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初夏編:一家でトロワ訪問
【383話】おまつり
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トロワ滞在4日目。トロワの住民たちは外から聴こえてくる軽快な音楽で目を覚ました。アーサーとモニカも「なんだろう?」と首を傾げながら窓から外を覗き込む。
「わー!!」
「えー?!」
装飾された建物や木々。昨日までなかった屋台が並び、どこから来たのか音楽家が演奏をしている。双子は一瞬ここがルアンかと錯覚してしまうほど、貧困層が華やかに飾り付けられていた。施設内でも子どもたちの歓声や大人たちがザワザワしているのが聞こえてくる。アーサーとモニカは寝衣のまま部屋を出て食堂へ向かった。
「おはよう。アビー、モニカ」
「アーサー、アビーの恰好じゃないけど大丈夫なの?」
「大丈夫!ここの人たちはみんな僕が男だって知ってるから」
「それより外がいつもと全然違うよ!」
「ふふふ」
双子のうろたえっぷりにカトリナがクスクス笑った。それでアーサーがピンとくる。
「あ!もしかして行く前に言ってたの、このこと!?これ、カトリナの仕業でしょ!」
「あら、もうバレちゃったわァ」
「えー!そうなのぉ?!すごーい!!」
「がんばっているアーサーとモニカ、それにトロワの人たちに楽しい思いをしてほしくって。お父様にお願いして、音楽家や屋台の人たちを派遣してもらったのォ。あと、町の装飾もね」
カトリナはそう言ってウィンクをした。ジルも今日知ったのか、ため息をつきながらも口元が緩むのを抑えられていない。
「一流の音楽家に、おいしい軽食。町を飾る品のある装飾品。さすがオーヴェルニュ家が手配したものだけあるね。はあ、僕にくらい教えてくれたってよかったじゃないかカトリナ。少しくらい手伝ったのに」
「手伝わせたくなかったから言わなかったのよ。あなたにだって少しは息抜きしてほしくてねェ」
「それを言ったら君こそ少しは息抜きをしたらどう?」
「これは趣味。してて楽しいことはすべて趣味よォ」
外の様子が気になってか、施設に住んでいる人たちがいつもより早い時間に食堂へ入って来る。リングイール一家を見つけると、大人も子どもも外の様子について尋ねてきた。
「今日はみなさん仕事をおやすみしてちょうだい。そして外で心行くまま楽しんでほしいですわ。音楽に合わせて踊ったり、屋台でおいしいものを食べたり。屋台の商品はとっても安くしていますから、これを期に北部の料理や商品を手に取ってみてくださいな」
「わーーーーい!!」
双子から初任給をもらい手持ちがホクホクの子どもたちは、大喜びで外へ出た。さっそく屋台でアツアツのパイを購入し、笑い声をあげながら食べている。大人たちもソワソワと手持ちのお金を麻袋に入れて施設を出た。ホットワインを飲みながら音楽を聴いたり、上質な服を格安で買えて喜んでいる。
「アビー!わたしたちも着替えて外へいきましょ!」
「うん!!」
双子は階段を駆け上がり、バタバタと支度をした。ポントワーブで揃えた真新しい服に身を包み廊下を走る。そこでアーサーとモニカは、調合器具を持ってイチの部屋に入ろうとしているイチとポルと鉢合わせした。
「あ!」
「げっ」
双子に見つかりイチはあからさまに嫌な顔をした。気付かないふりをして部屋に入りドアを閉めようとするが、怪力のアーサーにこじ開けられる。アーサーはニッコニッコ笑いながらイチの手を掴んだ。
「イチ!なにしてるのー?!」
「見て分かんない?仕事するんだよ」
「イチもおまつり行こう!」
「行かない」
「どうしてさ!行こうよー!」
「行かない」
「どうしてさ!行こうよー!」
「いかない」
「どうしてさ!行こ…」
「なに?!俺がハイって言うまで同じセリフ延々言い続けんの?!」
「うん!」
「こわー…」
イチは、屈託のない笑顔をまき散らしながら有無を言わさずまつりに連れて行こうとするアーサーに「はぁぁぁ…」と長いため息をついた。
「お前って害がないようにみえて結構こわいよな?」
