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初夏編:喜びの魔女
【340話】シャナとブナ
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モニカとアーサーが嬉し気に杖と会話している様子を見て、フーワは安堵のため息をついた。
「どうやら杖の声が届いてるようだね。シャナ、あんたからの依頼は完了したよ」
「そのようね。どうもありがとう」
「フーワぁ。あんたの願い叶えてやったよぉ。はやく契約どおり生き血をおくれよぉ」
「御子とその兄がこの小屋を去ってからね」
「んん~!焦らすねえ」
フーワが目で合図をすると、シャナが頷き双子に声をかけた。
「モニカ、アーサー。ブナの意思は戻って来たようね。だったら長居は無用よ。はやくこの小屋を出ましょう」
「シャナ!!シャナも杖に声をかけてあげて!!」
「杖も!シャナとまた会えて嬉しいでしょ!?」
《……》
「……」
モニカが杖をシャナに差し出すが、二人とも何も言わない。双子が首を傾げていると、シャナがやっとの思いで声を絞り出した。
「…モニカ。私にはもうブナの声は聞こえないわ」
「え…」
「ブナの声が聞こえるのは加護の糸で繋がっているあなたたちだけ。無理矢理引き戻したブナの声は、もう私には届かないの」
《…だろうと思った》
「そんな…」
「シャナだって、たくさん杖のために…」
「あれは代償に近いの。でも、私の声はブナには届いているはずよね。だったらやっぱり挨拶しなくちゃね。ブナ」
《…シャナ》
「戻ってきてくれてありがとう。そして、あの時この子たちを助けてくれてありがとう」
《我は助けることができなかったのだ。主らを助けたのは、おまえだろう》
「これからもモニカとアーサーをよろしくね」
《ああ。おまえが与えてくれたこの入れ物と力で、我は主らを守り抜くと誓おう》
「…おかしいわね。私にはもうあなたの声が聞こえないはずなのに。手に取るようにあなたが何を言っているのかが分かるわ。…おかえりなさい、ブナ」
《…シャナ。我は…おまえに作られた杖でよかった。我を生み出してくれたこと、感謝する》
シャナがブナを指で撫でると、それは心地よさそうにホワホワと光を放った。言葉を交わせなくても通じ合っている二人に、双子の目頭が熱くなった。
「モニカ、実はね。この子、私がはじめて一人で作った杖なのよ」
「ええー!?そうなの?!」
「ええ。杖師が初めて作った杖はだいたい傑作が生まれるのよ。それがこの子。だから愛着があってね。相応しい魔法使いが現れるまで売らないって決めてたの。だからかしら。この子、とても偉そうになっちゃって」
「そんな思い入れのある杖を渡しに売ってくれたの?!」
「ええ。あなたを一目見て、私もブナも、あなたがいいって思ったの。美しい魔力に計り知れないほどの魔力量。それに、あなた自身もとても澄んでいて綺麗だった。モニカ、あなたにブナを預けて本当によかった。これからもブナをよろしくね」
「うん!!!シャナ、大切なブナを私に預けてくれてありがとう!!わたしもブナのこと、ずっとずーっと大切にするよ!!!」
モニカとシャナは微笑み合った。シャナがブナから指を離すと、ブナが寂し気にプルプル震えた。シャナも目じりに指を当てて涙を拭っている。頬を軽く叩き首を振ってから、双子に笑顔を向けて彼らの背中を押した。
「さ!早くこの気味の悪い不快な小屋におさらばしましょう!これ以上あなたたちをミジェルダの好きにはさせたくないし!!」
「え?僕たち別にミジェルダさんに何もされてないけど…」
「そうね!直接的には何もされてないわ!詳しいことは言いたくないから聞かないでちょうだい!早く出ましょ?ね!あなたたちもはやくカミーユたちとどんちゃん騒ぎしたいでしょう?」
「したい!!」
「したいー!!!」
カミーユの名前を出されてしまい、いてもたってもいられなくなったモニカとアーサーは、そそくさと帰り支度をしてドアの前に立った。フーワはまだ小屋に残るようで、ミジェルダと共に双子とシャナを見送ろうとしている。双子はエルフと魔女にぺこりと頭を下げた。
「フーワさん!ミジェルダさん!お世話になりました!」
「杖を元に戻してくれてありがとう!!」
「いいよぉいいよぉ。あんたちのお願いならなんだって聞いてあげるよぉ~。フーワを通さなくたって、私に会いに来ていいよぉ?フヒヒッ!なんならあんたらの両親を呪い殺してあげようかぁ?」
「ひぃぃぃっ。結構ですぅぅっ…」
「御子とその兄よ。お役に立てて光栄でございました。また何かございましたら、なんなりとお申しつけください。あなたさまが望むのであれば、御子を苦しめた人間どもを全員ミジェルダの餌といたしましょう」
「ウヒィッ!!それはいいねえ!!!人間の皮がちょうど足りてなかったんだぁ!それに、生きたまま肺を取り出して鑑賞したいとも思ってたぁ…!ヒヒッ!ヒヒィッ!!」
「ひぃぃんっ…。やめてぇぇぇっ…」
「アーサー、モニカ。この二人の言葉に耳を傾けないで頂戴。本当に頭がおかしいの。さあ、行くわよ」
シャナはアーサーとモニカの耳を塞ぎながらそそくさと小屋を出た。山を降りている間も、小屋からミジェルダの気味わるい笑い声がはっきりと聞こえてきた。
杖の意思をやっと取り戻すことができたこの日は、杖が砕け散ったあの日から約3か月が経っていた。これからまた、アーサーとモニカ、そして杖の、賑やかで騒がしい日々が始まる。
