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合宿編:二週目・基礎特訓

【412話】身体強化魔法

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ジルが森を出たあと、早速リアーナがモニカに身体強化魔法についての説明を始めた。

「モニカ!身体強化魔法って知ってるか?」

「知らない!初めて聞いた!」

「だよな!身体強化魔法ってのは、魔法をかけた相手の基礎能力を一時的に上げる魔法だ。攻撃力、防御力、体力…いや、体力っつーより底力って感じだな。あとは耐性とかだな!」

「ふむふむ」

「で、さっきの話で分かっただろうが、身体強化魔法を使えるやつってのはかなり少ねえ!回復魔法を使えるやつより少ねえっつったら分かるか?」

「すっごく少ないってことだ!」

「そういうこと!なんでかって、身体強化魔法を打つのにすんげー魔力量が必要だからってーのと、かなりのコントロールが必要になるからだ!コントロールをちっとでも間違えると、身体強化が発動しなかったり、逆に効きすぎて対象の体がぶっこわれる恐れもある!」

「ひぇぇぇっ?!」

「なんたって身体をドーピングする魔法だからなー。攻撃力を上げすぎると自分まで傷付けちまうし、防御力を上げすぎると内臓まで硬くなっちまって臓器に異常をきたしちまう。耐性をつけすぎると、いらねえ耐性までついちまったりするんだ。例えば回復魔法とか薬まで効かなくなる、とかな」

「こ、こわい!!」

「そうだ、すげえこわい魔法だ。だから集中力が欠けてるときには絶対にこの魔法を使うな。めちゃくちゃ危険だ」

「は、はい…」

「自分以外に身体強化魔法をかけるときは特に注意しろ!この魔法、体質とか体型で効果の強さが変わるんだ。自分にとってはちょうどよくても、相手によっちゃあ強すぎたり弱すぎたりする。だがらもし、他人にバフをかけたいなら事前にテストしとくことをオススメする!」

これは今まで使ってきたどの魔法より桁違いに難しい魔法だとモニカは分かった。魔法の対象が魔物であれば、最悪失敗しても許される。もう一度かけ直せばいいだけだからだ。だが対象が味方となると、一度の失敗も許されない。

モニカがごくりと生唾を飲み込むと、リアーナはニッと笑って立ちあがった。

「やっとこの魔法のやばさが分かったな?中途半端な気持ちでやるなよ?下手すりゃ自分の手で死んじまうぞ」

「…うん」

「どうする?おとなしくムキムキになった方がいいんじゃねえか?死ぬよりマシだろ」

「ううん!練習する!」

「お」

「わたし魔法使いだもん!すっごくこわいけど、でもそんな魔法が使えるようになったら、アーサーをもっとサポートできるようになれる!!」

「おー!」

「リアーナ!わたしにその魔法教えて!」

「ぎゃははは!!それでこそモニカだ!!よし!!じゃあやるぞ!!」

「おー!!!」

二人はえいえいおーと片腕を上げ、やる気満々で杖を構えた。新しい魔法にワクワクと不安が入り混じる。モニカは期待をこめた目でリアーナを見た。リアーナもニカっと笑って目を合わせる。

「…で、どう教えたらいいんだぁ…?」

◇◇◇

さすがの教え上手なリアーナも、あまりに高度な魔法を特殊な魔法使いに教えるのは骨が折れた。
ひとまずリアーナは身体強化魔法を披露してみせた。恐ろしく長く複雑な呪文を唱え、杖で魔法陣を描いているのか振り方がとても難解だった。見てもさっぱり分からない。覚えられるわけがない。

身体強化魔法を発動すると、リアーナの体がぽぉっと微かに赤く光った。

「これが攻撃力強化な」

次にリアーナはまた違う呪文を唱えた。詠唱を終えると体が青く光った。

「これが防御強化」

最後の呪文は特に難解で、リアーナですら何回か詠唱や魔法陣を上手にできず失敗した。3回目でやっと発動し、今度は体が紫色に光った。

「…やっとできた!これが状態異常耐性だ!あたしはこれがすっげー苦手だ!」

「リアーナ!見ても全然分かんない!!」

「だよな!!」

リアーナはケタケタ笑って身体強化魔法を解除した。暇つぶしに小さな水球を出し、風魔法でふよふよ浮かせながら、独り言のようにブツブツ呟く。

「モニカの目的は筋力を一時的に高めることだ。だったら攻撃力強化だな…。おしモニカ!まず歌決めろ!」

「うた…うたー…。攻撃力を高めそうな歌…うぅーん…」

「聖魔法のときはパッとすぐ思い浮かんでたのになー。歌のレパートリー少ないのかあ?」

「そうなのー。わたし、あんまり歌知らないの。ちいさいときにミアーナが歌ってくれた歌くらいしか…。それにいつもアーサーが歌を決めてくれてたから…」

「そうだったのかー!じゃあアーサーんとこ行って相談して来い!」

「えっ、いいのー?!」

「おう!その間にあたしはライラを見とくからー!できるだけゆっくり帰ってこい!」

「はぁーい!」

◇◇◇

「攻撃力が高まりそうな歌?うーん…」

モニカはすぐに庭へ戻り、剣を振っているアーサーに相談した。アーサーは一旦手を止め考える。記憶を遡り、ぴったりの歌を探していく。

「あ!モニカあれはどう?!カトリナがだいすきな、クイックステップの曲!」

モニカはそう言って歌をくちずさんだ。はじめてカトリナにダンスの特訓を受けたときに何度も何度も練習した、アップテンポの軽快な音楽。楽しくなってきたのかアーサーは歌いながらダンスのステップを踏んだ。

「僕もあの曲だいすきなんだー!あの曲で踊ってたら、自分の体に羽が生えたみたいに軽くなるんだ!思い通りに体が動いて、ジャンプしたら100メートルくらい飛べそうな気分になるっ」

「きゃーっ!私もあの曲だいすきっ!」

テンションが上がった二人は手を取り合って踊り始めた。二人で曲を歌いながら、クルクル回ったり飛び跳ねたりする。

「うわぁー…。まだそんな体力残ってるんだ…」

残りの4人はバテバテだというのに、アーサーとモニカはキャハキャハ笑いながら庭中を踊りながら駆け巡る。シリルはもうドン引きを通り越して思わず笑ってしまった。

「…おまえらなぁ…」

しばらく好きにさせていたが、いつまでたっても元気いっぱいに踊り続ける双子にカミーユはプルプル震えた。額には青筋がたち、笑っているように見える口元はワナワナ震えている。

「なに愉快に踊ってんだぁぁっ!!さっさと特訓戻れぇっ!!」

「はっ!」

「しまった!楽しくってつい!」

「はぁー…なんでそんな元気なんだよお前らはよぉ…」
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