きないのが不思議だ。
「…みんな同じ月を眺めてるのかなあ」
アーサーはぼそりと呟いた。この空に浮かぶ不思議な美しい球体を、遠く離れている大切な人も見上げているのだろうか。月に祈ることをやめたウィルクも、今夜の月を見ているだろうか。異国にいるキヨハルやウスユキも、同じ月を見上げているのだろうか。クロネやヴァジーはいま、月の絵を描いているのだろうか…。彼の独り言を聞いていたモニカはこくりと頷いた。
「きっとみんな見てるわ」
《いや、ジッピンはいま朝だから…》
《アサギリ、余計なことを言うでない。今でなくとも、同じ月を見ていることには変わりない》
「みんな、今日の月を見てきれいだなって思ってるといいなあ」
アーサーが空に向かって手を伸ばす。モニカも真似して手を伸ばした。月を掴もうとしてみたり、指でつついてみたりする。
「きれいだなあ」
◇◇◇
「今夜は月がきれいだね」
広い窓にもたれてヴィクスはひとりでに呟いた。耳にはタンザナイトのピアスを、小指には黄緑色の宝石が埋め込まれた指輪を付けている。彼は祈るように指輪の宝石を指で撫でてから小指を唇に当てた。
「アウスお兄さま。モリアお姉さま。あなたたちも今、この美しい月を見上げていますか?」
11
お気に入りに追加
4,344
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。