「こわくないよ!害もないよー!だからおまつり行こ!」
「そういうとこだよ!…たく、俺とポルはああいううるさいの好きじゃないから行かない。な、ポル」
「……」
返事が返ってこなかったのでイチがポルに目をやると、ポルは頷きながらも行きたそうにウズウズしている。
(あー…。まつりは好きじゃないけどアーサーと出かけたいのか)
「ポル、行ってこい」
「え?」
「アーサーがせっかく誘ってんだから、遊んでもらいな」
「……」
イチがポルの背中を押すと、ポルはアーサーの差し出された手を握った。イチはふっと笑い一人で部屋に戻ろうとしたが、クンとなにかに引っ張られる。
「ん?」
「……」
振り返ると、ポルはイチの裾を握っていた。
「…イチとも行きたい」
ポルは小さな声でそう言った。イチは「あ"ー…」と呻きながら頭を掻き、またため息をついてポルの手を離させた。部屋に入ったイチはバタンとドアを閉じ、調合器具を机に並べている音が聞こえた。
「……」
ポルは寂しそうに閉じられたドアを見ていた。アーサーとモニカは目を見合わせたあと、しゃがんでポルの頭を撫でる。
「イチは忙しいみたい。今日は僕たちとおまつり楽しもうね」
「うん…」
「じゃ、行こっか」
双子が立ちあがりポルの手を引いて歩き出したとき、キィ…と音がしてドアが開いた。驚いた3人が振り返ると、白金貨が入った麻袋を腰に巻いたイチがそっぽを向いて立っている。
「なんだよ、置いて行こうとしてたのか?」
「だってイチ…行かないのかと」
「調合器具を置きに行っただけ。ほら行くぞポル。好きなもの買ってやる」
ずかずかと双子たちを追い抜かして歩くイチを呆然と眺めたあと、嬉しさがじわじわと湧き上がってきて双子は「わーーーーい!!!」と奇声を発しながらイチに抱きついた。勢い余って床に倒れこんだイチはガバっと起き上がり双子にげんこつをくらわせる。
「いたっ」
「きゃんっ」
「突然飛びつくなばか!」
「ごめんなさぁい…」
「まったく!しっかりしてくれよ最年長。行くぞポル」
「うんっ」
ポルはしりもちをついている双子の手を引いて起こし、二人の手を握りながらパタパタと走ってイチに追いつく。モニカがイチの腕に抱きつくと、イチは顔を真っ赤にしてその腕を振り払った。
「わー!!」
「えー?!」
装飾された建物や木々。昨日までなかった屋台が並び、どこから来たのか音楽家が演奏をしている。双子は一瞬ここがルアンかと錯覚してしまうほど、貧困層が華やかに飾り付けられていた。施設内でも子どもたちの歓声や大人たちがザワザワしているのが聞こえてくる。アーサーとモニカは寝衣のまま部屋を出て食堂へ向かった。
「おはよう。アビー、モニカ」
「アーサー、アビーの恰好じゃないけど大丈夫なの?」
「大丈夫!ここの人たちはみんな僕が男だって知ってるから」
「それより外がいつもと全然違うよ!」
「ふふふ」
双子のうろたえっぷりにカトリナがクスクス笑った。それでアーサーがピンとくる。
「あ!もしかして行く前に言ってたの、このこと!?これ、カトリナの仕業でしょ!」
「あら、もうバレちゃったわァ」
「えー!そうなのぉ?!すごーい!!」
「がんばっているアーサーとモニカ、それにトロワの人たちに楽しい思いをしてほしくって。お父様にお願いして、音楽家や屋台の人たちを派遣してもらったのォ。あと、町の装飾もね」
カトリナはそう言ってウィンクをした。ジルも今日知ったのか、ため息をつきながらも口元が緩むのを抑えられていない。
「一流の音楽家に、おいしい軽食。町を飾る品のある装飾品。さすがオーヴェルニュ家が手配したものだけあるね。はあ、僕にくらい教えてくれたってよかったじゃないかカトリナ。少しくらい手伝ったのに」
「手伝わせたくなかったから言わなかったのよ。あなたにだって少しは息抜きしてほしくてねェ」
「それを言ったら君こそ少しは息抜きをしたらどう?」
「これは趣味。してて楽しいことはすべて趣味よォ」
外の様子が気になってか、施設に住んでいる人たちがいつもより早い時間に食堂へ入って来る。リングイール一家を見つけると、大人も子どもも外の様子について尋ねてきた。
