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合宿編:二週目・基礎特訓

【410話】モニカの無茶なお願い

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「モニカ、バテてきたんじゃない?腕がぷるぷるしてるよ」

「とっくの昔にバテてるわよぉ!!」

2日に一回訪れるこの特訓がモニカはだいきらいだった。しかも、よりにもよって最終日にこの特訓が入り、モニカは朝から憂鬱だった。そう、ジルとの身体強化だ。

この日もいつも通りのメニューを言い渡され、モニカはジルにじーっと見られながら地味な筋肉トレーニングをひたすらする。ジルが見ているので1回たりともサボれない(自主練習の時はアーサーに気付かれないようにこっそり回数をちょろまかしていた)。少しでもフォームが崩れたら鬼のジル先生は「はいはじめからもう一回」と言い放つ。毎日が筋肉痛で、2週間前より腕が逞しくなった気がする。モニカはそれもいやだった。

「うわぁぁん!こんなムキムキになっちゃったらかわいい服着れないじゃないのぉっ!!」

「大丈夫だよ。モニカはムキムキでもきっとかわいいから。まだ元気があるみたいだね。もうワンセットやる?」

「やらない!!絶対にやらない!!」

筋肉トレーニングが終わったらジルと一緒に庭を走る。ジルは軽々走っているが、モニカにとっては全速力一歩手前くらい速く走らないと彼についていけない。今まで速く走らなければならないときは、アーサーがだっこしてくれていたので、自分の力でこんなに速く長時間走るのは初めての事だった。

「ジッ…ジルゥッ…もうちょっとスピード落としたり…」

「しないよ。特訓にならないから」

「うぅっ…」

「甘えないで。甘やかすなってカミーユに言われてるから。本当は甘やかしたいけど」

「カミーユのばかぁっ」

「カミーユはばかだよ」

「おい聞こえてっぞぉ!!」

「あははは!モニカがんばれー!」

「がんばれー!」

「おっと」

おなじ庭で特訓をしていたカミーユが大声で叫んだ。アーサーにも聞こえていたのかケラケラ笑っている。シリルには聞こえなかったようだがモニカに手を振り声援を送った。シリルはすっかり戦意を取り戻しており、ヘロヘロながらもカミーユに立ち向かっていた。モニカは彼らに手を振り返し、カミーユと目で会話していたジルの方を見た。

「ねえジルぅ~…わたし、ただでさえアーサーより背が高くておにくついてるのに、アーサーよりも筋肉ついちゃったらアーサーが泣いちゃうと思わない…?」

「……たしかに」

「アーサーってあんなに力が強いのに、全然筋肉ついてるように見えないんだもん…」

「アーサーの体は特殊だね。基礎能力値が高すぎてかな…。僕も筋肉が目立たない方だけど、アーサーはもっとだね」

「アーサーはダフみたいにムッキムキになりたいらしいの…。わたしは今のアーサーがいいんだけどね、アーサーはムッキムキになりたいみたい」

「ダフか…。まあ、100パーセント無理だろうね」

「ジル!!聞こえてるよ!!ひどい!!」

「…耳が良いのも困りものだな」

また向こうからアーサーの声が飛んできた。ジルはげっそりした顔をして先ほどより声を落としてモニカに話す。

「それで?モニカはお兄ちゃんに悲しい思いをさせたくないから、僕に手を抜けって言ってるの?」

「抜いてほしいのはやまやまなんだけど~…。抜いてくれないでしょう?」

「もちろん」

「じゃあ、筋肉をつけないで筋力をつける方法を考えて!」

「え」

「アーサーは筋肉がないけど筋力がすごいじゃない。カトリナやジルだってそうだわ。わたしもそっちがいい!」

「うーん、それは体質の問題だよモニカ。モニカは脂肪や筋肉がつきやすい体質なんだよ」

「脂肪って言わないで!おにくって言って!!」

「いい年した僕におにくなんて言わせないで」

「ねえジルー!一緒に考えてよー!わたしアーサーよりムキムキになりたくないよー」

なんて無茶なことを言うんだこの子はと思いながらも、大好きなモニカの兄を想ってのお願いを無下にはできなかった。ジルは難しい顔をして「うーん…」と唸る。

「…分かった。少し考えるからちょっと待って」

「やったー!ジルありがとう!!」

「よし。じゃあランニングは早めに切り上げよう。座ってじっくり考えたい。モニカは僕が良い案思いつくまで筋トレしてて」

「えーーー!!!」

「これ以上のわがままは聞けないよ。カミーユに甘やかすなって言われてるから」

「はぁい…。ともかく、ありがとうジル!ジルが先生でよかったー!!!」

モニカも無茶なことをお願いした自覚はあったようだ。それを受け入れてくれてよほど嬉しかったのだろう。彼女はジルに抱きつきぴょんぴょんと飛び跳ねた。ジルはモニカのかわいさにしばらく放心していた。
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