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初夏編:田舎のポントワーブ

【363話】行きたいところ

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「アーサー、モニカ。どっか行きたいとことかなんか欲しいもんねえか?」

田舎暮らし5日目。おでかけもせずひたすらエリクサー/ポーション作りに励む双子とリアーナ、ジルに見飽きたカミーユがげんなりした顔で双子に話しかけた。負けず嫌いのアーサーとモニカは、おでかけしたいがリアーナとジルに負けたくないからエリクサー作りもやめたくない、という顔をしている。それを汲み取ったカトリナがリアーナとジルに近寄りパンパンと手を叩いた。

「ジル、リアーナ。今日はポーション作りはお休みよォ。お出かけするわよ」

「ええええー!!あともうちょっとだけ!!」

「ちょっと待ってカトリナ。あと1000本分だけ作らせて。キリがいいから」

「ダメよォ。あなたたちがやめないからアーサーとモニカまでやめられないじゃない。ちょっとはこの子たちのことも考えてあげなさい?」

「むぅぅぅ…」

「別に僕たちのことは気にしなくていいのに」

「そりゃ気にするわよォ。目の前で同じようなものたくさん作られちゃったら。この子たちもなんだかしなきゃいけないような気がするわよ。ねェ?」

なんとかしがみついていたものの、アーサーもモニカももう限界が近いようだった。モニカは疲れた様子でぐったりとソファに倒れこみ、アーサーはヒリヒリする手を振って痛みを和らげようとしている。

「アーサー、モニカ?いつもは1日に何本エリクサーを作ってるのォ?」

「わたしは4500本分の回復液」

「僕は1000本分の調合」

「で?ここ数日は何本作ったのかしらァ?」

「…1日に10,000本分の回復液」

「僕は3500本分の調合…」

「それを3日間も?思ってたよりもオーバーワークだったわァ…」

それを聞いたカトリナは慌ててモニカにエーテルを飲ませ、アーサーの豆ができた手に包帯を巻いてあげた。手当をしている間にカミーユがリアーナとジルに尋ねる。

「で?お前らはどんくらい作ったんだ?」

「あたしは、うーん、覚えてない!!」

「リアーナは1日に15,000本のポーション、僕は4,000本分の調合」

「バカかよ…」

「楽しいね、これ」

「おう!!基礎練の中で一番好きかも!!」

「基礎練しすぎていざってときに魔力カッスカスだったら殴り飛ばすぞ」

「だーいじょうぶだいじょうぶ!まだ半分は切ってないから!」

「おい半分切りかけてんのかよ!!今すぐやめろ!!スライム没収だ!!」

「ぎゃー!!!」

「まったくもう。夢中になりすぎたらすぐ魔力量のこと忘れちゃうんだからァ。ポーション作りは魔力が満タンになるまでお預けよォ」

「あ"ーーーー!!あたしのスライムがぁぁっ!!」

「お前のじゃねえし!!アーサーとモニカのだ!!…っておい、ジル!おまえ手の皮ズル剥けじゃねえか!!」

「え?あ、本当だ」

「慣れてない手で長時間調合なんてするからァ」

「お前も調合禁止な!!」

「いやだよまだリアーナの回復液分調合できてないんだから」

「うるせえ余った分はアーサーに預けとく!!」

「ひぇっ?!」

油断していたアーサーが裏返った声を出した。まさか19,500本分の回復液を押し付けられるとは思っていなかった彼は、ぷるぷるとカミーユを見上げた。カミーユはアーサーの視線に気付かないふりをしてジルから回復液を没収し、アーサーのアイテムボックスに半ば無理矢理詰め込んだ。

「え、ちょ、カミーユぅ…」

「よし、もうポーションごっこはおしまいだ!あとはプロのこいつらに任せとけ。お前らが完成させた12,000本のポーション、半分は俺らのもんにして、残りはユーリに卸すってことでいいか?」

「……」

リアーナとジルはムスっとしながら頷いた。リアーナはモニカの(スライムが入った)アイテムボックスを、ジルはアーサーの(回復液が入った)アイテムボックスにチラチラ視線を向けている。未練タラタラだ。カミーユは彼らの視線を無視して双子に向き直る。

「アーサー、モニカ。こいつらのせいで無理させて悪かったな。あとスライムと薬素材をたくさん消費しちまってすまない。素人が作ったポーションなんて二束三文だろうが、詫びとしてこれで得た収入はお前らのモンにしてくれ」

「えええ?!」

「それはだめー!!」

「いいから言う通りにしとけって。もしいやならそれでユーリにうまいもん食わせてやってくれ」

「…うん」

「よし。じゃあこの話は終わりな。で?アーサー、モニカ。どっか行きたいとこあるか?っつってもなんもねえド田舎だが」

アーサーとモニカは目を合わせてソワソワしながら頷いた。

「あ、あのねカミーユ。わたしたち、このあたりにお友だちがいるの」

「ほう。友だち?」

「うん。牧場をしてるおうちでね、チーズがおいしいんだ」

「チーズ。いいわねェ」

「そこに行きたいなーって思ってるんだけど、ダメかなあ…?」

カミーユはちらっとカトリナを見た。カトリナは少し考えてから双子に尋ねる。

「そのおともだちの苗字はなに?」

「えっと、分かんない…」

「おともだちの名前は?」

「ブグル」

「ブグル…。もしかしてブグルチーズを作っているところかしら?」

「そう!」

「ブグルチーズはここから少し離れた場所にある牧場が製造元よね。ぽつんと離れてるところだわ。うーん…。あんまり知らないわねェ…。ブグルチーズは有名だけれど、製造者のことは分からないわ」

「カトリナでも分からないってことは情報がないってことで。つまりあまり人と関わってこなかった人ってことじゃない?」

「うん。ブグルは友だちがほとんどいないの。おかあさんと牛さんしか話し相手がいないって言ってたよ!」

「そう。じゃあ大丈夫じゃないかしら?アーサーとモニカはそのままの姿でも」

「俺らは?」

「もちろんカールソンの変装をするわよ。アーサーとモニカ、あなたたちと私たちは、遠い町で知り合った友人だってことで話を合わせてちょうだいねェ」

「わかった!」

久しぶりに友人に会えることで、双子は疲れを忘れて大喜びした。ブグルとは何度か伝書インコでやりとりをしていたが、ブグルからは「いつ遊びに来てくれるんだ」という催促ばかりだった。よほど双子と過ごした時間が楽しかったのだろう。

ブグルに会えることも嬉しかったが、ブグルが二人に会って喜んでる姿を想像するほうが嬉しかった。二人は大慌てでおめかしをして(カミーユたちは大慌てで変装した)、ブグルがチーズを作る牧場へ向かった。
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