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合宿編:一週目・ご挨拶

【386話】第一印象は5分で決まります

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「武器よし!バナナよし!パンツよし!!」

「杖よし!コスメよし!パンツよし!!」

トロワ訪問を終え、残りの時間をまったりとポントワーブで過ごした双子は3日後に始まる合宿のための荷造りをしていた。必要なものを買い足し、前日に床屋へ行って髪も整えた。準備は万端だ。

カミーユたちが迎えにくる時間まで、アーサーとモニカはエリクサー作りをして暇を潰した。楽しみで二人とも集中できず、スライムに間違えて毒魔法をかけてしまったり、薬草の量を間違えてしまう。(毒スライムはモニカがよそ見をしている間にアーサーが自分のアイテムボックスにくすねた)

「おーーい!!アーサー!モニカー!!」

「「きた!!」」

ダンダンダン、と乱暴に玄関のドアを叩く音が聞こえてきた。双子は作りかけのエリクサーをアイテムボックスに放り投げ、ばたばたと階段を駆け下りる。ドアを開けると普段着姿のカミーユたちが立っていた。

「準備できてるか?」

「ばっちり!!」

「よし、じゃあ馬車乗れ」

「はーーーい!!!」

家の前で待っている馬車に乗り込み、そわそわした顔でカミーユたちを待つ。すぐに彼らも椅子に座り馬車を出発させた。南西に向かって2日馬車をゆっくり走らせたところにカールソン名義の拠点がある。彼らは町で休憩を挟みながらのんびりと目的地へ向かった。

◇◇◇

バンスティン国南部、アルジャンツという町で馬車は止まった。背の高い木に囲まれただだっ広い庭の向こうには豪邸が建っていた。ポントワーブのカミーユの家より10倍くらい広いのではないかと思うくらい大きい。豪邸の周囲はのどかで、近くにあるのは森と海。

「わー…」

「カミーユ、こんな大きい家持ってたのぉ…?」

「買ったんだよこの日のために」

「えぇぇ?!」

「リアーナのばあさんとこじゃ大人数の訓練はできねえからな。大暴れしても迷惑がかかんねえド田舎のだだっぴれえ家を探してたんだ。んでここを見つけて買った」

「こんなおおきなおうちポーンって買っちゃうカミーユすごいぃ…」

「町の半分ポーンって買うやつにだけは言われたくねえ。ほら、他のガキら待ってっから行くぞ」

「え?!みんなもう来てるのぉ?!」

「ああ。ここに向かってる途中でベニートのインコが知らせてくれた。昨日にはもう全員集まってたらしいぞ」

「つまりお前らはドベだ!」

リアーナはぎゃはぎゃは笑いながら双子の肩を抱いた。3人がノロノロ歩いている後ろをカミーユ、カトリナ、ジルがついていく。豪邸に入るとベニート、アデーレ、イェルドが彼らを出迎えた。

「おつかれさまです。子どもたちは応接間で待ってもらってます」

「おう。ありがとな」

「アーサー、モニカ。おなかすいてない?なにか食べる?」

「おなかペコペコ!」

「みんなに挨拶してから食べたい!」

「分かったわ。スープ温めとくね」

「ありがとうアデーレ!」

「おー!!アーサー、モニカ!元気そうでなによりだ!!」

「イェルドー!!」

「お前らのともだち、みんなキラッキラしてんなあ?!良い服着てるし行儀いいしで落ち着かねえわ!」

「そりゃ全員貴族の子だからな。応接間だったか?」

カミーユが尋ねると、イェルドが背筋をピンと伸ばして頷いた。

「はい!こっちです!」

イェルドに案内されてカミーユたちが応接間へ入ると、ガチガチになって座っていた4人の子どもたちがバッと立ちあがった。それを見たカミーユは「おー、ガッチガチだなおい」と呟いて笑った。

「んな緊張すんな。座れ」

「はい!!」

「……」

友人たちの反応に双子はあんぐりと口を開けた。震えるほど緊張していて、会えたことや訓練を受けられることに興奮して顔が紅潮している。アーサーとモニカが一緒にお風呂に入ったり寝たりしていた人たちは、思っていた以上にすごい人らしい。

