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初夏編:一家でトロワ訪問

【380話】子どもたちの初任給

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「アビー、モニカ。ちょっといいかしらァ?」

翌日、子どもたちに調合と魔法を教えていた双子にカトリナが声をかけた。アビーとモニカは「はーい!」と元気に返事をして席を外す。駆け寄ってきた彼女たちにカトリナはそわそわしながら尋ねた。

「ねえ。昨日この町を散策していたのだけれど、美術館ってもしかしてあの白い建物かしらァ?」

「そうだよー!きれいな建物でしょ?!」

「ええ、とっても素敵。あなたたち、飾る絵は持ってきているの?」

「うん!」

「ジ…お父さまに持ってきてもらったおっきなアイテムボックスに全部入ってるよ!」

「そう。いつ飾る予定なのォ?」

「今日のお昼の予定だよ!」

「よかったら私とジルも手伝わせてもらえないかしらァ?あなたたちが飾る絵にとても興味があるの」

「もちろん!」

「一緒にかざろー!!」

「決まりねェ。じゃあ、行くときに声をかけてちょうだい。それまで私とジルは大人の人たちとお話をしてるからァ」

「はーい!!」

カトリナは(家族らしく振舞うために)双子の頬にキスをしてから食堂をあとにした。あの日からトロワの大人たちはカトリナとジルを慕い、双子(子ども)には話せなかった悩みや相談などを聞いてもらっていた。カトリナとジルにとっても、一般民がどのような悩みを持っているかを知ることができ、時たま役立ちそうな情報も得られたので積極的に彼らの話に耳を傾けた。

アビーとモニカは午前いっぱいかけて子どもたちに調合と魔法を教え、作ってもらっていた薬素材とポーションを買い取った。薬素材は10万本分(お願いしていた数よりも少なかったが、充分頑張ってくれている数だ)、ポーションは1,000本だった。薬素材の報酬として白金貨400枚、ポーションの代金として白金貨6枚をイチに渡すと、彼は苦笑いをしてそれを返した。

「ごめん。すごくありがたいんだけど、こんな大きな金貨で渡されたら困る。子どもたちに分けられない」

「あっ!」

「ご、ごめんなさい!!」

アーサーは慌てて今回受け取ったものを、誰がいくつ作ったのか尋ねた。イチは数字を細かく書き込んだボロボロの紙束で確認しながら答えていく。

「えーっと、ということはポーション作った子は一人金貨5枚。イチが白金貨90枚。薬素材作った子は一人金貨22枚。薬素材費用が金貨120枚ってことだね」

「え、そんなもらえるの?」

「うん!たくさん作ってくれてたからね!」

「特にイチは毎日500本作ってくれてたんだもの!ほんとうに助かるわ!」

「す、すご…」

自分の報酬金額を聞いてイチはよろめいた。白金貨なんて、今の今まで触ったことすらなかったのに、とつぜん90枚も手に入ってしまった。

「みんな金貨で渡して大丈夫かな?」

「できたら大銀貨でほしいけど…。さすがにわがままだよな」

「ううん!富裕層に商人ギルドがあるから両替してもらってくるよ。キャネモの顔で手数料もそんなに取られないと思うし」

「俺は白金貨80枚と、金貨90枚と、のこりを大銀貨で欲しい」

「わかったー!」

「悪いな。手間かけさせて」

「ううん!わたしたちこそ気が回らなくてごめんね」

「教えてくれてありがとう!じゃあ、ぱぱっと行ってくるー!」

双子はキャネモに伝書インコを飛ばした。すぐに、手数料なしで両替するようギルドに言っておいたという旨の返事が返ってきた。アーサーとモニカはホッとして商人ギルドへ向かった。両替した大銀貨を小さな麻袋に一人分ずつ入れて子どもたちに手渡すと、子どもたちは大量の大銀貨におおはしゃぎしていた。

「わぁぁぁ!!すごい!!なにこれぇぇ!!!」

「これ、大銀貨?!大銀貨がこんなにいっぱい?!」

「これほんとにもらっていいの?!」

「もちろん」

「ありがとうーー!!!」

「ううん。これはあなたたちが働いて得たお金よ。あなたたちががんばったから、その分のお金を渡しただけ」

モニカがそう言うと、子どもたちは誇らしげな顔をした。麻袋を抱きしめてぴょんぴょん飛び跳ねながら、一人の女の子が大声で言った。それにつられて他の子たちも思い思いに叫んだ。

「わたし!これからもがんばるー!!」

「僕も!いっぱいつくる!!」

「これでお菓子食べるー!!」

「これで新しい服買うーー!!!」

「ポルは?何に使うの?」

子どもたちが騒いでいる中、ポルは一人飛び跳ねずにじっと麻袋をみていた。アーサーが声をかけると、もじもじしながら小声で答える。

「…かあちゃんに、半分あげる。残りは、貯める」

「自分にも使ってあげなよ。欲しいものないの?」

「…アーサーがほしい」

「え?!」

思いがけない答えにアーサーは思わず大声をあげてしまった。ポルはムスッとした顔で麻袋を彼に差し出す。

「半分あげるからここに住んでよ」

「えーと…。うーん…」

「…ダメなんだ」

「ごめんねポル。僕、しなくちゃいけないことがいろいろあって、ここには住めないんだ。本当にごめんね」

「……」

ポルは目に涙をためて恨めし気にアーサーを見た。アーサーが何度も謝っていると、また麻袋をアーサーに押し付ける。

「…じゃあ、半分あげるから今日も一緒に寝てよ」

「お金なんてもらわなくても、一緒に寝るよ」

「ぐすん」

「あー、ポル…、どうして泣くのさ」

アーサーはポルをぎゅっと抱きしめて頭をぽんぽんと撫でた。それからポルが泣き疲れて眠ってしまうまで、アーサーは彼をだっこしてあげた。

「あら、寝ちゃった?」

しばらくして、子どもたちとはしゃいでいたモニカがアーサーの元に戻って来た。眠っているポルの頭を撫で、眉をハの字にさげてアーサーに笑いかける。

「どうして泣いちゃったの?」

「お金を半分渡すからここに住んでって言われちゃって」

「あらあら」

「ポル、自分のためにお金を使おうとしないんだよ。半分はお母さんにあげて、半分は貯金するか僕に渡すかって言ってた。欲しいものがないみたい」

「だったらアーサーがポルとお買い物に出かけたらいいわ。アーサーと一緒ならきっとポルも楽しんでくれるだろうし、もしかしたら欲しいものが見つかるかもしれないでしょ?」

「それいいね!今度誘ってみよー」

「ところでアーサー、もしかして今日もポルと寝るの?」

「うん」

「ふーん、そう。じゃあ私はイチと寝よーっと」

「え"?!何言ってんのモニカ!?」

「だって一人で寝るの寂しいんだもん」

「だめだめだめだめ!!」

「どうしてよ!アーサーはポルと寝る癖に!」

「それとこれとは全然違うと思いますけど?!」

「…二人ともうるさい」

双子の大声で目を覚ましてしまったポルが不機嫌そうに呟いた。アーサーとモニカは慌てて口をつぐみ、声を出さずに口の動きだけで言い合いを続けた。

昼過ぎになっても一向に声をかけてこない双子をカトリナとジルが迎えに行ったのは、それから一時間後のことだった。
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