…杖はまだ知らなかった。モニカの手元にもう一つ、意志を持つモノがあることを。
「どうやら杖の声が届いてるようだね。シャナ、あんたからの依頼は完了したよ」
「そのようね。どうもありがとう」
「フーワぁ。あんたの願い叶えてやったよぉ。はやく契約どおり生き血をおくれよぉ」
「御子とその兄がこの小屋を去ってからね」
「んん~!焦らすねえ」
フーワが目で合図をすると、シャナが頷き双子に声をかけた。
「モニカ、アーサー。ブナの意思は戻って来たようね。だったら長居は無用よ。はやくこの小屋を出ましょう」
「シャナ!!シャナも杖に声をかけてあげて!!」
「杖も!シャナとまた会えて嬉しいでしょ!?」
《……》
「……」
モニカが杖をシャナに差し出すが、二人とも何も言わない。双子が首を傾げていると、シャナがやっとの思いで声を絞り出した。
「…モニカ。私にはもうブナの声は聞こえないわ」
「え…」
「ブナの声が聞こえるのは加護の糸で繋がっているあなたたちだけ。無理矢理引き戻したブナの声は、もう私には届かないの」
《…だろうと思った》
「そんな…」
「シャナだって、たくさん杖のために…」
「あれは代償に近いの。でも、私の声はブナには届いているはずよね。だったらやっぱり挨拶しなくちゃね。ブナ」
《…シャナ》
「戻ってきてくれてありがとう。そして、あの時この子たちを助けてくれてありがとう」
《我は助けることができなかったのだ。主らを助けたのは、おまえだろう》
「これからもモニカとアーサーをよろしくね」
《ああ。おまえが与えてくれたこの入れ物と力で、我は主らを守り抜くと誓おう》
「…おかしいわね。私にはもうあなたの声が聞こえないはずなのに。手に取るようにあなたが何を言っているのかが分かるわ。…おかえりなさい、ブナ」
《…シャナ。我は…おまえに作られた杖でよかった。我を生み出してくれたこと、感謝する》
シャナがブナを指で撫でると、それは心地よさそうにホワホワと光を放った。言葉を交わせなくても通じ合っている二人に、双子の目頭が熱くなった。
「モニカ、実はね。この子、私がはじめて一人で作った杖なのよ」
「ええー!?そうなの?!」
「ええ。杖師が初めて作った杖はだいたい傑作が生まれるのよ。それがこの子。だから愛着があってね。相応しい魔法使いが現れるまで売らないって決めてたの。だからかしら。この子、とても偉そうになっちゃって」
「そんな思い入れのある杖を渡しに売ってくれたの?!」
「ええ。あなたを一目見て、私もブナも、あなたがいいって思ったの。美しい魔力に計り知れないほどの魔力量。それに、あなた自身もとても澄んでいて綺麗だった。モニカ、あなたにブナを預けて本当によかった。これからもブナをよろしくね」
「うん!!!シャナ、大切なブナを私に預けてくれてありがとう!!わたしもブナのこと、ずっとずーっと大切にするよ!!!」
モニカとシャナは微笑み合った。シャナがブナから指を離すと、ブナが寂し気にプルプル震えた。シャナも目じりに指を当てて涙を拭っている。頬を軽く叩き首を振ってから、双子に笑顔を向けて彼らの背中を押した。
「さ!早くこの気味の悪い不快な小屋におさらばしましょう!これ以上あなたたちをミジェルダの好きにはさせたくないし!!」
「え?僕たち別にミジェルダさんに何もされてないけど…」
「そうね!直接的には何もされてないわ!詳しいことは言いたくないから聞かないでちょうだい!早く出ましょ?ね!あなたたちもはやくカミーユたちとどんちゃん騒ぎしたいでしょう?」
「したい!!」
「したいー!!!」
カミーユの名前を出されてしまい、いてもたってもいられなくなったモニカとアーサーは、そそくさと帰り支度をしてドアの前に立った。フーワはまだ小屋に残るようで、ミジェルダと共に双子とシャナを見送ろうとしている。双子はエルフと魔女にぺこりと頭を下げた。
「フーワさん!ミジェルダさん!お世話になりました!」
「杖を元に戻してくれてありがとう!!」
「いいよぉいいよぉ。あんたちのお願いならなんだって聞いてあげるよぉ~。フーワを通さなくたって、私に会いに来ていいよぉ?フヒヒッ!なんならあんたらの両親を呪い殺してあげようかぁ?」
「ひぃぃぃっ。結構ですぅぅっ…」
「御子とその兄よ。お役に立てて光栄でございました。また何かございましたら、なんなりとお申しつけください。あなたさまが望むのであれば、御子を苦しめた人間どもを全員ミジェルダの餌といたしましょう」
「ウヒィッ!!それはいいねえ!!!人間の皮がちょうど足りてなかったんだぁ!それに、生きたまま肺を取り出して鑑賞したいとも思ってたぁ…!ヒヒッ!ヒヒィッ!!」
「ひぃぃんっ…。やめてぇぇぇっ…」
「アーサー、モニカ。この二人の言葉に耳を傾けないで頂戴。本当に頭がおかしいの。さあ、行くわよ」
シャナはアーサーとモニカの耳を塞ぎながらそそくさと小屋を出た。山を降りている間も、小屋からミジェルダの気味わるい笑い声がはっきりと聞こえてきた。
杖の意思をやっと取り戻すことができたこの日は、杖が砕け散ったあの日から約3か月が経っていた。これからまた、アーサーとモニカ、そして杖の、賑やかで騒がしい日々が始まる。
…杖はまだ知らなかった。モニカの手元にもう一つ、意志を持つモノがあることを。
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