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初夏編:田舎のポントワーブ

【353話】仮称"森の主"退治出発

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「さて、じゃあ行くか」

双子が森から帰ってきた翌日の夜中、冒険者服を着たカミーユが合図をした。久しぶりに変装を解いたリアーナは気持ちよさそうに伸びをしている。

「んあー!!やっぱりこの服じゃねえと落ち着かねえわ!!カツラあっついしよぉ!」

「私もそっちのリアーナのほうが落ち着くわァ。あの姿であなたの口調は合わなさすぎるもの」

「アーサーとモニカもやっぱりいつもの姿の方がいいね。落ち着く」

女装と男装を解いた双子を見てジルが口元を緩めた。アーサーとモニカはにっこり笑い、彼に向かってピースをする。

「うん!僕もいつもの姿の方が落ち着く!ヒラヒラのスースーじゃない服最高だね!」

「わたしもー!男の子の格好をするのは楽しいけど、胸が苦しくて仕方ないのよね!」

「次はモニカがアンジェラちゃんしてくれる?」

「うん!アーサーはモルしてね!」

「うん!」

「あらあら。アーサーアンジェラとモニカモルはここまでかしらァ。残念だわ」

「むしろよく2日間もやってたな」

「まあ、アーサーはアビーで女装慣れてるだろうしね」

「まったく…。変なことに慣れさせやがって」

他愛のない会話をしながら6人は森へ向かった。姿を見られないよう、フードがついた黒いマントを羽織り歩いていく。田舎なので人とすれ違うこともなくカミーユはホッと胸を撫でおろした。

「…ったく。体休めるために隠居してんのに結局こうなるじゃねえか」

「なにもしてないと訛っちゃうわよォ?」

「動いてないと逆にしんどいよ」

「あたしも魔力パンパンでしんどかったわー!フルで溜まってることなんてここ数カ月なかったからな!」

「あー!それ分かる!魔力パンパンになってると、ちょっと体重く感じるよねえ!」

「モニカも分かるか!そうなんだよー!だからちょっと抜いとかないとしんどいんだよな!」

「二人とも魔力量が多いからかもね。森では控えめにしてよ?近所に家があるんだからさ」

「はーい!」

「おうよ!」

森へ到着した彼らを出迎えたのは低級魔物の群れだった。ウジャウジャと虫型の魔物が足に絡みつき、木の陰からは中型魔獣がこちらを睨んでいる。

「きゃっ!きもちわるいよぉ!」

巨大なミミズのような魔物が足にくるくる巻き付き、モニカは慌てて火魔法を放ちアーサーにしがみついた。アーサーは咄嗟にモニカを抱え上げて地面に足がつかないようにしてあげた。

「モニカ、大丈夫?」

「うぅ、ここ虫の魔物多いよぉ…」

「ウネウネしてるのきらいだもんね、モニカ」

「うん…」

「おいモニカ。そんなんじゃ冒険者名乗れねえぞー。今のうちに慣れとけ」

「森で生活してたときは平気だったんだけど、最近苦手になっちゃって…」

「ふふ。すっかり都会の女の子になっちゃってェ」

「食いもんだと思えばいいんだよ!!こいいうムチムチウネウネのやつらは茹でたらプリップリして美味いんだぞー!!」

「「げぇぇぇ…」」

リアーナのアドバイスにアーサーとモニカは顔をしわくちゃにした。モニカは想像してしまい今にも吐いてしまいそうになっている。わざとかそうでないかは不明だが、カミーユとリアーナがミミズ茹で料理の話で盛り上がってゲラゲラ笑っていた。

「ったく、仕方ねえなあ。モニカが歩けるようにあたしがひと肌脱いでやるとするか!」

笑いがおさまったリアーナは腕をコキコキ鳴らしながら杖を構えた。挑発たっぷりにモニカをちらりと見てニッと笑う。それに気付いたモニカはムッと頬を膨らませた。

「モニカ、大先輩の素晴らしい魔法を見とけよー?魔法使いってのはこういう雑魚を蹴散らすためにいるようなもんだからな!」

「控えめにしろよー」

「分かってるよ!」

リアーナはそう言ってしゃがみ杖を持った手を地面に付けた。短い呪文を唱えると、半径5メートル内の地面を這っていた魔物が一斉に炎で覆われた。苦し気な悲鳴と共に灰になった魔物を見て、モニカとアーサーは「おおおっ!」と感嘆の声をあげた。

「すごい!近くにいた魔物がみんな燃えた!」

「木や草は燃えてないのに!みんな一瞬でブワーって!」

「すげーだろぉ!探知魔法と火魔法の組み合わせだ!探知魔法を巡らせて、探知した魔物を炎魔法でブワーっだ!」

「ちなみにリアーナは探知魔法がそこまで得意じゃないから半径5メートルが限界なんだよね」

「うっせ!これでもすげえ方なんだよ!」

「回復魔法以外は本当に優秀よねェリアーナは」

「回復魔法以外って言うなぁ!」

「探知魔法…!」

はじめて見た魔法にモニカは目を輝かせた。

「リアーナ!私も探知魔法使えるようになる?!」

「あー、できんじゃね?探知魔法ってよっぽどA級レベル以上の魔法使いじゃねえと使えねえけど、まあモニカならいけんだろ」

「ほんと?!教えてくれる?!」

「いいぞー!!来月教えてやる!」

「来月?明日じゃだめ?」

「いんや、来月だ!楽しみはそんときにとっとけよな!」

「来月なにかあるの?」

「おう!あるぜ!でもそれはこの森の件が済んでから教えてやるよ!」

「そういうことだ。ゆっくりしてたら朝になる。さっさと進むぞ」

カミーユが歩き出すと、他のメンバーもあとにつづいた。リアーナが先頭となり弱い魔物たちを一掃しながら歩く。カミーユ、シャナの後ろを双子が歩き、そして双子のうしろをジルが守っていた。
リアーナのおかげでサクサクと進み、アーサーとモニカが「来月」になにがあるのか想像をしてワイワイ盛り上がっている間に、"森の主"の縄張りへたどり着いた。

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