「今日はみなさん仕事をおやすみしてちょうだい。そして外で心行くまま楽しんでほしいですわ。音楽に合わせて踊ったり、屋台でおいしいものを食べたり。屋台の商品はとっても安くしていますから、これを期に北部の料理や商品を手に取ってみてくださいな」
「わーーーーい!!」
双子から初任給をもらい手持ちがホクホクの子どもたちは、大喜びで外へ出た。さっそく屋台でアツアツのパイを購入し、笑い声をあげながら食べている。大人たちもソワソワと手持ちのお金を麻袋に入れて施設を出た。ホットワインを飲みながら音楽を聴いたり、上質な服を格安で買えて喜んでいる。
「アビー!わたしたちも着替えて外へいきましょ!」
「うん!!」
双子は階段を駆け上がり、バタバタと支度をした。ポントワーブで揃えた真新しい服に身を包み廊下を走る。そこでアーサーとモニカは、調合器具を持ってイチの部屋に入ろうとしているイチとポルと鉢合わせした。
「あ!」
「げっ」
双子に見つかりイチはあからさまに嫌な顔をした。気付かないふりをして部屋に入りドアを閉めようとするが、怪力のアーサーにこじ開けられる。アーサーはニッコニッコ笑いながらイチの手を掴んだ。
「イチ!なにしてるのー?!」
「見て分かんない?仕事するんだよ」
「イチもおまつり行こう!」
「行かない」
「どうしてさ!行こうよー!」
「行かない」
「どうしてさ!行こうよー!」
「いかない」
「どうしてさ!行こ…」
「なに?!俺がハイって言うまで同じセリフ延々言い続けんの?!」
「うん!」
「こわー…」
イチは、屈託のない笑顔をまき散らしながら有無を言わさずまつりに連れて行こうとするアーサーに「はぁぁぁ…」と長いため息をついた。
「お前って害がないようにみえて結構こわいよな?」
「こわくないよ!害もないよー!だからおまつり行こ!」
「そういうとこだよ!…たく、俺とポルはああいううるさいの好きじゃないから行かない。な、ポル」
「……」
返事が返ってこなかったのでイチがポルに目をやると、ポルは頷きながらも行きたそうにウズウズしている。
(あー…。まつりは好きじゃないけどアーサーと出かけたいのか)
「ポル、行ってこい」
「え?」
「アーサーがせっかく誘ってんだから、遊んでもらいな」
「……」
イチがポルの背中を押すと、ポルはアーサーの差し出された手を握った。イチはふっと笑い一人で部屋に戻ろうとしたが、クンとなにかに引っ張られる。
「ん?」
「……」
振り返ると、ポルはイチの裾を握っていた。
「…イチとも行きたい」
ポルは小さな声でそう言った。イチは「あ"ー…」と呻きながら頭を掻き、またため息をついてポルの手を離させた。部屋に入ったイチはバタンとドアを閉じ、調合器具を机に並べている音が聞こえた。
「……」
ポルは寂しそうに閉じられたドアを見ていた。アーサーとモニカは目を見合わせたあと、しゃがんでポルの頭を撫でる。
「イチは忙しいみたい。今日は僕たちとおまつり楽しもうね」
「うん…」
「じゃ、行こっか」
双子が立ちあがりポルの手を引いて歩き出したとき、キィ…と音がしてドアが開いた。驚いた3人が振り返ると、白金貨が入った麻袋を腰に巻いたイチがそっぽを向いて立っている。
「なんだよ、置いて行こうとしてたのか?」
「だってイチ…行かないのかと」
「調合器具を置きに行っただけ。ほら行くぞポル。好きなもの買ってやる」
ずかずかと双子たちを追い抜かして歩くイチを呆然と眺めたあと、嬉しさがじわじわと湧き上がってきて双子は「わーーーーい!!!」と奇声を発しながらイチに抱きついた。勢い余って床に倒れこんだイチはガバっと起き上がり双子にげんこつをくらわせる。
「いたっ」
「きゃんっ」
「突然飛びつくなばか!」
「ごめんなさぁい…」
「まったく!しっかりしてくれよ最年長。行くぞポル」
「うんっ」
ポルはしりもちをついている双子の手を引いて起こし、二人の手を握りながらパタパタと走ってイチに追いつく。モニカがイチの腕に抱きつくと、イチは顔を真っ赤にしてその腕を振り払った。
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