「分かってたけど…」

「これほどだったとはぁ…」

「ほらほらアーサー、モニカ。呆けてないで懐かしの学友との再会を喜びなさァい?」

「あ、う、うん!」

カトリナに背中を押され我に返った双子はパタパタと友人に駆け寄った。アーサーとモニカを見て友人もパッと顔を輝かせる。

「ダフ!シリル!!」

「ライラ!!クラリッサ!!!」

「「久しぶりぃ!!」」

アーサーはダフとシリル、モニカはライラとクラリッサに飛びついた。ダフはがっしりアーサーの小さな体を抱きとめそのままクルクルと回る。ライラはモニカに会えて喜びのあまりウルウルしていた。

「おおおー!!アーサー!!元気だったか!!」

「元気ー!!ダフはー!?」

「俺も元気だ!!毎日強い人たちに鍛えられている!!楽しい!!」

「よかった~!!シリルは元気ー?!」

「ダフや君たちがいなくなって少し寂しいけど、元気だよ。また君たちと剣を交えられて嬉しい」

「ライラー!ライラライラー!!」

「も、モニカー!うれしいよぉーまた会えるなんてぇー」

「わたしもうれしいよおーーー!!ライラだライラだー!!」

「ちょっとモニカ。私の名前も呼びなさいよ!」

「えへへクラリッサー!!元気?!元気ぃ?!」

「ええ元気よ!あなたがいないと張り合いがなくて退屈!」

「じゃあ合宿でいっぱい楽しもうねー!」

「ええ!今度こそ勝ってみせるわ」

「いいねいいねー!!やる気満々戦う気満々じゃねえか!!」

子どもたちの会話を聞いていたリアーナがニヤニヤと嬉しそうにした。今にも森に連れ込んで魔法の打ち合いを始めそうだったので、念のためカミーユは彼女の首根っこを掴んでいた。

「おうおう。なかなかよさそうなのが集まってんじゃねえか。さすがは俺らが選んだやつらだな」

「楽しみだわァ。ライラの実力を早く見たいわ」

「ダフはまさにカミーユが選びましたって体格してるね。あの年齢であの背丈と筋肉はもはやこわいよ」

「シリルはおまえに似てひょろっひょろだなあおい?まあ確かに賢そうだが」

「おいシリルでヒョロヒョロとか言ってやんなよアーサーが泣くぞ?!」

「リアーナ聞こえてるよ?!」

「なんだアーサーおまえ耳いいなあ?!」

「いやすごく大声だったよ?!」

「まあいいじゃねえかほんとのことなんだから!!がはは!」

「むぅぅっ!!」

「おうおうなんだアーサーその顔はぁー。やんのかおぉ?やるかぁ?」

「むぅっ!!」

リアーナに挑発されたアーサーは頬をぷっくり膨らませてアイテムボックスから剣を取り出した。それを見たリアーナも爆笑しながら杖を構える。二人が腕を振りかぶろうとした瞬間、アーサーはカトリナに、リアーナはカミーユに頭を床に叩きつけられた。

「ぎゃんっ」

「ぐぁっ!!…なにすんだカミーユ一瞬意識飛んだろうが!!」

「いたいよカトリナぁ!頭ぐあんぐあんする!」

「いや意識飛ばすつもりでやったんだがな」

「私もォ。ほんと、タフなんだからァ」

「アーサー、リアーナ」

「「ん?」」

床に押し付けられている二人の顔をジルがのぞき込む。

「そんなに喧嘩したいなら森の奥深くでやってくれない?家の中でしたら一瞬で崩壊するでしょ。あとまだ挨拶の途中だから」

「「はぁい…」」

数分のやり取りだったが、学友たちを震え上がらせるには充分だった。アーサーとリアーナの目にも止まらない動き。そんな彼らをいともたやすく捕らえたカミーユとカトリナ。そしてジルの静かな威圧感。

こんなバケモノたちと1か月も過ごすことになるのかと考えると、出会って5分で帰りたくなった。
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