上 下
372 / 718
合宿編:一週目・ご挨拶

【391話】実践組

しおりを挟む
シリル組が落下訓練を始めた同時刻、アーサー、モニカ、ダフ組は庭に呼び出された。先に待っていたカミーユとジルは、3人の姿を見て小さく手を振る。

「お、来たな」

「おまたせー!!」

「よろしくお願いします!!!!」

「今日はなにするのー?」

アーサーとモニカはきゃっきゃと嬉しそうにS級冒険者に駆け寄った。ダフも双子についていくが緊張でガチガチだ。カミーユはそんなダフを見ながらニッと笑った。

「俺はダフの剣技がどの程度のもんか見たい。ちと借りるぜ」

「え?!」

「ダフ、来い」

カミーユに指名され、ダフは一瞬固まったあと「うぉぉぉぉ!!!」と咆哮した。ダフのパワフルさを知っている双子は驚かなかったが、カミーユとジルは慌てて耳を塞いで顔をしかめた。興奮がおさまらないのかダフは大声で叫ぶ。

「カミーユさんとマンツーマンだってぇぇえ?!やったぜー!!俺はなんて幸せ者なんだぁぁぁあ!!!」

「ダフ…うるさい」

「あ!すみません!!」

「リアーナよりうるせえやつ初めて見たぜ…」

「アホっぽいところも、そこはかとなくリアーナに似てるね」

「なんてこった」

カミーユはげんなりとしてため息をついた。

「まあ、うるさかろうがアホかろうが、強くて良いヤツならかまわねえ。来いダフ」

「はい!!!」

ダフとカミーユが庭の端へ移動するのを眺めていたジルが、双子に向き直った。

「さて、君たちだけど」

「なにするのーーー!!!」

「アーサー対モニカで対戦して」

「えーーー!?!?」

予想外の訓練内容に双子は顔を合わせた。アーサーvsモニカ。学院で在学しているとき一度だけ二人は本気で戦ったことがある。そのときはモニカの魔法に太刀打ちできなかったアーサーが、苦肉の策でキスをしてモニカを動揺させ、その隙に剣を突き刺した。アーサーにとってその戦いはまさに"試合に勝って勝負に負けた"状態で、できるならあの試合のことは忘れたかった。

モニカにとってもあの試合は忘れがたいものだった。アーサーに劣等感を抱いていたモニカは、あの試合で本気で兄に勝とうとしていた。途中までは順調に追い詰められていたのに、情けないことにキスひとつで動揺してしまい負けてしまった。あの雪辱をいつか果たしたいと、実はずっと思っていたのだ。

もちろんジルはそのことについて全く知らない。ただそれが二人の訓練に最適だと考えただけだった。なので双子の表情が変わり闘気があふれ出したのを感じ取り、ジルは目を見開いた。

「驚いたな。二人ともいやがると思ってたのに。特にアーサー」

「まさか!!願ってもないよ!!あんな勝ち方して後味が悪かったんだ!!」

「そうよ!!ずーっとアーサーともう一回戦いたいと思ってたの!!」

「へえ。過去に一度戦ったことがあるんだね。それでアーサーが嬉しくない勝ち方をしたと」

「うん…。でも今回は正々堂々戦うよモニカ!!」

「わたしだって、もうキスされたくらいじゃびっくりしてやんないかな!!」

「…なるほど。アーサーがモニカにキスしたんだ。へぇ」

必死に無表情を装っていたが、ジルの鼻からたらりと血が流れた。心配して大騒ぎしている双子に「なんでもないよ」とだけ言って、腕で鼻血を拭いながら訓練の内容を説明する。

「今日の特訓で、アーサーは魔法と戦う練習を、モニカは武器と戦う練習をしてもらおうと思ってる。でも君たちが本気を出したら練習にならないから、アーサーはモニカがギリギリ避けられるくらいの速さと力で戦ってほしい」

「ふむふむ」

「モニカはアーサーがギリギリ避けたり武器で打ち消せるくらいの強さで魔法を打って。対魔法、対武器の練習をしながら、アーサーは相手の力を見極める練習、モニカは魔力コントロールの練習にもなるよ」

「わぁ…むずかしそう…」

「力のコントロールは長期戦のダンジョンでとても大切。できるだけ体力や魔力を長持ちさせたいからね。上級者ほどオーバーキルなんてもったいないことをしないから。わかった?」

説明が終わり、双子は大きく頷いた。

「「わかった!!!やってみる!!」」

「よし」

だが、アーサーとモニカはもじもじとジルに上目遣いをした。これは双子がわがままを言うときの表情だとジルはすぐに察し、内心ではすでにわがままを聞いてあげようと決めていた。ポーカーフェイスのジルは無表情で双子を見下ろす。

「どうしたの」

「あのね、ジル、お願いなんだけどぉ」

「なに?」

「一回だけ、二人とも本気で対戦してもいい…?」

「…ああ、前回の対戦のリベンジがしたいんだね」

「うん…」

「お願いジルぅ」

「一回だけぇ」

「……」

甘えた声でお願いされるのが嬉しくて、ジルは悩むふりをして黙り込んだ。おねがい、おねがぁい、とジルの服を掴んで体を揺らされ、ずっとこうしていたいと心の中で叫ぶ。双子欲求と葛藤し、なんとかジルは頷いた。その間わずか5秒のことだった。

「いいよ。一回だけね。あと、くれぐれも殺さないでね?」

「やったーーー!!!」

「ありがとうジルー!!」

アーサーとモニカはジルにぎゅーっと抱きついてから、少し離れて剣と杖を構えた。

「やぁっとこのときがきたわ!!アーサー!!今度こそ負けないんだから!!」

「僕だって負けないもん!!僕の剣で、モニカに勝ってみせるよ!!」

やる気満々闘気ビンビン。双子の本気の戦いを間近で見られるのはジルも胸が躍った。ジルはリストバンドを外して空高く投げる。それが地面に落ちた瞬間、暴風と大炎がジルの目の前をかすめた。
しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。